思い出の味
「皆さんが揃わないのでずっと待ってもらっていました」
「いつ訪問されますか」
あいは四人の顔を見回した。そして悲しい顔をして口を開いた。
「あのー行きたくありません」
「わたしは貧民です、嫌われ者です」
「王様にあってどうしろと言われるのですか」
「王様は、イネスでの討伐、ササ領での討伐、南トランの戦争の事で、伍イ団に感謝を述べたいとのことです」
「気楽な気持ちで大丈夫だと思いますが」
メイが仕方ないなーという表情であいに語りかける。
「あいちゃん、王様の招待は断れません、誘われてしまえば行くしかありませんよ」
あいは、その言葉を聞くと、顔を曇らせた。
その後仕方が無いなーという表情になった。
「わかりました、明日は無理なので、それより後ならいつでもいいです」
「他の皆さんは大丈夫ですか」
四人はふんふん頷いた。
「たぶん、明後日になると思いますが、空けて置いてください」
受付嬢が個室を出て行くと、伍イ団も解散した。
翌日
待ちに待ったお昼、あいはご機嫌だった。
この世で一番好きな人、二人に会うのだから。
学園の花壇に行くと少し早すぎてまだ誰もいなかった。
今日のため少し臭う貧民服を着てきた。人肉パンもある。完璧だ。
ニコニコしながら待っていると、まなとキキがやってきた。
「まなちゃん、キキちゃん」
あいが手を振る、軽く振っているのだが、余りに速すぎて手がきえてしまっている。
「あいーー」
キキが駆け寄ってくる。
抱きつくと、くんか、くんか匂いを嗅ぎ、良い匂いと溶けそうな表情をする。
「もーキキちゃんは相変わらずねー」
あいもトロケそうな表情で嬉しそうである。
「久しぶりあいちゃん」
「まなちゃん」
あいはキキをひっつけたまま、まなに抱きついた。
久しぶりの再会である。
遅れて、ミミとルシャも来た。
今花壇には、左から、まな、あい、あいに抱き付くキキ、キキに抱き付くミミ、ミミに引っ付くルシャの順に座っている。
シャムが移動符で大きな台車と共に現れた。
シャムは花壇に並ぶ一堂を見て、ミミの美少女かげんは頭一つ抜きん出ていると思った。次があいちゃんかな。まな様は、まずまずだけど、この中では普通だと思った。
台車から皿に乗った食べ物をまなが取り出した。
シャムと二人で一皿ずつ皆に配った。
皆に行き渡ると自分のも一皿持って、もといたあいの隣に座った。
「皆さん、お替わりもありますからね。ではいただきます」
まなが音頭をとった。
「いただきまーす」
皿の上に乗っているのは、手づかみでも食べやすいように、油控えめでこんがりやいた餃子だった。
昨日頑張って一杯作ったのだ。
父直伝の家族の味、あいに食べてもらいたかったのもあるが何より自分が食べたかった。
日本では、アイちゃんも一緒に食べて、おいしいと言ってもらった懐かしい味。
一個目を恐る恐る食べた皆だったが、その後はガツガツ食べ始めた。
本当は、お味噌と酢と醤油があるともっとおいしいのだけどね。
まなはこの世界に来て、お味噌と醤油、酢と砂糖を探していた。
未だに手に入っていない。
「まなちゃんすごくおいしい」
目をキラキラしてあいがまなを見る。
「そのー、一皿もらって持って帰っていいかな」
「いいに決まっています」
まなが台車から一皿持ってくると、あいが
「消去」
一皿の餃子が消えてしまった。
「な、なにいまの」
驚いた表情でまながあいを見る。
「あー、これは消去の魔法」
「出現」
あいの視線の先に餃子が出てくる。
「消したり、出したり出来るのよ」
まなは黙り込んだ。
なにやら考え込んでいるようだ。
「あいちゃん、消した物って何処へ行っているのか分る」
「考えたことも無いけど」
「どの位消せるの」
「気にしたことがないけど、いくらでも消せそうな気がします」
「わたしを消してほしいのだけどできますか」
「はい」
「わたしを消してゆっくり三百を数えて出現させてください」
「出来ますか」
「できます」
「じゃあ、お願いやってください」
「消去」
まなは真っ暗闇の中に上も下も分らない所に出た。
「火」
周りが明るくなったが何処まで先があるのかは分らなかった。
心の中に燃え続ける火を思い浮かべた。
「太陽よ出ろ」
丁度地球で見るような太陽が出た。
辺りが明るくなりよく見えるようになった。
どうやら、ここは、宇宙のように広い無限の空間に思えた。
これなら、いける。
「餃子よ、でろー」
今、食べていた餃子が一個出て来た。まなが想像していたままの餃子だった。
まなは、凄く大きな餃子が出るか、ものすごい数の餃子が出るのかと思っていた。
たぶん、北の魔女の呪いがわたしの魔力の暴走分を相殺して、思った通りの分量の物質を出せるということね。
すごい、錬金魔法は暴走しないということだわ。
北の魔女様が禁止しているのだから、余り使わない方がいいとおもうけど、自由に使える魔法が初めてできたわ。
このあいちゃん宇宙、せっかくだから地球と月も作っちゃお。
まずは、足下に地球
「地球よでろー」
「そして、月よでろー」
大地と海だけ、命の無い地球と月が出た。
「つーか、どんだけ広い空間だよー」
「おかえりまなちゃん」
三百数え終わったあいにこっちへ出現された。
「ただいま、あいちゃん」
「どうでした」
「実験成功よ」
まなは、台車に近づき台車の上に、大きな皿をイメージし、
「大皿」
台車の上に少しはみ出るくらいの皿がでた。
「餃子」
大皿の上に山盛りの餃子がでた。
「ちょっとこれ食べてみて」
皆が駆け寄り食べ始める。
「あーーあ、こっちの方がおいしい」
「でしょ」
「これが防家の本当の餃子の味」
「隠し味の味噌、醤油、お酒、調味料が全部はいっているからおいしいのよ」
シャムも、ルシャもバクバク食べていた。
ニラやタマネギも入っているが、魔人化しているから関係ないらしい。
「まなちゃん、牛乳って出せますか」
「あいちゃん、わたしもっとおいしい物を知っているわ」
手に輪っかを作ると、
「濃厚ソフト」
輪っかの中にコーンカップに入ったソフトクリームが出た。
「あいちゃん、どーぞ」
あいは受け取り、一口食べると、ぺたんと座り込んでしまった。
腰から下の力が抜けてしまったのだ。
まなの方を見ると涙目になり、
「まなちゃん、おいしすぎます」
全員でおいしく食べた。
あいは六回おかわりをした。
キキは、あまりにも皆が、おいしい、おいしいと言っているので、食べてみたが、食べた瞬間噴水がでて、あいに抱きついていたため、かけてしまった。
キキは人肉以外食べられないようだ。
今日からはまなちゃんとキキちゃんにいつでも会える。
ニヤニヤが止まらないあいだった。