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北の魔女  作者: 覧都
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肉の壁

イナ国南西部、南トラン国、国境付近

少しくぼんだ草原である。

早朝の朝日がオレンジ色に辺りを染める。雲が一筋地平線に向かって伸び、灰色とオレンジのグラディエーションが美しい。


南トランは草原の国、イナ国は森の国である。


南トラン軍は六万人草原に布陣している。


イナ国軍は四万人の兵を草原に残り2万人を本陣後ろの森に布陣させている。


この世界に弓や大砲、投石機などの遠距離攻撃の兵器はない。

北の魔女がまだ人と関わりを多く持っていた頃、弓で全身をハリネズミのようにされ、ぶち切れて弓を含む遠距離攻撃を、禁止魔法で使えないように呪いをかけたからである。

魔力による遠距離攻撃は呪いに含まれていない。


ササ兵は本陣からみて右翼後方に配置されている。


兵士達は緊張していた。


「静かですな」


白髭老人兵士が伍イ団に話しかける。


「なぜか、わたしはこの瞬間が好きだ」


メイが微笑する。

この場所に一番似つかわしくない、子供が薄気味悪く笑顔を作ると、白髭兵士は恐怖を感じた。

美しいだけに余計きみがわるい、声をかけなければよかったと、後悔していた。




「イホウギである」


何か魔法でも使っているのか、静寂を破り戦場全体に声が響く。


「かかれー」

「おーー」


南トランの中央から騎馬隊がイナ国軍中央に突進する。

その先頭をイホウギ将軍が疾走する。


静かだった戦場が騒がしくなった。

ササ軍はまだ戦闘の茅の外で戦闘の喊声が凄く遠くに感じられた。


あいはイホウギが見たくてしょうが無い。

近くに作ってある物見櫓に入り込み必死で南トラン軍の騎馬隊を見つめている。


「あれだ」


イホウギは巨大な棍を武器としてイナ軍を蹴散らしている。


「すごい」


遠目に見ても体の大きさ、その強さは圧倒的だった。

イホウギの連れている兵も精鋭で次々イナ軍を倒していく。




「痛い!」


「どうした」


「なにか見えない壁がある」


ササ軍に騒ぎが起きている。


「それなら大丈夫だ、あいちゃんの防御壁だ」


メイが説明する。


あいはイホウギに集中するため。ササ軍の周りにあらかじめ防御壁を張っていたのだ。


あいは物見櫓を暗い面持ちで降りてきた。

少し気分が悪くなっていた。


「どうしたのあいちゃん」


レイが見つけて声をかけた。


「人がいっぱい殺し合っていた」


「取り乱しちゃだめよ」


「うん」


ぺたんと座り空を見上げた。


ササ軍には、まだ何も指示がない。

兵士達に焦りがあった。


「うおおおおー」


喊声があがった。


イナ軍本陣の国旗が倒され、南トランの国旗があがる。


「撤退、撤退だー」


兵士達が大慌てである。


「おちつけー」


白髭が叫ぶ


白髭とメイがあいのそばに来て質問する。


「あいちゃん、防御壁はどの位もつ」


「ずっと大丈夫です」


「あの魔獣の時の強度はあるのかな」


「同じです」


「よし! あいちゃん引き上げて来るイナ兵も収容したい」

「防御壁を倍ぐらいまででかくできるかな?」


「大丈夫です」

「……終わりました」


「ここに机位の岩をだしてくれるかな、あとその周りに椅子ぐらいのを」


「はい」


あいがいうと

どすんどんどんどん、

と、岩の机と椅子がでた。


メイが中央に座ると、

指示を出す、


「白髭、新人と中隊長をここに集めろ、あと伍イ団も」


「はっ」


石の机に白髭、新人、ガイ、ロイ、レイが座った。

その後ろに中隊長が立っている。


「ガイ君、中隊五隊を連れて防御壁の外で、引き上げてくるイナ兵を守り、防御壁の中へ入れてあげて」

「あいちゃんはガイ君の後ろの壁に穴を開けて、イナ軍が入れるようにして」

「ロイ君は中隊五隊で穴の周りを守備」

「レイちゃんはイナ兵の治癒と回復を、疲れたら早めにあいちゃんから回復してもらって」

「新人くんは中隊五隊で壁の入り口を内側からまもって」

「白髭さんは治療が必要な人をわたしの所にも連れてきてください。わたしが治癒と回復をします」

「以上です、ササ軍出撃」


「おおー」


その後ササ軍はあわただしかった。




机に座るメイとあいの前に二人の男が来た。


「久しぶりですね、まあこんなことが出来ている時点で予想はしていましたが」


「隊長さん、黒髭さん」


二人はイネスの魔獣討伐の時の隊長と、あいの尻を蹴った髭兵士だった。


「いまは旅団長ですよ、あのあと出世しまして、今日は右翼を任されていました」

「あいさんがいるなら、一緒に来てもらえばよかった」


「隊長さんお願いがあります」


あいが少し涙目でお願いする。


「あいさんのお願いなら何でも聞きますよ」


「森から負傷者を助け出して来てほしいの」

「だめですか」


「喜んで引き受けますよ、同胞を救うのは軍人の仕事です」


「私も行こう」


「黒髭殿が一緒なら心強い、黒髭殿はイナ軍屈強の戦士ですからね」


「あいさんに、こんなことであの時の恩とお詫びを返せるとは思いませんが、お役に立ちたいと思います」


「では御免」


二人は回復と治癒の終わった兵を連れ森に向かった。


イナ軍の森に布陣している兵は、貧民と登録者が主力の兵で、通称肉の壁と呼ばれている。


イナ軍が撤退するとき森に入り、肉の壁をおいたまま撤退する。

肉の壁はなんの指示もなく待機し、敵兵が来ると教えてもらった突きで、敵を突く。

敵兵は森の兵を狩るのに時間がかかり、正規兵は撤退を済ますのだ。

肉の壁のうち、登録者は自力で逃げ帰る者もいるが、捨てるための武器や防具を与えられた貧民兵はいつも全滅する。


あいが旅団長に救ってほしいと頼んだのは、当然貧民兵である。


白髭はメイを見つめ。


「貴方はいったい……」


メイは明るくいい笑顔で


「ただの可愛こちゃんです」


せめて美少女なんちゃらとかいってほしかった。


白髭はまたも質問したことを後悔した。

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