第百七十六話 進軍開始
セイはまなに全てを話しだす。
魔王の森の人間の街いちのみやでのこと。
ファンの国で温かく迎えてもらったこと。
かなりの時間がかかったが、まなは黙って聞いていた。
「わたしはファンの王様に謝らないといけませんね」
セイは笑顔でうなずいた。
「セイちゃん、あいちゃんを頼めますか」
「はい」
「ゴルド国の件が終ったら、ファンの国へ伺います。王様に宜しくお伝え下さい」
「はい、まな様」
セイは頭を半分失い、さらに右手まで失い、いまも血が止まらない痛々しいあいの体を、持ち上げるとファンの兵士の中に帰って行った。
その途中でセイは倒れた兵士に治癒魔法をかけ、ファン国の兵士を助けた。
「セイ女様……」
周囲の兵士は、小さな声でセイをたたえた。
胸に痛々しいおか様を抱きかかえているセイ女様の心を思うと、無邪気に歓声を上げられないファン国の兵士達であった。
この光景を二十万人近い人々がじっと見つめている。
誰もが、まなが最強だとため息をついている。
だが、まなだけは何もしていないと思っていた。
ただ身を守っていただけと思っているのだ。
この時まなからあふれ出した魔力はこの世界に大きく影響を与える。
森に魔人や魔獣を増やしてしまったのだ。
ファン国軍とまなが和解をすると、オリ国軍はゴルド国軍の後を追った。
だが、すでにゴルド軍はこの時間を使って、ヒガク城塞都市に到達していた。
ヒガクの城塞都市は、ファン国とゴルド国の国境の山脈の終点に当たる場所に築かれている。
平地部分を頑丈な城壁で三方を守り背面を天然の山が守る形になっている。
さらに山の中腹に城壁と城が築かれ二段構えの強固な防衛拠点となっている。
平地の街からはすでに、住民は避難してゴルド国の王都に移動している。
「イーメ様、オリ国軍が現れました」
「うむ、ここはヒガク守備隊で戦う。本体は邪魔だからここから離れるように指示してくれ」
「はっ」
イーメは、街の外壁の上でオリ国軍をじっと見つめている。
オリ国軍は外壁に直ぐには近寄らず随分距離を取り布陣を開始した。
まだ、全軍がそろわないうちに、外壁の上から黒い忍者服のイーメが飛び降りた。
それを見て、エーサとカイクーもそれに習った。
オリ国軍からは、ハイがゆっくり進んできた。
シュウとギホウイも出ようとしたが、ハイがそれを制した。
ゴルド軍は城壁の上からその様子を見つめた。
ゆっくり歩く四人の間隔が百メートル程になるまでには、数十分の時間がかかった。
この時間でゴルド軍本体は撤退し、オリ国軍は陣の布陣を進めた。
「では、メイ様よろしいですか」
ハイは先頭を歩くメイに声をかけた。
もちろん普通に話しかけたため、回りの兵士には聞こえるはずも無い。
「うふふ、ハイさんには直ぐにバレますね」
メイことイーメが顔を隠したまま笑っている。
メイの笑いが収まると、四人は勢いよく走り出した。