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北の魔女  作者: 覧都
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武術の師匠

一般兵にとって百人の魔法使いの火炎はすさまじかった。

だが、その炎はあいの防御壁の前では無力だった。

何も見えないがそこには壁があり、魔法が遮られるのである。

よせばいいのに、メイがかわいい顔して、あかんべーをしている。


「馬鹿者! 魔力を出し惜しむな、全力で出し切れ」


太い魔道士が叫ぶ。

魔力を出し切った兵士がバタバタ倒れる。


「馬鹿な、何なんだこれは」

「百人分の魔法だぞ」


この世界では、同系の魔法は足し算だ。

一人、一の魔法でも二人なら二となり、百人なら百となる。




「やれやれ、まさかお前達が出ることになるとはな」


少し焦っていたようにも見えたが、落ち着きを取り戻し馬車の三人を見る。

馬車から三人の魔道士が飛び降りた。

それは、この三人の魔法の方が百人の魔法より大きいことを意味する。


「もう一度いってやろう、降伏するならいまだぞ」


「全員で攻撃した方が良いと思うけど」


そう言うと、よせば良いのにかわいい顔をして、メイがもう一度あかんべーをする。


「ぐぬぬー、やれー、手を抜くな全力だー」


巨大な炎がメイを焼き尽くそうと襲いかかる。


「きゃああー」


メイの絶叫である。


炎は壁で完全に遮られている。

熱でも襲いかかったのかと、イナ軍の者達は心配した。


「全然、なんともなーい」


メイはとびきりかわいい笑顔である。

三人の魔道士達は、魔力を使い果たし、膝を突いている。


「きさまー、舐めるのもいい加減にしろ」


太い魔道士が激怒し、目は血走り、頭から湯気が出ていた。


のそりのそりと馬車を降りると、赤い口紅の魔道士と並んだ。


「業火」


最初から全力、全開の魔法である。


「きゃあああー」


メイの絶叫である。


もはやメイの心配はイナ軍では、誰もしていなかった。


太い魔道士も、赤い口紅の魔道士も膝を突いてメイを見る。


お尻ペンペンをしている美少女の姿があった。

その美少女の短いスカートから白い物がちらりと見えている。


その後、魔道士部隊は姿を消した。その場で消えてしまったのだ。


伍イ団の四人はあいを見た。

あいは、何で分ったのという表情で驚いていた。


メイが自軍に向かって言う。


「勉強になったかしら?」


「あんた、なんにもしてないだろー!」


全員、心で思ったが誰も口にするものはいなかった。


こうして魔道士隊を撃退したイナ軍に、攻撃する敵兵はいなかった。

この間にイナ軍は森から次々自軍を助け出した。


両軍、にらみ合いのまま時間は過ぎた。




ぼわーーん、ぼわーーん

南トラン軍の引き上げの銅鑼がなり、長い一日が終わった。


ササ陣と対峙している南トラン軍はほっと胸をなでおろした。




日が暮れるとササ軍と、ササの陣にいたイナ軍と、伍イ団は忙しかった。

こぼれ落ちる命がないよう細心の注意で自軍の兵士を探し、メイとレイが治癒と回復をかけた。

メイとレイが疲れると、あいが二人に治癒と回復をかけた。


何度目かのあいの魔法でレイに異変が起きた、目があり得ないほど赤く光っていたレイの目から光が消えたのだ。

その瞬間、レイが苦しみ出した。

メイとあいはこれが何を意味するのか知っていた。

体が魔力に置き換わる瞬間である。死ぬより痛い激痛の瞬間だ。


「わたし、このとき、う○こと、おしっこ漏らしちゃったのよね」


あいがびっくりして「美少女の言う言葉じゃないよメイさん!」と心で叫んだ。


レイは痛みが治まると近くの川に走り、下を洗っていた。


「ほらね」


メイが誇らしげである。




救助は夜中まで続いたが森全体を探し終わり、イナ軍と分かれた。

旅団長と黒髭は名残惜しそうだったが仕方が無い。


現時点でササ軍は兵士三千人、傭兵一千人欠員無しだった。


「わたしは、もう少しやることがあるので」


あいがすたすた南トラン軍の方へ歩いていく。


「あいちゃんどこいくの」


新米魔女のレイが聞く。


「イホウギ将軍、いいえ師匠のところへ」


あいの中ではもうイホウギは師匠になっていた。


「危険なので一人で行きます、絶対帰ってきます」

「待っててください」


あいの真剣な表情を見て、伍イ団の四人は、言っても無駄ないつもの頑固と理解した。


「絶対帰ってきてよ、約束だからね」


「はい、約束は破りません」




「おい、あれを見ろ」


「なんだあれ」


南トラン軍の見張り番はおかしな人影を見つけた。

貧民服を着た女の子だ。

貧民の女の子が右手を上げる。


「凍結」


「うふふ、この位の大きさなら調整は自在なのよ」


南トラン軍の陣の全員が凍りついた。


「さあ、師匠を探さなきゃ」


ひときは大きな宿舎を探したら、イホウギはすぐに見つかった。


「治癒」


イホウギの凍結は治り今日受けた傷も全快した。


「おまえは何者だ?」


右手に棍を握りしめた。

魔道士隊が少女に全滅させられた報告は聞いていた。


「くせ者だー」

「……」

返事はなかった。


あいはニッと笑った。


「消去」


イホウギは驚愕した。

周りからすべての物が消えた。

残ったのは草原だけだった。


「わしは夢を見ているのか」


「いいえ」


あいが答えると、イホウギの右手に力が入った。

あっ殴られるとあいは、身構えた。

だが、イホウギは土下座をしたのだ。


「偉大なる魔女よ、なんでもする、今ここで死ねと言われるのなら死のう」

「だが、トランの兵は助けて貰えないだろうか」


腰の短刀を抜き首に当てる。


この姿を見てあいは、師匠はこの人しかいないと思った。


「トランの兵の命を奪う気はありません」

「私は武術の師匠を探しています」

「私にあなたの武術のすべてを伝授してください」

「そのときは、私の所にあるすべての命をお返しします」


「それですべての命が許して頂けるのならば」


あいは、土下座をし、あたまを地面にこすりつけた。


イホウギは今この無防備な少女なら一撃で殺せるのではと考えたが、それで命が帰ってくるわけではないと思い直し、何処まで本気かわからないが付き合ってみようと思った。


「頭をあげてくだされ魔女殿」


「それでは、師匠とお呼びしても」


「うむ」


「わたしの名前はあいです。師匠」


こうしてあいは、イホウギの弟子となった。

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