第百六十二話 アオの実力
「くそー、ブスを残してどうするんだ。楽しみが減るじゃねーか」
何もしていない男がまだぶつくさ言っている。
短刀を突きつけられ、震えているチッカも少し怒っていた。
だが、おかしい、腹に短刀を刺されたアオが全く倒れない。
「敵には優しく」
アオが目の前の男の頭を撫でようとしている。
「ち、違います、敵には容赦無くです。でも殺さないでください」
チッカが言い終わるか、終らないかのうちに、アオはチッカの横に来てあごの下の短刀を二本の指でつまんだ。
すでにアオの腹に短刀を突きつけた男は意識を失い倒れている。
チッカの顎に短刀を突きつけている男は、両手であるにもかかわらず動かせないようだった。
男は更に必死で突き上げようとしているのだが、動かせない。
既にアオは自由な左手で、チッカの後ろの男を倒している。
チッカに顔を近づけて、
「み、味方には優しく」
チッカの頭を撫でた。
そして、チッカと目が合うと照れくさそうに笑顔になった。
「私はチッカ、味方です」
チッカは敵より恐ろしいと思いながら引きつった笑いを見せた。
その時には、短刀を持った男も地面に横たわっていた。
「あいつは、敵か?」
アオは最後に残っていろ男を指さしチッカに聞いた。
「お、俺は味方だ」
とっさに男は嘘を付いた。
あおは男に無防備に近づき右手を伸ばし頭をなでようとした。
男はその瞬間、短刀を引き抜き、アオの伸ばした右手の下をめがけ短刀を突き立てた。
だが、その短刀はアオの左手の、三本の指で摘ままれ、アオの脇腹の前五ミリで止められた。
「味方には優しく」
アオは美しい笑顔で男の頭を撫でた。
「アオ様、そいつは敵でーす」
チッカが大声を出す。
「いえ、アオ様あいつが敵です」
男は顔中に汗をかきながら、またでたらめを言ってみた。
「……」
アオは宙を見ながら考え込んだ。
「ばかめーー」
男は短刀を放すと、アオに一撃必殺の蹴りを入れてきた。
アオは、短刀を目にも止まらぬ速さで男の脛に突き立てた。
蹴りの勢いとアオの怪力で短刀が脛の骨に突き刺さった。
「ぎゃああああー」
男は絶叫した。
「うるさいなーー」
アオは煩わしそうに言うと叫ぶ男の顎先を蹴った。
顎の関節の骨が砕けた。
アオは顎の下を持つと、グイッと上にあげ下顎の歯を上顎に突き刺した。
「ぐもーー。ぐももおおーー」
「フー静かになった」
チッカは情け容赦ないアオの行動に恐怖した。
その後アオは、四人の両手両足の骨を折り、顎を砕いた。
逃走防止と自殺防止、大声の防止をしたのだ。
「あのーアオ様、もう一度あの言葉をお願いします」
「ふむ、敵には優しく、味方はぶっ殺す……」
「ち、違います。敵は容赦せず、味方には優しく、我慢と恥じらい、いやーーん見ないで、です」
チッカは大丈夫かなー、と、不安になっていた。
「わ、わかった」
「アオ様、本当に時々色々間違っていますからね。気を付けてください!」
チッカは赤い服のアオの胸元を指でツンツンしながら、眉をつり上げて怒っているふりをした。
「チ、チッカは恐いなー、怒りすぎだ」
チッカは、この言葉でアオへの恐怖が吹っ飛んで笑いがこみ上げてきた。
「では、皆と合流しましょう」
「うむ、チッカお前が頼りだ、宜しく頼む」
「うふふ、はい」