第百四十八話 メイの試験
ゴルドの私室にケーシーはいた。
リラックスする為に昼でも薄暗い。
その部屋で密談をしていた。
「ゴルド大王様」
「昨晩、侵入者がありました」
「ほう」
「面白い」
「ケーシーが取り逃がすとは」
「その者を配下にしたいのですが」
「ふふふ、好きに致せ」
「わしがそなたのやることに」
「口を出すと思うのか」
「ただ、おぬしが遅れを取るほどの者」
「会ってみたいのう」
「それでお願いがあります」
それを聞いて、ゴルドは上機嫌になった。
ケーシーほどの者が自分に頼み事をしてきたことが、嬉しかったのだ。
「なんだ言ってみよ」
「はっ、情報がいただきたいのです」
「そんなことか」
「情報部門に協力するよう」
「わしが言っておく」
「はっ、ありがとうございます」
「では、配下にしたときは」
「御前にお連れいたしましょう」
「では」
「うむ」
ゴルドという男、ただの暴君かと思いきや、実はそうではなかった。
ケーシー配下の魔人がオリ国国王の暗殺を失敗したことは、人選をしたケーシーに責任がある。
だが、一言も文句を言っていない。
むしろ、オリ国の防衛力を評価し、たたえている。
ザン国の魔道士四人も、今では配下として働いている。
そして、独自に情報を集める為、世界中に密偵を放っている。
世界の情報を一番持っているのはゴルドなのである。
配下の者の実力を知り、うまく使い、情報を集め慎重に行動をする人物なのだ。
だてに世界一の裏社会のボスだったわけではない。
ケーシーはゴルドとは別に自身の密偵を放っているがその数は少ない。
その大半を、ファン国とオリ国に送っている為、ゴルド国内は手薄だった。
昨日の賊の後は追っていたのだが、途中で完全に見失ってしまっている。
「大王からの許可は取ってある」
「ここ数日で外国からの移住者を知りたい」
ケーシーは情報部の部屋に入ると、直ぐに問いかけた。
「少々お待ち下さい、調べてみます」
「外国からの移住者なんかいたかしら」
ゴルド国は、ようやく落ち着いてきたが、まだ安定には程遠い。
そのため、外国からの移住者などほとんどいなかった。
「二名だけいますが、留学希望の者ですね」
「オリ国の商家、シバ家の者です」
「編入試験を受ける為来ていますね」
「なに、学生だと」
「一応確認しておくか」
メイとサエは王城に隣接されたゴルド国の魔法学園に来ていた。
「ちっ、試験なんか受けることになるとは」
「めんどくせーー」
「メ、メイちゃん」
「かわいさがどっかに」
「飛んでいっちゃってますよ」
「ごめんなちゃい」
「サエおねーちゃん」
可愛い声で、可愛い仕草のメイは本当に可愛かった。
先生が問題を持ってくると、試験が始まった。
その姿を、気配を消して後ろから見守る男がいた。
「間違いないな」
つぶやくと、サエと、メイの肩に向かって風魔法をかけた。
二人は強い風が吹いた事には気が付いたが、その目的までは気が付けなかった。
後ろに立っている男はケーシーだった。
ケーシーは配下の魔人をシバ商会に向かわせると、ニタニタ試験の様子を見ていた。
「では、採点をしますので」
「そのまま待っていてください」
「合格なら、次は実技試験」
「そして面接です」
先生が答案を回収すると、その場で採点が始まった。
問題数が多い為採点にも時間がかかった。
「ケーシー様」
「シバ商会の方は終りました」
部下がケーシーの足下にボロボロになったシンを放り出した。
「うむ」
「良くやった」
「今、採点が終る」
「ついでだから点数が知りたい」
「もう少し待て」
ケーシーが言い終わるのと同時に採点が終った。
「サエさんは、全ての教科で九十点以上です」
「もちろん合格です」
「そしてメイさん、あなたは……」
「全教科百点でした」
「もちろん合格です」
「では、次は実技です」
「くーーくっくく」
「頭までいいのか」
「上出来だ」
突然部屋に入り、シンの体をメイの前に投げた。
「お、お前はケーシー」
「おちびちゃん」
