第百六十一話 忍耐!
分隊長レッガが向かいの、古い建物を指さす。
外には見張りの姿は無く、出入り口は二カ所だけの小さな平屋だった。
出入り口は大通りに面したドアと、細い路地に面した小さなドアが有る。
「チッカは、アオさんと建物の裏側に回り、人の出入りが無いよう見張りを頼む、俺たちは四人で正面から忍び込む」
「はい」
チッカは返事をすると屋根伝いに移動して、細い路地に飛び降りた。
アオはチッカの後ろを見失わない程度に少し遅れてついていった。
チッカは裏口の小さなドアから、少し離れた所に降りると、細心の注意で辺りを見渡し、人の気配が無いのを確認する。
人の気配が無いのを確認出来ると、裏口の前に立った。
チッカは服から工具を出すとドアを開かないように工作しはじめた。
「よう姉ちゃん」
チッカは背後から声をかけられた。
声のする方を見ると四人の男に囲まれていた。
(いつの間に)
チッカの背中に大量の冷たい汗が流れた。
「……まったく気が付かなかった」
「こっちはお前達が、屋根の上にいるときから気が付いていたんだけどな」
どこかで気配を消した見張りがいたのだろう、待ち伏せを受けていたのだ。
「うっ」
一瞬でチッカは腕を取られ後ろ手にひねりあげられた。
そして別の男がチッカの喉元に短刀を突きつける。
チッカもしっかり訓練を受けた隊員だったが、相手は遙か上の存在だったのだろう。
「おい、あの赤いひらひらの綺麗なねーちゃんはどうした」
「くっ」
男が短刀を少し持ち上げた為、短刀が少し皮膚に食い込んだ。
チッカは言うつもりはなかった。
最早この状況では助かることを諦めていた。
出来ればこの状況をみて、アオに逃げて貰いたかった。
バサバサバサ
布のはためく音が上から聞こえた。
そして五人の前にそれがふわりと降り立った。
着地の寸前に風魔法を使ったため、下からの風が赤い服を上に舞い上げている。
アオは服がかろうじて首のところで止まっていたが、可愛いブラジャーとパンツが丸出しになっていた。
アオは、それを一応手で下にさげている。
「忍耐!!」
アオはスカートの裾を押さえながら言っている。
五人は何のことか全くわからず目が点になっていた。
だが、いちはやくチッカが気付いた。
「次です!」
チッカが声を張り上げた。
「恥じらい!!」
アオははっとして言い直した。
「そ、その次です」
チッカの声が少し大きくなった。
「いやーーん、見ないでー」
スカートの裾を押さえる美女アオのスカートからはまだ白い物が見えていえる。
四人の男の顔が急に真っ赤になった。
「お前達は敵か?」
アオは男達四人の顔を見渡しながら聞いた。
「馬鹿なのかお前はー!」
男が短刀をアオの腹に突き刺そうと襲いかかった。
その動きはチッカが目で追えない程速かった。
「アオ様―、敵です。四人とも敵ですー、逃げてくださいー」
チッカからはアオの背中しか見えなかった。
だが、男の短刀はアオの腹に突き立てられているように見えた。
「あ、アオ様……」
チッカは悲しげな表情でつぶやいていた。
本当はうなだれて涙したかったが、あごに短刀が突き立てられている為に、顔を動かすことが出来なかった。
「てめーー勝手に殺すんじゃねえよ。こんな美人殺すのは後にしねーと、楽しめねーじゃねーかー」
男達は怒っている。