魔王軍との戦い
イナ国とヤパ国国境
ヤパ国はイナ国の西隣の国である。
兵士に付き添われ、あいとサイは国境の手前まで移動符で移動してきた。
少し歩くと線もなにも無いが兵士が立ち止まり、
「我々はここまでです」
「このまま真っ直ぐ進めばヤパ国セキの街があります」
「お達者で!」
「ありがとうございます」
ヤパに入ると伍イ団の四人が待っていた。
気まずそうにサイが付いてきていた。
「どうする」
国外追放になった原因の、張本人である。
四人の内心は放って置きたかった。
「サイ様よかったら一緒に来てください」
あいが笑顔で言った。
四人は、まあ、あいちゃんだからなー。と、思った。
「良いのか」
あいは頷いた。
「ガイさん、この先で魔獣と兵隊さんが戦っているのでしょ」
「そこへ行きたいのですが」
「わかった、行こう」
ヤパ国の南は、北の魔女の森と同様の大きな森があった。
人はこの森を、南の魔王の森と呼んだ。
北の魔女消失により、魔王軍が大攻撃をしてきた。
その攻撃は、ヤパ国が防いでいる。
魔王の世界に蓋をする形でヤパ国があり、この国が魔王の攻撃を一手に引き受けている。
加護するのは北の魔女本人、ヤパ国民は魔力増強の加護を受け、魔王軍と日々戦っている。
伍イ団が向かっているのは、魔王の森の西側、森の手前に広がる草原。
そこにいるのは、魔王軍の右翼軍。中央と比べれば緩い戦力である。
ここに、イナ国とオリ国、ヤパ国の三国連合軍が布陣して戦っている。
各国五千の戦力、合計一万五千で戦っていたが今は、一万二千人程に減っている。
敵は魔人が一人に魔獣が三十匹、大小様々だが、一番でかいのでもイネスの魔獣の三分の二程度だ。
それでも飛び道具のないこの世界では戦うのが大変で、長い槍を使い、ちまちま攻撃したり。丸太を大勢でぶつけたり、鈎の付いたロープで動きを妨害したり苦労している。
戦果は三千の兵士を失い、魔獣を二匹倒しただけである。
太陽が随分傾いたときその戦場に異様な男が二人現れた。
一人は刃渡り八十センチの青竜刀の付いた槍を持ち、ひとりは刃渡り二メートルの剣を持った男である。武器が異常に長かった。
草原を黒い人影と赤く眩しい反射光がゆっくり移動していく様は幻想的だった。
魔獣の一匹がこの異様な人影に気が付き剣の男の方に駆けてくる。
「じゃあ、ガイさんあいつがお呼びだからいってくる」
「怪我しないようにね」
ロイは走ってくる魔獣をかわしながら、剣を出すと魔獣の体の側面に、何の抵抗もなく剣が入って行く。
痛みからもがく魔獣の頭に上から下に剣をおろした。
魔獣の頭がパカッとわれ、ザーーと体液が流れた。
「すげーなーこの剣、めちゃめちゃ切れる」
ちらちらとガイを探すとガイも槍を魔獣の頭にスーと差し込んでいるところだった。
「ガイさんの槍もすげーなー」
一番でかい魔獣の前にも人影があった。
その人影は武器も持たず、スカートを風になびかせていた。
魔獣が突進してくると、すっとかわし、横に回り込むと、手のひらを魔獣に当てた、そこに向かって渦巻き状に皺が入り、体の組織がそこに吸い込まれた。
パチンと弾けるように体が破壊されると、ザーと体液があふれ出した。
柵の向こうの側の待機兵達が、この光景をみて歓声をあげた。
「わーあーあー」
イナ軍が待機している所に場違いな白い美少女がいた。
「師匠」
イナ軍所属のササ領兵がその少女をそう呼んだ。
「ササ領兵ですか」
「はい、ササ領まじない組です」
ササ領で南トラン軍と戦う前日、休日を共に過ごした者達だ。
彼らは異常な戦闘能力の高さから、ササ領ではあいからおまじないを受けたことから、まじない組と呼ばれていた。
「何人いますか」
「五十名来ています」
「出現」
ドサドサ、目の前に武器が出て来た。白い美少女は消去と出現が使えるようだ。
これは日本刀、アド正という武器だそうです。
これは、あいが牢に入れられている間に、まなが錬金魔法で作った刀だ、刀自体に錬金時、強化魔法もかけられている。
北の魔女が正真正銘作った名刀ということになる。
アド正というネーミングはセンスなさ過ぎだが…、
使い方はこう、白い美少女が刀を構え振ってみせる。
「手柄を立てる良い機会です。これを持って魔獣を切りつけてください」
「早くしないと、魔獣がいなくなるといけません頑張って来てください」
「はい、メイ師匠」
五十名のまじない組は一軍団となり、魔獣を目指した。
「消去」
メイは余った刀をかたづけた。
その後、メイはイナ軍のけが人を治癒した。
その光景をすべて見ていたサイは伍イ団のすごさを実感していた。
サイは魔人の前に向かう女の子の後ろ姿を目で追っていた。
時々吹く風に髪とスカートを揺らしながら、一歩一歩、ゆっくり近づく。
「やっぱりすげーなあいちゃんは、魔法も使わずに素手であの魔獣を一撃かよ」
そこにはいつか想像したあいの姿があった。
ロイは三匹目の魔獣を倒し、小休止することにした。
レイが魔獣の治癒魔法をかけるのにひーひー言っているからだ。
ここでも伍イ団は魔獣を殺さないで戦っていた。
「ガイさんもロイ君も、もう少し近くでやっつけてよね」
「あっち、こっちでやられたら、治癒が大変なんだから」
「じゃあ俺は、グエン商会へ行ってくるよ、もう魔封石が満タンなんだ」
「じゃあさっさと行ってください」
「レイさん、あれを見ろよ」
「ぎゃーー、何してくれちゃってんのよー」
見ると、五十人の集団が、魔獣を狩りまくっている。
「はー、ロイ君行ってくる」
「もー、ロイ君は狩らなくて良いですからね」
よろよろレイが倒された、魔獣の所へ向かう。