「なんで、俺の名前を知っているんだ」
「おい、先生方、実技は俺が引き受けた」
「面接はゴルド大王様が引き受ける」
「わかったら、先生方は授業に戻りな」
「なにを、するきだ」
メイは自分の愚かさを恥じていた。
昨日の段階で、尻尾を巻いてゴルド国から逃げれば良かった。
これで、二度目の失敗か。
前はゲダだったな。
メイは逃げるのを諦めた。
いつもは、肩の辺りにいるクロがいるのだが、今はいなくなっている。
(さっきの風か)メイは今気が付いた。
そして、サエとシンの存在、自分だけ逃げれば、サエもシンも殺されるであろう。
それだけじゃないシンがここにいると言うことは、シバも人質になっている可能性が高い。
後は、ケーシーがどの様な要求をしてくるか。
「そう、警戒をしなさんな」
「こっちの言うことを聞いてくれたら」
「自由にしてやる」
「わかった」
「何でも言うことを聞く」
「シンとサエは助けてやってほしい」
「男の方は解放してやる」
「だが、女は人質として来てもらう」
「これから大王のもとに連れて行ってやる」
「わかっていると思うが」
「失礼があれば、人質は殺す」
ケーシーの表情が、殺す気迫に満ちていた。
だが次の瞬間、緩い笑顔に戻り二人を見た。
そのギャップが余計に恐怖を助長した。
「言うことを聞いてくれれば」
「俺は優しいお兄ちゃんだ」
「おい、ゴルド大王にこの事を伝えろ」
「これより、この者達と、ともに」
「王城へ向かう」
配下の魔人を、大王のもとに走らせた。
ケーシーがメイとサエを連れて玉座の間についたときには、ゴルドはすでに待ち疲れていた。
「実力試験を行う」
「ゴラン将軍相手をしてやれ」
ゴルドが指名したのは次男のゴランだった。
体が大きく、武力だけならケーシーに次ぐ実力者だった
ゴランが前に歩み出ると、メイも前に歩み出た。
「何、そなたが戦うのか」
ゴルドは驚きケーシーの顔を見た。
ケーシーはゆっくり無言でうなずいた。
「では、初めよ」
ゴランは、長い槍に斧の様な刃物のついた武器を、大きく振りかぶって、メイに向かって振り下ろした。
メイは一歩も動かずじっとしていた。
ゴランの斧はメイの横、一センチに振り下ろされたのだ。
「これを、こともなげに見切るのか」
ゴランは斧を、右一杯構えると、横に振った。
これはメイの体を横に一刀両断する勢いの攻撃である。
メイは、いったん目にも止まらぬ速さで後ろにかわし、反転前に出た。
ゴランは、そのまま、斧を左一杯で止めると逆に振る。
だが、その時には、メイの体はゴランの体の前に来ていた。
斧を振るゴランの手を踏み台にして、飛び上がるとゴランの顔を蹴った。
「ガフッ」
この一撃で勝負は決した。
「すごいもんだのう」
「目の前で見ても信じられん」
くるりと一回転して着地をすると、つり上げた眉毛のまま、ゴルドを見た。
その顔は、キリリとして美しく、またかわいらしかった。
ケーシーは一瞬ゴルドに、襲いかかるのではないかと、身構えた。
だが、メイはこのあとスッと臣下の礼を取った。
それを、見るとサエも又臣下の礼を取った。
「大王様、実技試験はいかがですか」
ケーシーがゴルドに問いかけると、ゴランがのそりと起き上がり驚いた表情でメイを見つめた。
「ふふふ、合格じゃ」
「今日よりケーシーの補佐を命じる」
「行くぞメイ!!」
ケーシーが二人を連れ出した。
「どうだね」
「昨日侵入しようとした」
「王城の様子は」
「そしてゴルド大王は」
「ちっ」
「もっと、暗愚な王であれば」
「良かったのだがね」
「ふふふ」
「お前には練兵を任せる」
「こっちだ」
ケーシーが兵士を訓練している練兵場に案内した。
そこには瀕死の兵士達が、フラフラ武器を振っていた。
「なにをしている」
「逆効果だ、止めさせろ」
「死んでしまうぞ」
「そうか、俺には」
「どの位が良いか」
「加減がわからなかった」
「後は任せる」
「メイ将軍、宜しく頼むよ」
ケーシーはメイを置き去りにして何処かへ行ってしまった。