第百六十三話 暗殺者の一族
チッカとアオは暗殺者集団の拠点の正面にいる。
ドアの両横に窓が有り中の様子は窓から見ることが出来た。
「暗くて良く見えません」
「ここには誰もおらんな」
アオが言った言葉にチッカが振り向いた。
「アオ様はそれがわかるのですか?」
チッカが驚いて、アオに質問する。
「ふふふ、当たり前であろう」
チッカの驚く顔にアオは少し気分を良くしている。
チッカが、ドアを開ける。
すんなりドアが開きチッカはまた驚いた表情をした。
「開きました」
するとアオがズカズカ入って行ってしまった。
「あっ、アオ様、罠かもしれません」
小声でチッカがアオを静止しようとした。
「ふふふ、あたしを挑発している」
美しいアオの顔が窓から入る赤い月に照らされた。
元々赤いアオの肌が毒々しいほどに赤く光り、浮かんだ笑顔はチッカを震え上がらせた。
この部屋には、地下に通じる階段があるだけで、他には何も無かった。
チッカにはわからなかったが、アオは地下から何者かの気配を感じているようだった。
「何をしている、行くぞ」
アオがチッカを誘った。
チッカはアオの言う気配はわからなかったが、どう考えても入ってこいと言わんばかりの罠に感じていた。
とはいえ、ここにあるのが、地下に続く階段だけなので、引き返すか入るかの二つの選択肢しかない。
チッカはけなげにもアオの前に進み、先に階段を降りていく。
だが、その足はガクガク震え、生まれたての子鹿のようだった。
「味方には優しく」
アオはつぶやいている。
チッカはそれを聞き、後ろを振り返った。
そこには、美しく優しげなアオの笑顔があった。
何故かチッカの足の震えが収まった。
階段を降りると二人の行く手にはドアがあった。
ドアには窓が無く中の様子が全くわからない。
「下がってください」
チッカはアオを少し下がらせた。
そしてドアを少しだけ開いて中の様子を見た。
「きゃあああーーっ」
悲鳴とともにチッカは膝から崩れ落ちた。
「これだけ声を出したのなら、こそこそする必要も無かろう」
アオはドアを開け放ち、中を見た。
「ふむ、これは酷いのう」
中には、レッガ達四人の斬殺体があった。
皆、手足が切り落とされ首が付いていなかった。
「くひひひ」
部屋の奥で椅子に座っている男が笑い出した。
男は骨が太いようだが肉が付いてない、異様な体つきで顔は細い目が吊り上がり、口も横に広く、口だけで笑っていた。
背筋が凍るような気味の悪い笑顔だった。
「ようこそ。私の部下は役に立たなかったようですね」
チッカは顔面蒼白で、最早下半身に力が入らないようだった。
「一人でやったのか」
アオが少しこわばった表情で質問した。
「ふふふ、これでも私は、末席とはいえヨミの一族ですからねえ」
アオはこの言葉を聞いてオロオロしだした。