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北の魔女  作者: 覧都
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第百三十九話 床ドン

セイ女様は子供部屋の入り口から一番遠い片隅で、死体の様なおか様を抱っこし、左足でシオンを膝枕して、右足でシエンを膝枕している。


おか様というのはあいの事で、セイはおかあ様と呼んでいるつもりだが、おか様と聞こえることから、ファンの国の人はあいをおか様と呼ぶ。

セイの事は、セイ女様と呼んでいる。


シオンとシエンは初めて堅い床で横になり、体が痛くて眠れなかった。

だが、セイ女様はおか様を片手で抱っこして空いた手で、シオンとシエンを交互になでてくれている。それが心地よくて、体の痛みを我慢してでも、この場所から動けなかった。


ドン


「きゃーー」

「いたーい」


突然セイ女様が、立ち上がり、シオンとシエンが床で頭をぶつけてしまった。


セイ女様は立ち上がるとそのまま、部屋の外へ出て行ってしまった。

お付きのメイドがあわててその後ろを追いかけて行く。


「どうしたのでしょうか?」


シエンが、床にぶつけた頭をさすりながら、姉のシオンに聞いてみた。


「何でしょう」


言いながら、窓から外を見ると、まだ夜も明けきらない暗い中に、松明のような光が見える。


「あの人達と何か関係があるのかしら」

「シエン、私もあの二人を追いかけます」


「まって、お姉様、私も行きます」


二人はセイ女様を追いかけた。

セイ女様とおか様は神殿跡の建物の中に入っていくのが見えた。

二人は建物の中を見て驚いた。

まだ夜も明けきっていない建物の中に、多くの人が既に集まっていたのだ。


ぐったりとして死体の様な、おか様を抱きかかえ、セイ女様が集まっている人に治癒を施し始める。


「セイ女様、ありがとうございます」


治癒を受けた者達が次々元気になり、感謝を述べて帰って行く。

中には涙を流して感謝をしている者までいる。


「ありえない」


シオンはこの光景を目の当たりにしてもなお、信じられなかった。

それはビビから、治癒には膨大な魔力がいると聞いていたからだ。


「二人は奇跡の二人なのさ」


王国魔道士のビビがシオンの後ろから声をかけた。

シオンが振り返るとそこには母の姿もあった。


「お二人は、患者がいなくなるまで、ずっと治癒をし続けるのですよ」


シオンはうなだれ、とぼとぼ部屋に向かって歩き出した。

その後ろをシエンが付いていく。




シオンは学校から帰ると部屋でセイ女様とおか様を待っていた。

二人が帰ると、真っ先に出迎え世話をし始めた。

メイド達よりも世話をしている。


「ありがとう」


セイ女様が、シオンに感謝の言葉を口にした。

シオンの目から涙がこぼれ、止まらなかった。


「とんでもありません」

「なにかあったら何でも言ってください」


シオンの口から自然に言葉が出ていた。

その夜もシオンとシエンは、セイ女様に甘えて、堅い床で眠った。


ドン


「きゃあーー」

「いたいーー」


おかげで朝一の床ドンも昨日の朝のままだった。




それから三日後にようやくおか様の目が開く。

それには、シオンが一番喜んだ。

目が開いたのは良かったがおか様の体は今まで通り動かなかった。


シオンはセイ女様と少しずつ会話をして、セイ女様が見た目は大人だが中身は子供ということに気がついた。

しかも、自分より幼い事に気が付いた。

シエンから見ても歳下に見えるようで、普段はセイ女様にお姉さんのように振る舞った。


そのくせ夜になると、セイ女様に甘えて眠り、朝の床ドンで目覚める生活を続けていた。


おか様が歩けるようになる頃には、セイ女様とおか様のいない生活など、考えられないようにまでなっていた。






ゴルド一家は、逆らう者を許さない恐怖政治によって国を一気にまとめ上げた。

魔王の森の領地に巨大な城を建設する為、奴隷や、人買いから人間を買いあさっている。


「ケーシー」


「は、ゴルド大王」


「いよいよ、オリ国とファン国に」

「戦いを挑む準備に入る」

「その前哨戦として」

