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北の魔女  作者: 覧都
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第百五十二話 メイの一日

メイは、ケーシーから出された宿題にせいを出している。

これもほぼ終わりに近づいている。


「すごいですね、メイさん」


「はー、なにがー」


「だって、兵の招集人数とか、割り当てとか、そんなこと何処で学んだのですか」


「オリ国だよ、私は元々オリ国人だ。オリ国の王室で働いていたこともあるのさ。昔の話しだけどね。さて、終わりだ」


メイは兵の招集を、村の生産性を下げないよう、人数を割り出した。

ケーシー配下の魔人に終ったことを伝えると、ケーシーがやって来た。


「ふーーむ」


ケーシーはメイの仕事の内容を確認すると笑顔になった。


「すごいですね、メイさんは、これだけの事を二日で終らせるとは、本当にあなたはこの国の宝だ」


ケーシーは上機嫌である。


「では、ゴルド大王にこの二倍で招集するように進言するとしましょう」


ケーシーは口だけ笑顔を残したまま、目が鋭くなった。


「ば、馬鹿な。そのままでもギリギリなのに、二倍など無茶だー、国民のことは考えないのか」


メイが慌てて抗議した。


「私も、ゴルド様も、そんなことは考えませんよ」


メイは、恐怖した。

いつも、メイとサエを自由にしてくれているから、意外と優しいのかと勘違いしていた。

必要な人間には優しく接するが、そうでは無い人間には、とことん冷徹、それが、ゴルドとケーシーなのだと、震えがおきた。


ケーシーが部屋を出て行くと、メイは怒っていた。


「くそーー、これではこの国の人は可哀想過ぎる。せめて私だけでも味方をしなければ……」


サエはメイがゴルド国から動けなくなっているように感じている。

これがケーシーの策略なら、メイさんは術中にはまっていると感じていた。


「さあ、兵士のところへ行こうか」


メイが暗い表情でサエを誘った。


「はい!!」


サエは、メイに元気を出して欲しくていつもより元気に返事を返した。




練兵場では兵士が武器を振り鍛錬していた。

それを監視する将軍が二人いる。

一人は針金のような髭をピンピンと顔中に生やした大男ゴラン。

もう一人は、白い髪、白い髭、体の大きさはゴランに引けを取らない老将軍ウカクである。


メイとサエが来ると、ゴランが寄ってきて二人を見つめる。


「何をしているゴラン、自分の部隊は大丈夫なのか」


メイが、迷惑そうな顔をしてゴランに問いかける。


「ふふふ、あんな寄せ集め今更訓練なんて無駄なことだ」


メイは、こいつもやはりゴルドの血を引いていると可笑しくなった。


「では、昨日教えた実践形式の模擬戦を行う。二軍に分かれよ」


メイは手すりの上に立ち号令をかけるが、メイとサエの服装はお揃いの忍者服である。

下から覗かれてもなんともないのであった。


兵士は、模擬戦用の槍と盾で整列する。


「はじめーー」


メイのかけ声で兵士は、五人一組になり戦い合う。

槍が当たった者は戦闘から離脱する戦いである。

離脱した者は、戦闘終了まで素振りである。


「いいかーー」

「相手より少数では戦うなー」

「五人で戦え」

「一人減ったら、近くの兵と合流しながら」

「五人で戦うんだ」


「のう、メイさんや、このような戦いをどこで」


老将軍が感心しながらメイに質問する。


「ああ、古い戦い方です」


「わしも取り入れて良いじゃろうか」


「どうぞ、ゴルド国の兵士が死なないように訓練してください」


メイが嬉しそうに答えると、ウカクはメイの目をじっと見つめた。

この時にはゴランはつまらなくなって姿を消している。


「メイさんはザンの兵士を本気で心配してくださるのか」


「もちろんです」


「おおおお」


老将軍は膝から崩れ落ちた。

それを見て、ぴょこんとメイは、手すりから飛び降りて、老将軍の横に立った。


ザン国には四人の将軍がいたが三人、ゴルドに反抗して殺されている。

