第百六十話 味方には優しく
五人は諜報部の建物を出ると、軽い身のこなしで建物の上を次々風の様に進んで行く。
五人は後ろを進むアオのことなど、振り返る余裕も無いほど速く移動していた。
あらかじめ集合地点は決めてあったのか、一つの建物の上で五人は集結していた。
「よし、集まったか。やはりあの女はついてこられなかった様だな」
分隊長は少し息が上がっていたが、呼吸を整えながらつぶやくように言うのだった。
五人はあえてアオを振り切り、ついてこられないようにしていたのだ。
国王から連れて行くように言われてはいたが、見たことも無い初心者についてこられては迷惑な話でもあり、アオに命の危険のある任務から脱落させ、命を救うつもりだったのだ。
「さすがにあんな服で来るから、舐めていると思って腹が立ったが、危険な任務をしなくて済んで、結果的にはよかったのかもしれないな」
そして調子にのって、なおも続けた。
「ほんと、あの服はねーよなー馬鹿じゃねーのかー、しかもいやーーんとかほんと馬鹿だよな、がははっ」
だが、隊員の様子がおかしい。
妙に顔が引きつっているのだ。
「敵には容赦せず、味方には優しく、我慢と恥じらい、いやーん、見ないで」
声が背後から聞こえた。
振り向くと、夜空に浮かぶ赤い月を背に赤い服を着たアオの姿があった。
アオという名前なのに、髪は赤く素肌も肌色より薄い赤色と言える、アオが怒りの表情で口だけ笑っていた。
この姿を見た分隊長は恐ろしさに震え上がった。
だが見慣れると、とても美しくじっと見つめてしまった。
ガツ
アオが分隊長のあごの下を掴んだ。
分隊長は、引き剥がそうとしたが、すごい力で引き剥がすことが出来なかった。
「ぐううう」
分隊長が苦しくてうなりだした。
女の隊員が叫んだ。
「味方です、味方――!!」
するとアオが分隊長を掴んでいた手を離し、頭を撫でた。
「味方には優しく」
アオが無表情で確認するように小声でつぶやいた。
「そーです、味方――」
全員で叫んでいた。
この部隊の全員が、一瞬でアオのやばさを実感した。
「あ、あの私はチッカです、全面的に味方です」
女の隊員がアオに名前と味方であることを伝えた。
「味方、優しく」
アオがにこりと笑った。
アオの笑顔は赤い月の光に照らされて、美しく輝いていた。
「ずりーー、俺はデッグ全面的に味方です宜しく」
「デッグ、味方優しく」
アオが繰り返すと手をあげて頭を撫でようとしてきたので、デッグは頭を下げて素直に撫でて貰った。
デッグはこの隊一の大男である。
「お、俺はタツ、全面的に味方」
タツはこの隊で一番小さくて、素早そうだった。
「タツ、味方優しく」
アオは惚れ惚れするような美しい笑顔で頭を撫でた。
「俺はダニー、味方です」
ダニーはこの隊で一番若くて優しそうな男だった。
「ダニー、味方優しく」
また、アオは笑顔になり頭を撫でた。
「俺はレッガだ、当然味方だ」
最後に分隊長が名前と味方であることを伝えた。
「人間は皆、同じに見える殺さなくてよかった」
全員震え上がった。