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北の魔女  作者: 覧都
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第百三十八話 セイ女とやんちゃ姫

「おはよう」


夜が明けると、国王シアンが子供部屋に、セイ女様の様子を見に来た。


「おはようございます。お母様」


シオンは布団の中で目覚めていたのか、母の挨拶に直ぐ答えた。


「うわああーー」

「ビビ、ビビを呼んで下さい」


ビビもセイ女様の様子が知りたくて近くに来ていた。


「ど、どうされました」


「どうされましたじゃありません」

「何を落ち着いているのですか」

「見なさい」


そう言われて、ビビが子供部屋を、隅々まで見回す。


「うわあっ」


どこにもセイ女様とおか様、二人の姿が無かった。


「うるさいなー」

「何を騒いでいるのですかー」


シエンが布団から上半身を起こし、まだまだ寝ていたいので不機嫌に訴える。


「あなた達、昨日の二人が何処へ行ったか知りませんか」


「知らないわよ、あんな人達」


シオンとシエンの声がそろった。

その返事を聞くと国王シアンは激怒する。


「あ、あなた達はあの二人が」

「この国にとってどれだけ重要な人か」

「わかっているのですか」

「どうしましょう、また放浪の旅に出てしまっていたら」


国王シアンは頭を抱えてしまった。




シオンとシエンは、久しぶりに母に怒られて嬉しかった。

いつもは国王である母は忙しくて、子供部屋に来ることなどはない。

シオンは九歳、シエンは七歳、まだ母親に甘えたい年頃である。

二人の容姿は父親も整った顔だったのだろう。

大きくなれば美しい国王シアンより、上を行くと思えるかわいさだった。

母親譲りの金髪がさらにかわいさに拍車をかけていた。


「お母様、あの二人はいったい何者なのですか」


母の国王シアンはこの質問が聞こえなかったのか。

質問に答えずつぶやいた。


「うかつでした、見張りをちゃんと付けておくべきでした」


「陛下――!」

「お二人が、見つかったと報告がありました」


衛兵が、走ってきて報告をする。


「そ、そうですか」


母親の顔がぱっと明るくなり。


「直ぐに行きます」


足早にビビを引き連れ子供部屋を出て行ってしまった。


「あの二人、何なのー!!」


シオンと、シエンは怒っている。

国王の子として生まれて、始めての怒りだった。

母にとって、今まで自分たちが一番の存在だった。

それが、今あの二人に抜かれてしまった気がする。

その怒りは気持ちの悪い二人に向かった。


「あいつら許さない!!」




シオンもシエンも生まれてからずっと甘やかされて育ってきた。

特に次期王であるシオンには誰もが言いなりだった。

二人を叱れる存在は、母である国王と王国魔道士ビビだけだった。

だれもが媚びた笑いを浮かべ、なるべく用事を速く済ませ、面倒くさい二人から離れたがった。

二人とも孤独だった。

周りに大勢人がいるのに孤独だった。

それが余計に二人を我が儘にし、横暴にした。


こんな二人は学校でも少し浮いた存在だった。

学校に着くと、教室では一つの話題で持ちきりである。

話題の主は突然降って湧いたようなセイ女様とおか様のことだった。

シオンは自分の知らない話題に耳をすましている。



「すごいんだって」

「昨日いた病気の人全員治しちゃったんだって」


嘘でしょそんな話し、治癒魔法は魔力が大量に必要だから、ビビ様だって一人を治す事すら出来ないって言っていたわ。


「白いローブと、茶色のローブを着て顔は隠していたんだって」

「今日学校に来るとき見たけど、病気の人一杯集まっていたわ」


流石に二日続けてなんて出来ないでしょう。

馬鹿じゃ無いのかしら。


「おはようございます」

「シオン様」


取り巻きの公爵家の娘が近寄ってきた。


「おはよう」

「ミヤさんは、聖女様の話は知っていましたか」


「いいえ」

「庶民の話は教えてもらえませんので」


「そうよね」

「私も知りませんでした」


「でも、本当なら」

「すごい人ですよね」


ミヤの目がキラキラ輝いている。

シオンは身近にいる、大魔道士ビビの話しを聞いているので、全く信じていなかった。


「そんな人はいませんわ!!」


