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北の魔女  作者: 覧都
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討伐依頼

三人が買い物を済まして、表に出ると、大人姿のシャムが待っていた。


「あっ、シャムちゃん」


「あいちゃん、探さなくて済んでよかった」


シャムはあいの横の二人を見ている。


「ごめんなさい、紹介します。伍イ団の仲間のレイさん、こっちらがメイさんです」


二人を見つめシャムがいう


「あいちゃん話があるのだけど、三人で来てくれるかな」


あいはレイさんとメイさんがシャムちゃんのお眼鏡にかなったとほっとしている。


三人はアド商会の二階の、応接室に通された。


「今日、王室から正式にアド商会へ討伐の依頼があったんだ、あいちゃんに行って貰いたい」

「報酬は金貨五万枚、伍イ団で受けてもらってもいい」

「まあ、伍イ団が断ってもあいちゃんには、一人ででも、行ってもらうけど」


王家の依頼内容はこうである。

イネスの北の森に巨大な魔獣が出た為、それを討伐しようと兵士を百五十名投入したが、全滅してしまった。

今回新たに討伐隊を兵士四百五十名、登録者を三百名で編成する。

失敗できないので、魔獣に兵士が負けたとき、こっそりアド商会で魔獣をたおしてほしいとの依頼であった。


「あいちゃんを一人で行かせられません」

「伍イ団で引き受けます」


メイが答え、レイとあいの方へ向き


「ガイ君とロイ君には後で報告しよう、あの二人が反対するとは思えないけど、反対なら私一人でも参加する」


「私も参加します」


レイも続く


「あいちゃんはいい仲間に恵まれたね」

「グエン商会に、討伐隊の募集が出ているはず」

「それを受けて、討伐隊に混ざり、この依頼を達成してほしい」


「はい、分かりました」


三人は声を合わせ答え、アド商会を後にした。



三人はグエン商会に向かったが、途中でレイが、ガイとロイを呼びに行くため別れた。


グエン商会の前で五人が揃うと中に入った。

正面の受付嬢が五人を見つけ、話しかける。


「例の討伐の件ね。アド商会から詳細は聞いています。受付は済ませてあるから、一人金貨四枚の報酬を受け取ったら明日朝一で、北西の広場へ行って頂戴ね」


「はい」


五人は答えた。


「このまま別れてもね、晩ご飯食べてから帰ろっか」


ガイが誘うと、皆賛成した。



翌朝、イネス北西広場。


人が大勢、討伐の準備で忙しそうに働いている。

人が大勢いるところには、貧民の子供も大勢出て来ている。


あいは、母親にうるさく行ってこいと言われるため、気が進まないけど、出向いていった時のことを思い出していた。


母親としては、なにか食べ物の一つでも貰えればという思いなのだが、貧民に施しをする物好きなどいやしない。

下手に近づくと殴る蹴るなど、暴力を振るわれ大けがをする恐れもあった。


近くにいるロイに


「私、あの子達の所へ行って来ていいかな」


「俺たちはたいしてやること無いから行ってきていいよ」


「ありがとう、じゃあ行ってくるわね」


あいはセーラー服を消去し、消去してあった貧民服を出し一瞬で着替えた。


物欲しそうに人の動きを見ている貧民を見て、悲しい気持ちになるあいは、自分の立ち位置が人の動きの邪魔になっていることに気が付かなかった。


「邪魔だ!」


あいは髭面の兵士に思い切り尻を蹴られた。

その蹴りは貧民を殺す勢いの本気の蹴りだった。

その勢いで、顔を強く地面に打ち付け二転、三転、転がった。

転んで目を開けると、ロイが鬼の形相で、剣に手を掛け早足で髭面兵士の方へ、近づくのが見えた。


「だめーー!」


あいがロイの足をギュッと掴んだ。

剣に手を掛けていたロイは、受け身を取れず顔面から転んだ。

顔を地面に打ち付け我に返って、優しい表情であいの顔を見る。

イケメンで優しい表情のロイだがツルっと鼻血がでているため台無しだった。

そう言うあいの鼻からも血がツルっと両方の穴からでていた。

二人はお互いの鼻血を見て、爆笑した。


「ロイさんありがとう」


「いや、こちらこそ、あのままでは大変な事になっていた」

「浅はかだった」


ロイはあいに深々とあたまを下げた。



あいは貧民の小さな女の子に声を掛けた。


「お姉さん、人肉、じゃない、あなたたちのパンがほしいの」

「ほら、これかこれのどちらかと交換してほしいの」


手に美味しそうなパンと銅銭を持って前に出した。

女の子はコクコクと頷くと駆け出した。


「いくらでもあるから、お友達にも話して一杯持ってきてね」


あいの前には行列が出来ていた。


「どっちがいい」


そう聞くと皆、パンを選んだ。

腐ったパン一個に対して、二個の美味しいパンを手渡した。子供達は皆大喜びでかえって行った。


「これはキキちゃんのためだから」


そうつぶやいてみても、空しさが残った。

こんなことをしても、いままさに苦労をしている貧民の子供達の、本当の意味での助けになどなっていないのだから。

喜んで帰って行く貧民の子供達の後ろ姿をみていると、罪悪感で胸が押しつぶされそうになっていた。


「頑張って生きてください」


最後に並んでいた小さな女の子の、栄養失調の痩せた体をを抱きしめ、頭を撫でながらつい口からでてしまった。

女の子は最初、何のことか分からない様だったが


「お姉さんもね」


女の子の小さな痩せた手があいの頭を撫でてきた。


あいは声を出して泣き出してしまった。

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