第百七十八話 捕虜交換
翌日の早朝に捕虜交換は始まった。
両軍が見守る中シバ親子と、ゴランがとぼとぼ歩いている。
そして、十分ほど歩くとすれ違った。
ゴランはすれ違うと走り出した。
シバ親子は、走るほどの体力は無いようだった。
ゴランは息を切らして門を入る。
「なぜ追撃をしない」
ゴランは声を荒げ回りの兵士に声をかけた。
「その必要は無い」
メイが門の上からゴランを見下ろしている。
ガガガガ
門が閉まると、メイが兵士に対して声を上げた。
「私は、この要塞を一週間守りきる。その間にゴルド国は別の地へ遷都するようだ。この地に留まることは強要しない。家族がいる者は今日の夜にでもオリ国軍に見つからないように出ていくといいだろう。早くしないと置いてきぼりになるぞ」
「俺には家族はいない、メイ様ここにいさせて下さい」
「俺は、四男だ。俺も残りたい」
兵士から残りたいと申し出る者がいた。
「ふふふ、ありがたい申し出だが、もはや勝ち目は無い。出来れば退去してもらいたい」
その日、オリ国は距離を取ったまま、攻撃はしてこなかった。
夜になると、真っ先にゴランが逃げ出した。
それを見て、兵士達は次々ヒガク要塞を後にした。
「メイさん、どんどん兵が減っていますけど大丈夫ですか」
サエが心配してメイに近づき話しかけた。
「ふふふ、出来れば三人だけになりたいわね」
「えっ」
「向こうには、まなちゃんがいる。私が降伏することはもう気が付いているはずです」
「では、戦わないのですか」
「ふふふ、まなちゃんを恐れない人がいれば別ですが」
翌日、早朝。
まなの元にシュウ総大将が尋ねてきた。
「我が軍の中から攻めることを主張する者が現れました」
「うふふ、そうですか。わたしは反対します」
まながニコニコしてきっぱり返事をした。
まなの回りにはすでに、キキもハイもギホウイ、ロボダー、オデ、ガイ、サイ、パイ、先生がずらりと揃いニコニコしている。
「ふふふ、では、黙らせてきましょうか」
シュウは笑いながらまなの元を去って行った。
この時点ですでにまなが総大将の様なものであるが、まなはそんなことはみじんも感じていなかった。
「はーー、緊張したー。シュウ将軍とお話ししちゃった」
まなはシュウが帰るとそんなことを口にしていた。
「お前達、こんなに残ったのか」
メイは驚いていた。
整列をさせた兵達が三千人以上いたのだ。
兵達の顔は緊張していたが、これからの決死の戦いを覚悟している、いい顔になっていた。
メイは、男達のこの表情がキラキラ眩しく輝いて見えた。
「ふふふ、私がもう少し若ければ惚れてしまうところだ」
「えっ」
サエはメイの顔を驚いて二度見してしまった。