「腕の立つ魔人を送り込み、王族の暗殺を試してみたい」

「やってくれるか」


「わかりました、オリ国には手下を」

「ファン国には私が直々に行きましょう」


「うむ任せた、結果を楽しみにしているぞ」


「ははー」


ケーシーは魔王の森から、配下の幹部魔人を二人呼び出しオリ国へ派遣した。

そして自らはファン国に潜入する。


ファンの国は西に海、東にゴルド国、北は魔女の森、南をヤパの国という位置関係で、ゴルド国にとっては一番攻めやすい国である。

その王都にケーシーは潜入した。

国王シアンか王女シオン、シエンを殺す為。


「国王または王女を襲うなら何処が良い?」


事前に放っておいた密偵に国王と王女を襲いやすい場所を尋ねた。


「ケーシー様を防ぐ手段などこの国の人間には無いと思いますが」

「結界を張っている王城よりは、神殿がよろしいかと」


「神殿だと」


「はい、この国の熱病の治癒の為よく足を運んでいます」

「護衛は連れていますが、一番の戦力が魔道士です」


「いないのも同然か」


ケーシーはにやりと笑った。


「では、明日神殿で国王を待ち伏せするとしよう」

「国王が来た時点で皆殺しだ」

「わーーはっはっ」


ケーシーが今度は大声で笑った。

つくづく魔人は人間が殺したいらしい。




シオンはウキウキしていた。

当然シエンもウキウキしていた。


今日は学校が休みで一日セイ女様とおか様と一緒にいられるからだ。

床ドンで目覚め、先にセイ女様とおか様は神殿跡に向かったが、準備が終ったら直ぐに向かうつもりだ。


神殿跡の建物には、重い病の者や、けが人が押しかけている。

熱病の者は既に治癒が終わり、セイ女様とおか様を引き留めておく為、国王が何でも良いから病人を集めているのだ。

移動にかかる費用も治療にかかる費用も王国持ちという触れ込みで患者を集めている。

患者はただで治してもらえるということで、連日多くの患者が押しかけている。


セイ女様は皆に感謝されるのが嬉しいらしく、毎日嫌な顔ひとつせず、聖女の微笑みで治癒をしている。

遅れてきたシオンとシエンが近寄ってくると、無表情のおか様の口がセイ女様にしかわからない位に、微かに微笑んだ。




それを神殿跡の装飾の入った立派な柱の影からケーシーが見ていた。


「おい、あのフードで顔の見えない二人は何だ」


「はい、ここではセイ女様とおか様と呼ばれています」


「魔道士など糞だが、あの二人はやばいぞ」

「治癒は魔力を大量に使う」

「あれほどの治癒が出来る者など」

「大魔王様位しか俺には思い当たらんぞ」

「なぜ、報告しなかった」


「は、申し訳ありません」

「ただ、見てくださいあの歩き方」

「歩くのがやっとな二人です」

「本当に治癒が出来るなら」

「自分たちこそ治癒をしているものかと」


ケーシーが鋭い視線を白いローブと茶色いローブの二人に向ける。


「確かに演技のようには見えんな」

「となると、あの治癒が、本物ではない可能性があるな」


「は、私はその様に判断し」

「報告を致しませんでした」


「わかった」


「ケーシー様」

「あの二人のそばに来た少女二人」

「あれが王女、シオンとシエンです」


「そうか」

「あとは国王が来れば」

「ゴルド様からの命令は達成だな」


ケーシーは少し顔を下に向け声を出さず、肩だけで笑った。


「何ですってビビ、それでは困る、何とか致せ!!」


「と、言われましても、日々何千人も治癒をしていれば」

「患者などいずれいなくなります」

「既に日々訪れる者が減ってきていますから」


「では、もう肩こりでも何でもよい、とにかく患者を集めるのだ」


国王シアンは患者が、聖女様をファン国に縛り付ける一番簡単な鎖だと考えるようになっていた。


暗殺者、魔王軍最高幹部第二席ケーシーが待っているとも知らず。

のんきに国王シアンが、王国魔道士ビビを連れ、建物の入り口に近づいて来てしまった。


「ケーシー様、あれが国王と、魔道士ビビです」

「お忍びのようで護衛は連れていませんね」


「うむ、わかった」

「神殿の奥に入ったら、全員、皆殺しだ」

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