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北の魔女  作者: 覧都
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貧民の涙

「本当に分からないの」


少し驚いてあいが質問する。

まなは、あいに会えた喜びでもう何でもよくなっている。


「私は貧民だから臭いのよ、言わせないで」


そう言うと悲しそうな顔をした。

そうかこのだめな台所の三角の奴の臭いは、あいちゃんの体臭だったのか。確かに臭いなー。


「あいはいい匂いだよ」


キキはあいに抱きつき顔を埋めて思い切り息を吸い込み、幸せの顔をしている。

本当にいい匂いと感じているようだ。


「変な子ねー」


あいはそう言いながらもキキの頭を撫で少し嬉しそうだった。


「食べ物―、食べ物―」


キキが何か食べ物の匂いに気がついた。

あいが服をごそごそして


「これの事かな」


パンを出した。


「私のお昼ご飯だけど」


「おおー」


キキの目がキラリと光り。

バッ、あいの手からそのパンを奪い取った。


「あっ、食べちゃだめ」


あいが言った時には、もうキキはパンを食べていた。


「うまーい。うまーい。」


キキがあまりにも、おいしそうに食べていたので、まなも食べたくなって


「キキちゃん少しちょうだいね」


パンの端っこをほんの数ミリ摘まみ口に運んだ。

口から噴水のように胃の中の物が飛び出した。胃がこんないけない物を食べてはいけませんと洗い流すように、胃袋が梅干し位に一気に縮んだ。

まなは、あいに申し訳なさそうに下を向いた。

あいはおかしそうに笑うと。


「このパンはカビて腐っているから、普通の人は食べられないのよ。私だって時々お腹こわすのよ」


「人肉の味、うまーい」


パンを食べ終わったキキは笑顔だった。

そして、またあいに抱きつくと


「もっと食べたーい、人肉もっと食べたーい」


「はい、これで最後よ」


あいは反対のポケットからもう一つパンを出した。


「キキちゃん人肉じゃないよ、パンだからね」


まなが少し困り顔で言う。

キキちゃんにはあのパンが人間の肉の味なんだ。これも封印魔法の影響かな。


「ねえ、食べさせちゃったけど大丈夫かな」


心配そうに、まなに話しかける。


「平気、平気、キキちゃんのお腹は特別製だから」

「ところで、あいちゃんはここで何してるの」


「私はここで授業を受けているのよ」

「ほら私って臭いでしょ、教室に入ると皆に迷惑がかかるから」

「ここなら教室の様子がよくわかるし、私の臭いは届かないから」


そう言うとあいちゃんの目から大粒の涙がぽたりぽたりと落ちた。


これはいじめかー、いじめなのですかー。私の親友のあいちゃんを泣かすなんて。

でも、私に責める資格があるのか。

もし、あいちゃんじゃない人がこの臭いなら、同じ教室で授業は受けられないと思う。私も最低だ。


この世界には階級があり、貧民は最下層。死刑より重い刑に、貧民落としという刑がある位だから貧民の暮らしの辛さは私には想像出来ない。


あいちゃんは、私に今までの事をぽつりぽつりと話してくれた。私は黙って聞くことしか出来なかった。泣いてもなにもならないけど、あいちゃんの話を聞いているうちに私の目から涙が流れていた。


「まなちゃん、ありがとう、私、学校でこんなに話をしたの初めて、変な話をしてごめんなさいね」


グーグー

気持ちよさそうにキキはあいの膝の上で眠っている。


「まなちゃん、キキちゃん寝ちゃったね」


「そうだね、あいちゃんの膝の上で幸せそう、そうだお昼たべよっか」


少しお昼を過ぎていたのでまなが提案する。


「キキちゃんお昼ご飯だって」


あいはキキの体を優しく揺すると話しかけた。


「いらなーい、人肉以外食べなーい」

「あいーいい匂い、とろけるー」


「もお、キキちゃんたらー、嬉しいけど、乙女としては複雑」


あいは赤くなっていた。


「あいちゃん、これ、二人で食べましょうか

キキちゃんが食べた分の替わりだから、遠慮しないで食べてね」


「すごいお弁当、こんなおいしそうな食べ物見るの初めて」


ゴクリあいがつばを飲む。


「食べて、食べて」


まなが笑顔で進める。

あいは手を出すことなく見つめている。


「どうしたの、あいちゃん」


「私の分、わけてもらって、もって帰ってだめかな」


「えっ」


「弟と妹に食べさせてあげたいの」


あいちゃんは、やっぱりいい子だなー。まなは感動していた。


「全部あげる持って行って」


「だめよ、そんなにもらったら受けた恩を返しきれないもの」


そう言うとあいは立ち上がってしまった。

膝の上に乗っていたキキがポーンと飛ばされ

地面に落ちる。


「あああ、ごめんなさい、キキちゃん痛くなかった」


狼狽してあいがキキを抱き起こす。


「痛かった」


キキが答えている横で、まなは頭を抱えている。

キキちゃんたら、鬼なのだから痛くないでしょうに、甘えているなー。

でも、どうしよう、あいちゃんは、人には何でもホイホイあげるのに人から物を貰うの嫌悪する人だからなー。

とりあえず話題をそらさなきゃ。


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