ウカクだけは直ぐにゴルドに恭順し将軍として残されている。

だが、ケーシーからの評価は低く、先日の顔見せの時に、席次は最下位とされていた。

サエより下とされたのである。


死にたかった、他の将軍の様に。

だが、ゴミの様に扱われる兵士を思うと死ねなかった。

兵からは、腰抜け将軍と陰口をたたかれ、ケーシーからは無用の長物と蔑まれ、それでもザンの国民のためと思って我慢して生きていたのである。

ウカクにとっては、国民はゴルド国の国民では無く、まだザンの国民なのである。


メイはそれを感じ取った。

そして老将軍の耳元にささやいた。


「死ぬ気ですか」


「!」


ウカクの目がカッと見開かれ、目玉が落っこちるのでは無いかと思えるほどだった。


「メイさん、あなたはどの様なお方なのですか」


「ふふふ、将軍は世界三大魔女はご存じですか」


「知らぬ者は居ないでしょう、北の魔女様、ヤパの国王ノル様、そして探究の魔女メイ様……」


老将軍の唇が震えていた。

そしてサエの目玉がポトリと落ちそうなぐらい見開かれていた。


「まさか、あなた様が三大魔女の一人」


「この事は絶対の秘密じゃ」


メイの顔がいつになく真剣で厳かであった。


「ウカク、兵の為、国民の為、無駄死には許さん、よいか」


「ははあーー」


ウカクは、地に額を付けていた。


「メイ様……」


サエがメイを様付けすると、メイは幼女の顔になり。


「サエおねーちゃん、わたしは妹だからね、様は駄目だよー」


可愛い少女の声で言うのだった。


「む、無理だよーー」


このやりとりを、兵士達は横目で見ていた。

会話までは聞こえなかったが、ウカクがひざまずくのを見ていた。

自分たちを率いる者が何者かはわからないが、相当すごい人だと恐れた。


「よし、やめーー、全員整列ー」


兵士達が一瞬で整列した。

サエはそれを見て少し笑ってしまった。


「将軍、どうだろう、わたしの兵を鍛えては下さいませんか」


メイは、将軍の力を兵士に見せつけたかった。

メイの配下から一番強い者がニヤニヤ笑いながら出て来た。

サエは失礼な奴と思ったが、これが老将軍に対する兵達の思いなのかと悲しくなった。


「はじめーー」


メイがかけ声をかけると勝負は一瞬で終った。


「一人では相手にならぬ、十人で来い」


ウカクは叫んだ、その姿はりりしく将軍らしかった。

ウカクは何かを吹っ切れたようであった。

サエは大丈夫かなーと心配したが勝負は一瞬にして終ってしまった。


「メイ様、つまらぬものを、お見せいたしました」


勝利したウカクは手すりの上に戻っているメイに頭を下げた。

兵士達は、しんと静まりかえっている。


「よし訓練を再開せよ」


忍者姿のメイとサエに見守られ兵士達は訓練を再開した。

ウカクはもう一度頭を下げて立ち去った。


「あのー、メイちゃん」


「なーにー、サエおねーちゃん」


「メイちゃんの秘密って、皆知っているのですか」


「ほとんど知らないはず、知っているのは伍イ団の仲間くらいかなー」


「まなちゃんも知らないのですか」


「まなちゃんもあいちゃんも知らないなー、それとなくわかるように話したけど気づかれなかった」


「あいちゃんもですか」


「ふふふ、サエおねーちゃんは知らないのですね。あいちゃんとまなちゃんは、よく似ているのですよ。すごいのかすごくないのか、よくわからないところなんかそっくりです」


「ええっ」


サエは伝説のあいがまなそっくりと聞いて驚いた。そしてむしょうに会いたくなった。


「最近は、まなちゃんと一緒の時が多いけど、あいちゃんといるのかと思うときがよくあるくらいさ」


「あいちゃんに会ってみたいです」


その言葉を聞いて、メイはまなの事を考えた。

大親友のあいの行方もわからず、いままたわたしの行方までわからなくなっている。

そんなまなの心を思うとすまない気持ちで一杯になった。


「あの子泣いていないかなー」


メイはどこか遠くを見るような目でつぶやいた。

サエはあの子が誰のことかわからなかった。

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