王城訪問
イナ国
王城は、王都イネス中央に位置する。
ドーム状の屋根に覆われた城であり、アドの魔法により組み上げられた城である。
城の入り口に伍イ団の姿があった。
衛兵にガイが話しかける。
「伍イ団ですが」
「どうぞ」
あいがガイのまねをして
「貧民のあいですが」
衛兵が笑顔になり
「あなたが、あいさんですか」
「お会いできて光栄です」
「どうぞ、お入りください」
この国の兵士で伍イ団を、知らない者は最早いない。
本日の伍イ団は、あいを除いて新調した服を着ている。
四人は左肩に大きく○の中に、伍の文字を入れて刺繍されている。
白をベースに青で飾りの柄をしつらえてある。
ぴかぴかの銀色の防具は金の縁取りで、光の反射で時々赤く光る、それはあいの魔法が施されている証拠である。
通されたのは大広間ではなく、やや小さめの部屋である。
だが、部屋の装飾は豪華で、高級貴族用の部屋である事が分る。
部屋に入ると、大人姿のシャムもグエン商会の受付嬢もいる。
ササがあいの貧民服姿を見て青い顔になり口をパクパクしている。
他にも偉そうな貴族がいたが、伍イ団では誰も知らない人だった。
今回が、高級貴族と伍イ団の初顔合わせの機会ということなのだろう。
王様が遅れて室内に入り玉座に座る。
伍イ団も他の貴族達も平伏している。
シャムと受付嬢だけは普通にしている。
王が手を差し出し、
「楽にして良いぞ、今日は堅苦しい場では無い」
声を掛ける。その時ピクンと体が反応した。
一点を見つめる、視線の先には一人の貧民がいた。
王の表情がみるみる怒りの表情になり
「なんで貧民などがいるのだー」
「貧民など王城に入っただけで死罪じゃー」
「明日朝一番で城門前で斬首にせよ」
「衛兵連れ出せー」
あいは何の抵抗もせず、槍をかまえた衛兵に囲まれ連れ出されてしまった。
ロイは怒りに震えていた。
貧民がだめならおれだって死罪じゃねえか。
国王ぐれー、素手でも殺せるぞ。
そう考えているとき、ぎゅっと手を掴む者がいた。
メイだった。
横目でみると複雑な表情で首を小さく横に振っていた。
あいは牢獄に収容された。
牢の衛生状態は悪く、床はヌルヌルしていて、それを栄養として小さな虫がうごめいていた。
あいは、泣いていた。
牢が汚いからでは無い、貧民が苦しい暮らしから抜け出せないのは、こういう現状だからなのだと理解したからだ。
貧民は呼び出されて訪問しても死罪、ここまで酷いなんて。
この牢にしたってそう、罪人はここが酷い環境で、ここにいること自体が罰なんだわ。
でも、貧民はみんなこんな所に住んでいるのよ。
ヌルヌルする床にゴロンと横になり、目の前をうごめく虫を捕まえ、ポイポイ、口に入れだした。
いっぱいいるわねー、誰も食べないのかしら。
近くのむしを全部食べたあいは、牢の鉄格子から手を伸ばし廊下の虫までたべだした。
「やたー」
廊下で少し大きめの虫を捕まえ喜んで、パクッと口に入れた瞬間、
「あいちゃん!」
レイが訪ねてくれた。レイの顔が青くなる。
あいの口から黒い虫の足が二本出ていて、ガチャガチャ動いている。
「あ、あいちゃん、おいしいの」
「凄くまずいわよ、でもね食べないと生きられないの」
「元気そうで良かった」
「わたし、明日、死刑なのかな」
「大丈夫、皆で助けるから」
「だめよ、皆が罪人になってしまうわ」
「わたし、罪を受け入れようと思うの、貧民が罪で死罪なら、死刑で良いわ」
「なにをいうの、らしくないよ、あいちゃんらしくない」
「こんなところぶっ壊して今から逃げましょう、あいちゃんなら出来るでしょ」
あいはブンブン首を振る。
「貧民がそんなことすれば、他の貧民の風当たりが強くなります」
「わたしが大人しく死ぬ事が貧民のためなんです」
「イナ国のために頑張った貧民が、貧民であったために死刑になる、それで少しでもかわいそうと思う人がいればいいです」
「小さいですねあいちゃんは、そんなことで変るならとっくに変っていますよ」
シャムが笑顔であいに話かける。
その後レイの方を見る。
「あなたはどうやってここへ」
レイはあたまを掻きながら、
「兵士の方が意外とあっさり通してくれました」
「伍イ団だからしょうが無いってことか」
「まあ兵士は厳重注意だな」
「シャム様はどうしてここへ」
シャムはレイの問いには答えず階段の方を見た。
階段から声が聞こえる
「やめろーー!」
「離せわしを誰だと思っておるのだー」
立派な髭のおっさんが運びこまれ、あいの向かいの牢にいれられた。
「ひいいーー」
「なんだここは、ヌルヌルではないか」
「汚い臭い、おいお前、こんなことをしてただで済むと思うのか」
「くそー、くそー、くそっ、くっそー」
「うるさいぞ、サイ、黙って牢にはいっておれ」
シャムが怒鳴った。
「アド様から罪人あいへのお言葉である、謹んで聞くように」
シャムが言葉を切った。
レイがあいをツンツンする。
あいは、あっという表情で
「はい、承ります」
正座をして頭を下げる。
「この度、元国王サイがアド様に不敬を働いたために、死罪となった」
「しかし、新王サキ様の恩赦のおかげで、元国王サイと、罪人あいは、国外追放と沙汰が決まった」
「明日、日の出と共に刑を執り行う、以上」
「あいちゃん」
レイが、大喜びで鉄格子越しにあいを抱きしめた。
受付嬢があいに心配そうな顔で話しかける。
「あいさん、牢は恐くなかったですか、気持ち悪くなかったですか」
「今日の夜半には出られます、もう少しの辛抱ですからね」
あいが少しでも早く牢から出られるようにするため、アドとシャムと受付嬢が、色々便宜を図っていたようである。
日の出と共にということなら、準備のため夜の内に牢からだして貰えるのだ。
「ぎゃはは」
レイがおかしそうに笑う。
「なにがそんなに可笑しいのですか」
受付嬢が少しムッとしてレイを見る。
「だってあいちゃん、ここの牢の虫を捕まえて食べていたのですよ」
「ここが気持ち悪いなんて全然思わないですよ」
虫を食べていたと聞いて、シャムも受付嬢も笑い出した。