第百五十六話 人見知り
「なんですか?」
嬉しそうにメイを見つめる。
メイは余りにもいつものまなで安心する。
「あの者達を助けて欲しい」
メイの視線の先にはまなを殺そうとして、クロに切り刻まれた、二百近い兵士が倒れていた。
まなはこくりとうなずくと、クーカイに小さな声でつぶやいた。
「クーちゃん、治してあげてください」
「嫌です。まな様を殺そうとした者は助けません。いい気味です」
プイと横を向いた。
「クーカイ治しなさい」
まなの目に怒りが宿った。
その途端、クーカイの体はビクンと反応した。
顔は恍惚として、とろりとよだれが垂れている。
「お断りします」
だが、それでも断った。
まなをまとにしたことを、許す気が無かった。
「三度目です。これ以上は命じません。クーカイ治しなさい」
まなは表情を無くし、静かな声を出す。
クーカイはこれを断れば、これ以上は本当に命じて貰えない事を、全身で感じ取った。
「……」
倒れている兵士がむくり、むくりと立ち上がりだした。
中には体がバラバラの者までいたのに、全員回復していた。
「おおおおおー」
この場にいた、兵士からどよめきが起こった。
「まなちゃん、もう一つ頼んでもいいかな」
メイが楽しそうにお願いしてきた。
「何ですか」
「うな重を、ご飯少なめで頼めないかな。まなちゃんのご飯が食べられないと分ってから、ずっと食べたくて食べたくて、毎晩夢に見ていたんだ。おかげで毎日枕がよだれでベトベトさ」
「クスクス、どうぞ」
「あっ私もー、私は二つ食べられます」
サエも調子に乗っておねだりをしてきた。
「どうぞ、飲み物はお水をお出ししますね」
辺りにものすごいうまそうな匂いがただよった。
ゴランとウカクがよだれを垂らしていた。
そして兵士も唾をゴクリと飲み込んだ。
「うふふ、全員どうぞ」
まなは、大きな机を出して、その上にうな重を大量にのせた。
兵士は駆け寄り、うな重を手に取ると、すごい勢いでかき込んでいる。
ウカクが、うな重を口一杯に頬張りながら、メイに近づいた。
「こ、こちらの方はどの様なお方ですか」
「ふふふ、この方こそまな様だ」
「そうです、まな様です」
二つ目のうな重を口一杯に頬張り、ご飯粒を飛ばしながらサエがメイに同調した。
「……」
この場にいる者達の目が点になった。
まな様と言われても誰も知らないのである。
「で、まなちゃん、ゴルド王には挨拶されるのですか」
「あー、メイちゃんとサエちゃんが無事ならもう大丈夫です。なんか恐そうな感じですし、そもそもわたしは人見知りで、人と接するのが苦手です」
「はーーーっ」
兵士達から驚きの声が上がった。
「ぎゃーーはははは」
そして笑いが起っていた。
「じゃあ帰りましょう」
まながメイの手を取ると、メイが首を振った。