「そ、そ、そうですね」


ミヤは機嫌の悪くなった、シオンを見て逃げるように離れていった。




シアンとビビは呆れていた。

セイ女様とおか様は病人の所にいた。

既に暗いうちから来て治癒をしていたと言うのだ。


「ビビ、どう思いますか」


ビビはこの質問にも呆れていた。

これじゃあ何が聞きたいのか、わからない。


「昨日の今日でこれだけの治癒が出来るなんてすごい魔力です。子供に治癒をするときの笑顔は、心からのものでこちらまで嬉しくなります」


とりあえず、思うことを答えてみた。


「そうですね、聖女様としか思えませんね」

「この二人は、絶対にファン国からは出してはいけません」

「どうしたら良いと思いますか」


「病人と、子供でしょうか」


「監視です、二十四時間監視をして、絶対見失わないようにして下さい」


「わかりました」


ビビは、少し心配になった。

セイ女様もおか様も監視などでファンに縛ることは出来ない。

怒った二人を止めることは誰も出来ないと思っている。

この優しい二人は誠意をもって接する事が一番大事だと思っていた。

とは言え王命なので、八人のメイドを世話係兼監視人として編成し、二十四時間体制で身の回りの世話をさせることにした。




事件はその夜に起きた。

治癒をすました二人が後ろに二人のメイドを連れて、子供部屋に帰って来た。


シオンはベッドに座り入ってくる四人に冷ややかな視線を送っていた。

おか様がシオンの前によたよた歩いて来たとき足を出し、引っかけて転ばしてしまった。


「ぎゃはははー」


余りにも見事に倒れ込むおか様を見てシオンは爆笑する。


「ぎゃあああああーーー」


その後床に倒れ込んだおか様の姿を見て大きな悲鳴が上がった。

おか様のフードが外れ潰れた頭が露出し、その潰れた頭から、金魚鉢を倒した様にバシャっと、赤い液体が大量にこぼれたのだ

それを見て、付いてきたメイドとシエンそして、足をかけた本人シオンも悲鳴を上げた。


おか様ことあいは倒れたままピクリとも動かなかった。

シオンは美しい大人びた顔をしているがまだ子供である。

両手で口を押さえると、自分のしでかしたことの大きさに、どうして良いかわからず、大粒の涙をこぼしていた。

セイもおか様の姿をみて呆然としてまったく動けなかった。


悲鳴を聞き、国王シアンと魔道士ビビが子供部屋に飛び込んで来る。

惨状を見た国王の顔は見る見る激怒の表情に変わっていった。


「誰がやったのですか」


「シ、シオン様です」


事の大きさに震えながらメイドの一人が答えた。


「シオン!!」


シアンがシオンに掴みかかり手をあげた。

声も出せず悲しそうな顔をして、大粒の涙を流すシオンの顔を見て、セイは勝手に体が動き二人の間に入った。

それは目にも止まらぬ速さだった。


バシィ


シアンの手はセイの背中を叩いていた。


「あっ」

「ご、ごめんなさい」


我に返った国王シアンがセイに謝った。

セイは何も答えず、シオンに抱きつき泣いていた。


「……」

「大丈夫」

「大丈夫です、おかあ様は死にません」


シオンに優しい笑顔を向けると、のそりと動きあいの体を抱き上げた。

あいは目を閉じ死体の様にピクリとも動かずセイに体を預けている。

セイはあいを抱きかかえたまま、あいの好きな部屋の隅にちょこんと座り込み肩をふるわせていた。


流石のシオンもシエンもセイの気持ちを考えるといたたまれなかった。


「シオン、掃除はあなたがしなさい」


国王シアンはそう言うと青い顔をしてビビを見た。


「大丈夫です」


ビビは、しょげる国王を慰めながら子供部屋をあとにした。

シオンはメイドと床の掃除をしたが、雑巾がびちゃびちゃになるほど体液がこぼれていて、頭の潰れた女の体を心配した。




「この人、これだけの事があっても一言も文句を言わなかった」


シオンはセイを見つめてつぶやいた。

シオンとシエンはベッドに座り、二人の姿をずっと見つめている。

そして、セイの優しさに大きく感動していた。


シオンはセイの足もとに近づくと「ごめんなさい」と心から謝った。

そしてセイの体に触れるようにゴロンと横になり生まれて初めてベッド以外で眠った。

それを見て、シエンもシオンの横で眠った。

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