第百五十三話 セイ女様の強さ
ファンの国
おか様とセイ女様はシオンのクラスに机を貰って、授業を受けていた。
午前中は、神殿跡で治療をして、午後は学校で授業を受けている。
おか様は、セイ女様に抱っこされ、セイ女様は一生懸命授業を受けている。
子供達は最初こそ珍しがっていたが、慣れると二人がいることが普通の事になっていった。
知識の乏しいセイ女様にとって授業はありがたかった。
聞くこと全てを吸収して、セイ女様は知識を増やしていった。
そんなとき事件が起きた。
授業が終ったあと、六人の男達がシオンとシエンの命を狙って襲いかかってきたのだ。
シオンとシエン、セイ女様とおか様は、体の不自由なおか様の速度に合わせて、歩いていたためまだ校内にいた。
学園には衛兵が常駐しており、素早く賊に対応した。
だが、衛兵はまるで役に立たなかった。
賊は、暗殺集団ヨミの手練れだったのだ。
ヨミが窮地に立たされていた為の強攻だった。
オリ国の暗殺はことごとく失敗し、ファンの国王の暗殺は魔道士ビビに阻止され、全て失敗していた。
せめて王女だけでも殺さなければ、格好が付かなかった。
そのためのなりふり構わない襲撃だった。
暗殺者は、警備の手薄な学校を襲撃場所に選んだ。
シオンとシエンが体の不自由な女を連れている為、動きがのろいことを掴んでいた。
「探せーー!!」
「邪魔する物は、全員殺せー」
賊は、目に付く人間をことごとく武器の餌食にしていった。
「おねー様、どうしよう」
「隠れましょう」
シオンはシエンの手を取りおか様の手を取り、近くの教室に入り身をかがめた。
いつもおか様とセイ女様を監視しているメイドは、こういう時の護衛でもある。
賊を倒す為、部屋には入らず外を固めた。
「おい、あそこだ」
外に護衛のメイドがいた為、逆に賊に目を付けられてしまった。
六人の賊は顔に薄笑いを浮かべゆっくり近づいてきた。
「きゃっ」
「ぐっ」
メイド達もそれぞれ訓練を受けている猛者なのだが、そのメイド達がなすすべも無く倒されてしまった。
メイドの腹から出た血が床に水たまりの様に広がっていく。
シオンとシエンは目に涙を浮かべガタガタ震えていた。
「あいつらは、倒してもよろしいのですか」
シオンの耳元にセイ女様が小さな声で話しかけた。
シオンはもう声を出せる状態ではなかったため、小さくうなずいた。
白いフードをかぶった、女がゆらりと立ち上がった。
だが目で追えたのはここまでだった。
気が付けば六人が殴り倒されていた。
「おかあ様、皆を助けましょう」
セイ女様が何事も無かったようにおか様の手を取り抱き上げた。
そして一番近くにいたメイドを治癒し、廊下、校庭で倒れている生徒や、衛兵を助けていった。
学校にいる者は、皆、セイ女様とおか様の奇跡を目の当たりにして、言葉を無くしていた。
校庭に出て、治癒がすべて終ると何事も無かったように、シオンとシエンと手をつなぎ帰路についた。
当然シオンとシエンは、嬉しくて目をキラキラさせて、セイ女様に甘えながら歩いていた。
賊は治癒を受けた衛兵に捕らえられ、きつい拷問のすえ、ファン国内のアジトを白状し、オリ国やイナ国、ヤパ国に先んじて暗殺者集団のアジトをつぶす事に成功した。
セイ女様が強いという話しが国王とビビの耳に届くのは早かった。
国王執務室。
「ビビ」
「聞いていますよ、何ですか」
「ガンエイ将軍から、セイ女様と試合をしたいと、言ってきていますが、どうしたらよいと思いますか」
ガンエイ将軍は、ファン国の筆頭将軍で、武力において頭一つ抜きん出た存在である。
ファン国では魔法のビビ、武力のガンエイと言われ恐れられている存在なのである。
「セイ女様にお伺いしたら、よろしいのでは無いですか」
ビビは悪い笑顔で答える。
「そうですね」
国王シアンはビビの表情を見て続ける。
「ビビは結果がわかっているような顔ですが……」
「くっくっくっ」
ビビは可笑しくてしょうが無いようである。
「だって、ガンエイごときが勝てる相手じゃねえわさ」
「まあ、やってみなくてはわかりませんよ」
「そうですね、セイ女様に聞いてきます。くっくっく」
笑いながら、ビビは部屋を出て行った。
コンコン
「シオンいますか」
「どうぞビビ様」
「お前達はその場所が好きだなー」
王宮の子供部屋に入ると、入り口から一番遠い部屋の隅に四人が固まっている。
「セイ女様」
「はい」
「我国の将軍が、セイ女様と力試しをしたいなどと言っておりまして……」
ビビは自分で言いながら驚いた、いつも物静かなセイ女様の目がキラキラ輝いているのだ。
断られると思っていたのに、これはやる気満々なのかと嬉しくなった。
「断っていただいてもよろしいのですが」
ビビはわざと反対にふってみた。
「あのー、やってみたいです」
セイ女様の言葉に、ビビは可笑しくて笑い出したいのを、ぐっとこらえて平静を装った。
「そうですか、ではその様に国王様にお取り次ぎいたします」
「だめーー、危険です」
シオンが反対した。
「こら、シオン、セイ女様がいいとおっしゃるのだから」
「いやーー」
シエンまで反対した。
「ふむ」
ビビは少し困っていた。
こんな所に反対勢力がいるとは、頭を抱えていた。