第百四十五話 シバ家との交渉
シバ家、王都屋敷。
オリ国の貴族屋敷街の外れにあり、広い庭のある大きなお屋敷である。
ここに、後イ団オリ国支団長ヅイの姿があった。
シバ家から仕事の依頼を受けたのだ。
仕事の依頼内容は、護衛と情報の提供である。
本日シバは、パレイ商会という謎の商会から面会の予約が入っていたのだ。
一度だけザン国内で会ったのだが、異常に強い集団だった。
何の目的があるのかわからないが、会いたいと言うのだ。
断りたかったが国王の紹介状が届きことわれなかった。
殺されはしないだろうが、護衛は必要と考えたのだ。
後イ団の支団長を呼んだのは他にも理由がある。
後イ団と言えば、この世界一の登録者集団で、そのオリ国支団長といえば、相当な知名度である。
その支団長を呼べるというのが、シバ家の実力であると、知らしめるために呼んでいるのだ。
二階の窓から見ていると、六人の女性があるいてきた。
ヅイはそのメンバーを見て目玉が飛び出すほど驚いた。
「シ、シバどの」
「あの方達と揉め事を起こしているのなら」
「俺では役に立たないぞ」
「えっ」
「それはヅイ殿が勝てない」
「相手と言うことですか」
「足下にも及ばない相手だ」
「あの、髪が襟足でピンピン跳ねている方が」
「伍イ団のレイさんだ」
「伍イ団の始祖の五人だ」
「あ、あの方が始祖の五人の」
「一人ですか」
「そして、あの小さい、可愛い子供が」
「キキさんだ、ヤパの武術大会の優勝者だ」
「世界一強い女の子だ」
「あの試合は見ていました」
「あの子がキキさんですか」
「な、なんと今日間近で会える」
「すごい」
「そして、あの胸の大きい人は」
「ヤパの最高位魔法使いだった」
「パイさんだ、今はあの方の警護だ」
「ゴクリ」
「あの方とは?」
「真ん中を歩く変な服を着ている」
「まな様だ」
「あの方は、極秘にされている為」
「無名だが」
「その実力は、貧民のあい様に」
「匹敵する方だ」
「それほどの方が」
「うちを訪れてくれた」
「これは、とても名誉なこと」
「そうですな」
「粗相のないよう」
「くれぐれもお気を付けて下さい」
シバの顔が緊張にこわばった。
「はっ」
「息子シンに伝えなければーーーー」
が、すでに遅かった。
パレイ商会の六人は庭の通路を案内されていた。
六人の内訳は、まな、キキ、レイ、パイ、先生、サエである。
庭を案内されている六人はキョロキョロしながら歩いていると、剣の鍛錬をする一人の男を見つける。
この男こそまなの胸を貫いた、シンである。
「お前達、何しに来た」
「すごいですね、今日も鍛錬ですか」
私は今日、交渉なので下手にでます。
すっごい作り笑顔です。
「おいブス、おまえ笑顔が引きつっていて」
「余計ブスになっているぞーー」
な、なんだとーー。
こっこ、こいつもロボダーと、同類だー。
一応こいつも顔は整っている。
顔のいい男ってこんな奴多いなーー。
「きさま、これ以上まな様を侮辱するなら」
「ただでは、置かんぞ」
「がう、がう」
ぎゃーーー、うちの女性陣は血の気が多すぎです。
五人そろって臨戦態勢です。
「まて、まて」
「皆さーん」
「どうぞこちらへ」
当主のシバさんが迎えに来て下さいました。
「シン、おまえ失礼はなかっただろうな」
「ふんっ」
うわー、感じ悪――。
なんでこの人こんなにわたし達を嫌っているんだろう。
わたし達はシバさんに少し広い応接室に通された。
全員にお茶がだされるとレイさんが話しを切り出した。
「シバ殿、早速ですが」
「こちらの要件をお伝えします」
「よろしいですか」
「はい」
シバさんがなんだかうっとりしながら、レイさんの顔を見ているような気がします。
「ここにいる、サエと」
「今日は来ていませんがメイの二名を」
「ザン国、今はゴルド国ですが」
「ここの魔法学園に入学させたいのです」
「ほう」
「シバ殿の遠縁の」
「親戚として入学させては」
「頂けないでしょうか」
「それは何故ですかな」
「二人ともイナ国の」
「魔法学園に通っていますが」
「より優秀なゴルド国の」
「魔法学園に通わせたいのです」
「なるほど」
