表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北の魔女  作者: 覧都
21/180

鈍感強化の魔法

兵士達は腹を立てていた。

貧民服は桁違いだが、他の者は最近まで登録者の中でも、稼げないヘッポコピーと、傭兵として参加している登録者から聞いている。

そのような者に護衛してもらうなど、いい笑いものだ。


「指名してもよろしいでしょうか」


一歩前に出た若い兵士が申し出る。


「そちらにいる、剣士の方お願いします」


木剣をもってやる気満々の若い剣士は、若手一番の剣士である。

その剣士は、ロイを指名した。


「私はまだ新米で、未熟ですがお願いします」


顔にあどけなさの残る兵士は、入ったばかりの新兵に見える。

相手に油断させるため、未熟者を強調している。

ロイは、新兵ならまあ良いかと木剣を取りその剣士の前に出た。


「よろしくお願いします」


二人が軽く頭を下げ、剣を構える。

若い剣士は軽く力を抜いた攻撃をする。


かなり、遅い動きだ、これなら俺でもさばけるな。

ロイは油断していた。


若い剣士は、ロイが後ろに下がり避けたのを見ると、そのままよろよろ剣を振り下ろしロイの死角までよろけた。

ロイの死角に入った瞬間、軸足に全力を込めると渾身の一撃を放った。


ビョヒュ


剣の切っ先が風を切る。


コン


若い剣士の剣が振り切る前、遠心力が最大にかかっているところへ、ロイが若い剣士の剣の柄尻に、自分の剣の柄尻をあわせた。木剣がすごい勢いで飛んでいきガランとおちた。

若い剣士の喉の前に、ロイの剣の切っ先が置かれている。

若い剣士の頬に冷や汗が、つーっとながれた。


「まあ、新兵さんならこの位でしょう」


ロイは彼を本当に新米だと思っていた。油断していたところへの渾身の一撃も、まるで最初の一撃と同じとしか、思えなかったのである。


「少しじじいですが、つぎはわしでお願いします」

真っ白な髭の老人が出て来た。


「えーーまだやるの」


ロイは自分が弱いことが、ばれないように、さっさと終わらせたかった。


「あー、わしで終わりですから、腰を痛めたじじいですから」


老兵士は少しあせって、すぐに始めるため剣をかまえた。


「お願いします」


老人は頭を下げると、すぐに斬りかかった。

ロイはそれを余裕でかわす。

やはり腰が悪い老人の剣は遅いな。

ガイさんの槍とは大違いだ。


五回、六回、次々かわす。

なんか楽しいな、いつものガイさんとの練習はやられるばかりだからなー。

一度も勝てないってくそ面白くないんだよなー。


八度目、老人の剣が左に流れた、ロイは打ち込むため剣を振りかぶった。

老人の必殺技の態勢である。ロイは誘われたのである。

老人はこの技で負けたことがない、だからこそ生きていられる。

絶対の自信の技、振りかぶった剣に対し、素早く手を打ち抜く体制に入る。


人間は反射という動きがある、振りかぶり中に攻撃が来ると避けてしまうのである。

普通の人間はこのとき、とっさに手をピクンと反応してしまうか、後ろに下がってしまう。

老人はこの瞬間を狙う。ピクンと反応すればその隙を突きそのまま剣を右下に切り下げる。

後ろに下がれば、それを狙うために、いつでも踏み込めるよう、足にためが作ってある。


ロイは下がってしまった、が、老人の剣はロイに届かなかった。ロイの動きは老人の予想の遙か上を行っていた。

「常人の動きじゃないな」

老人は心の声でつぶやく。

踏み込みきり、一杯まで伸びきった剣では、次の動作がおくれる。

ロイの剣が老人の眉間の前に出される。剣は老人のつながった眉毛の先にかすかに触れていた。


「じゃはっはー」

「負けましたー」


わーーー

集まっていた兵士から歓声があがった。

後ろの女兵士からは黄色い歓声が上がっている。


ロイはさわやかで優しげで、女性の雰囲気さえあるいい男なのである。


後ろを振り向くと、ガイとレイとメイにむかって


「よかったー、新人くんと腰の悪い老人で」


「おばかー! あの二人がどう見たってここの一番と二番でしょうが」


メイが叫ぶ。

メイとレイがあきれている。


「そうなのか、二人はいつもするどいなー」


ふんふん、ガイが頷く


「あんたも気づいてなかったんかい!」


メイとレイの声が重なった。

この二人には鈍感強化の魔法もかかっている。そう思う二人だった。


なりやまない歓声と黄色い声は、ロイに不思議な感覚を感じさせた。

あんた達はおれが貧民でもそんな歓声がだせるのか。

いままでずっとひた隠しにしてきた貧民の二文字。

あいちゃんは、自分を貧民のあいって胸を張って言うんだよな。


ロイは兵士達に数歩近づき大声を出した。


「おれは貧民だ、貧民のロイだーー」


集まっている兵士達から歓声が消えた。

それだけではなく


「けっ貧民かよ」


手のひらを返したような声が聞こえる。


すごいなあいちゃんはこんな扱いの中、ずっと貧民服で行動しているのだから。

おれにはまねできない。貧民のロイは今日で卒業するよ。

今日からは剣士ロイだ。


ロイは急にあいの顔が見たくなり姿を探した。


「見つけた」


見つけたあいは木剣を持ち、ふにゃふにゃ踊りを踊っている。

よく見ると踊りではなく、さっきのロイの動きと、新人剣士、老人剣士の動きをまねしているのだ。

手だけで剣を振り、剣に振り回されるあいの動きはどう見ても、ふにゃふにゃ踊りである。

そして、貧民服の下から白い物がちらちらしている。

視線を感じて後ろを見ると、あれだけ貧民に偏見を持っている兵士達の中に、あいの白い物を見ている奴がいた。あいちゃんかわいいからなー気持ちはわかるよ。


ロイは笑い出した。

こんな所から貧民への偏見がなくなって行くのかもしれないと思った。


横からレイが


「明日から少し長い貧民服を着てもらわないといけないわね」


にやにやしている。


「み、みてないよ俺」


そこだけは鋭いロイであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