月見肉
グエン商会
「本日の売り上げは団の魔封石の金貨が五十枚、個人の魔封石の金貨が十枚の五人分で五十枚、合計金貨百枚となります」
「魔封石が満タンですので、階級が上昇して金貨百枚の物になり、個人用が二十枚の物になります」
「金貨百枚は白金貨一枚と同じなので、伍イ団は今日から白金階級の伍イ団と呼ばれるようになります」
「世界でも五十団もないのですよ」
「討伐お疲れ様でした」
受付嬢が頭を下げた。
伍イ団の五人も頭を下げた。
食堂ベイ
五人はいつもの個室で食事をしている。
あいは二杯目の牛乳をちびちび飲んでいる。
「この世界で一番強いのは誰ですか」
あいが質問するとメイが答える。
「南トラン国のイホウギ将軍か、オリ国のシュウ将軍ですね」
「このどちらかで間違いないはずよ」
「じゃあ、そのどちらかに弟子にしてもらいます」
あいはここに来るまで魔法無しで魔獣と戦う方法をずっと考えていた。
そして武術を習得するという結論に至った。
「えーー」
四人は驚いたが、無理だとは思わなかった。
あいちゃんだもんね。そんな顔をしている。
コンコン
個室のドアがノックされ、グエン商会の受付嬢が入ってきた。
「あのー」
言いにくそうに、受付嬢が話しかけてくる。
「なんですか」
代表してメイが聞く。
「ササ領の御領主様から明日の夕食のご招待が来ているのですが」
あいが凄い顔をしている。
「お断りした方がよろしいですね」
「あっ、待ってください」
「行きます」
あいが嫌な顔をしたことを恥て、赤くなってこたえる。
「あいちゃんいいの」
心配してレイが聞く。
「はい、今回の御領主様は、貧民のあいも誘ってくれていると思います」
「それを行きもしないで断るのは失礼だと思います」
「じゃあこれが移動符です」
「……」
五人は招待状を待っていた。
それを察して受付嬢はいう
「招待状はないですよ」
「皆さんは恩人だそうですから」
翌日の夕刻
ササ領、領主邸
今回は全員正装をしている。
正装といっても、登録者の四人は新品の、ちょっといい服という感じの服装である。
だが、あいは貧民服である。
「貧民服が貧民にとっての正装です」
あいの、言い方表情で、これはいつもの頑固なやつだと察して、四人は何もいわなかった。
衛兵に向かってガイが話しかける。
「伍イ団ですが」
「はい、承っております」
「貧民のあいですが」
ガイのまねをしてあいがいう。
「はい、承っております」
今回はスンナリ通して貰えた。
広間に通されると、豪華な食事が用意されていた。
あいは、早足で歩くと勝手に着席し、両手でむしゃむしゃ、ぺちゃぺちゃ、嫌な音を立て食べ出してしまった、これは当然失礼な行為である。
伍イ団の四人は領主を信用できる人か、試しているのだと感じていた。
あいは普段食事の時、決して音を立てない。
貧民が食事の時、食べる音を出したら、取られる恐れがあるので、音を出さないように、習慣付けられているからだ。
後ろに控えている使用人が我慢出来ず、両手に食べ物を持つあいを、強制連行して、外に連れ出した。
あいは門から放り出されると、さみしそうに歩き出した。
邸から少し離れた、小高い場所に石を出し腰掛けるとボーと魔獣と戦った森を見ていた。
「しかたないなー」
ロイがご馳走を前にして残念そうにいう。
伍イ団の四人はあいの後を追った。
ロイが邸を出て、辺りを見回すと、あいの姿はすぐに見つかった。
丘の上に座るあいの姿は、月に照らされ幻想的な美しさがあった。
優しく風が吹くと髪が動き後れ毛が月の光で白く光った。
いつもは、ぱっちり開いている目が、少し細くなり大人びた表情で一層美人にみえた。
まるで絵画のようである。少し見惚れてしまった。
横にいる仲間を見ると、三人とも見惚れているようだった。
「はー、本当はこんなことしなくても、ここの領主様が、いい人なのはもう分っているんだけど」
「素直になれなかった」
あいは自分にあきれていた。
ここの領主は王族である。
王族が貧民を相手にすることなどない。
それを何度も招待している。
これが出来るだけでも優しい領主なのである。
あいは、この領主に知らず、知らず甘えてみたかったのである。
「あいちゃん」
「あいちゃんのせいで何も食べられなかったよ」
ロイが恨めしそうにいう。あいの後ろに四人が立っていた。
あいは無言で右手に持っている肉の塊を上に二回上げた。数口かじった肉だが、まだ数キロはありそうだった。
「切らなきゃ食えないだろ」
あいは左手の人差し指を少し動かすとロイの足下に真新しい剣が落ちる。
「おい、おい、これで切れってか」
「おれの新品だぜ」
ぶつくさいいながらロイが、剣を抜くと肉を切り分ける、剣はまるで豆腐を切るようにスーっと肉を切っていく。
「あー、その剣切れすぎ、何かやったでしょ」
レイが声を上げる。
「なんですぐ分るんだよ、あいちゃんに少しね」
「ずっる」
「私たちも新品買うからあいちゃんお願いね」
「わかりました、防具にも魔法をかけますね」
「ありがとう、約束だからね」
四人が喜んでいる。
五人の手には肉が渡された。当然あいのは少しかじってある部分、後はその下の部分を均等に分けた物が分けられた。
「いただきまーす」
月の下で食べる肉は美味しかった。