「良いですとも」
「で、私はどの様な」
「対価を頂けるのですか」
「対価次第と」
「言われるのですね」
「そうです」
「商人ですから」
「シバ家では」
「ゴルド国にどの様な」
「商品を納めておられますか」
「酒と砂糖です」
「ですが、人気商品で」
「なかなか仕入れることができません」
「仕入れることが出来ても」
「十分な量が仕入れられません」
「それでは、酒と砂糖」
「必要な分、必要なだけ」
「二人が学園に通う間」
「ゴルド国内の倉庫でお渡ししましょう」
「なっ」
「願ってもないことだが」
「それをどうやって」
「保証してくれるのですか」
「いまから証明してみましょうか」
「でも、これを見たら」
「この情報が外に漏れたとき」
「シバ殿の命がなくなります」
「その位の極秘情報です」
「御覚悟いただけますか」
シバさんはここでゴクリと唾を飲みこみ、頭の中で情報の整理をしている様でした。
「私も商人の端くれ」
「商売には命がけだ」
「良いでしょう」
「証明してみて下さい」
この言葉を聞くと、レイさんは悪い顔で、悪い笑顔をみせました。
わたしが見ても恐ろしいと思うような笑顔です。
「まなちゃん」
「お酒と砂糖をこの机の上一杯に」
「出してください」
「わかりまし」
わたしはあえて事もなげ感を出すため言葉の途中で机一杯にお酒と砂糖を出した。
「た」
「うおおおおーーー」
「すごい、すごいぞ」
「いや、だが、本物かどうかは」
「まだわからん」
「まなちゃん、湯飲みを出して上げて下さい」
「絶対壊れない、綺麗な奴を」
「はい」
わたしは、ガラスのグラスを出しました。
下八割位を、すりガラスにして、そこにいつもの若草模様を入れて、模様の所は透明にしました。
そして、防御魔法をかけて壊れないようにしました。
それに、レイさんが机のお酒をなみなみと注ぎ、一口飲みました。
それをシバさんの前に置きます。
「ふふふ、美女の毒味とは」
「素晴らしい」
嬉しそうにグラスの酒を飲み干した。
「かーーー」
「うまい」
シバさんがグラスを机に置くと、そのグラスをレイさんが堅そうな柱に投げつけました。
カーーン
柱に傷が付き、グラスの方には傷一つ、ついていませんでした
「この湯飲みは、おそらく」
「国王様も手にしていない」
「国宝級の湯飲みです」
「お近づきの印に、お納め下さい」
「お、おおお」
「すごい」
「そうか、お酒の出所が」
「まったくわからなかったが」
「まな様が、製造しておられたのか」
「どうですか」
「シバ様の納得いく証明に」
「なりましたでしょうか」
「そして、これは超極秘情報です」
「わたし達を信頼いただけましたでしょうか」
あえて、最重要と思える情報を見せて、相手の信頼をつかみ取ったようです。
レイさんはすごい人です。
「わかりました」
「わかりましたとも」
「是非、協力させていただきたい」
レイさんとシバさんが笑顔で握手した。
「所で、そこの小さい子がキキさんですか」
シバさんが笑顔でキキちゃんの顔をのぞき込んだ。
キキちゃんは急に顔をのぞき込まれて、人見知りをして私の後ろに隠れた。
「ふふふ」
「実際、あの試合は見ていたが」
「聞かないとこの子が」
「優勝者とはわからない」
「人間の記憶などあてに」
「なりませんなー」
キキちゃんは私の後ろから、ちょっぴり顔を覗かせて、シバさんを見つめました。
「いやーー」
「かわいいですな」
「この子が、あの強者揃いの」
「武術大会に、優勝したとは」
「信じられませんな」
シバさんは、キキちゃんが気に入ったようです。
このあと、シバ家を出たときパイが、レイにこんな質問をした。
「あのーレイさん」
「まなさんの秘密を」
「話してしまいましたが」
「大丈夫ですか」
「くすくす」
「まなちゃんの凄さが」
「少しずつ漏れていくのは」
「しょうがないことです」
「これは、まな一家の総意ですよ」
「うわー、まな一家いいですね」
「私も入っていいですか」
「パイさんはもともと一家の一人です」
「私はーー?」
サエと先生も聞いていた。
もちろん返事は、
「二人とも大切な一員ですよ」