第百三十六話 パレイ会議
まなは暇そうに大あくびをしていた。
ここはパレイ商会一階、お会計のカウンターです。
店内には机と椅子のセットが四つだけ置いてあります。
大きな机ですが、部屋が広いためちっちゃく見えます。
商品が何も置いていない店内には、お客様は誰も来ません。
キイィイ
「じゃまするぜ」
あら人相の悪い体格のいい人が一人入って来ました。
「邪魔じゃ無いですよ」
「丁度話し相手が欲しかった所です」
「何のご用ですか」
「いや、こっちは特に用はねえ」
「なにを売っているのか」
「見せてもらおうと思っただけだ」
「見ての通りです」
「ほう、あの石の机が商品か」
「いいえ、その机はご飯を食べる為の机で、商品ではありません」
「じゃあ、その食べ物が商品ってわけか」
「ここは、食堂か」
「それも違いますが何か食べますか」
「じゃあうまいものを頼む」
さて何を出して差し上げましょうか。
スプーンだけで食べられる物がいいですね。
「ふわトロオムライスでどうでしょうか」
「仕上げにナイフで切れ目を入れると」
「うおーー、トロトロの玉子が出て来た」
「グレイビーボートにデミソースを入れておきました」
「お好みだけかけて食べて下さい」
「デミソースと言うより具をたっぷり入れてありますからビーフシチューと言った方が良いかもしれませんね」
「す、すごい、良い匂いがする」
「私もいただきます」
「うん、おいしい、少し薄味にしたチキンライスと、玉子、デミソース全部が口の中で混ざり合うととてもおいしいですね」
「う、うめーーー」
「なんだこの食い物は」
「飲み物は、お水と、梅酒にしましょう」
「これもどうぞ」
「うめーー」
「可愛いねーちゃんと一緒にこんなうめーもんが食えるなんて」
「何て良い店ダーー」
私をこんなに褒める人がいるなんて、青龍団の団長以来だわ。
とおもったら、ブス専の青龍団団長の青龍だーーー。
褒められてこんなに嬉しくないなんてーー。
しかもこいつ私を完全に忘れているみたいだし。
「店長私もその方と同じ物を」
「お願いします」
ぐはっ、ノルちゃんが来ました。
「あのーここは食堂ではありませんが」
「大丈夫です、お腹が空いています」
「それより、大変な事になりました」
「もうじき皆集まると思います」
「おいしいお食事お願いします」
結局部屋中に机を用意して食事会が始まりました。
「で、あなたは誰ですか」
ノルちゃんが、口の回りをベチョベチョにして、お替わりのオムライスを食べながら、青龍に質問しました。
「お、俺は青龍団団長の青龍だ」
「へー、いつからまなちゃんと、二人で食事をする関係になったんですか」
「へ、えらそうに、お前こそ誰なんだ」
「私はヤパの国王ノルです」
「げーーーっ」
「まじかー」
「じゃあ、あの方はイナ国の国王サキ様か」
「へーーよく知っているじゃ無いの」
「ま、まあな、自国の国王はわかる」
全員オムライスを食べ終わると緊急国際会議が始まりました。
オリ国から最近国王になった、マリアちゃん、妹のマイちゃん、イナ国から国王サキちゃん、国王の叔父ササさん、そしてヤパの国から王ノルちゃんと勇者ロイさん。
ミッド商会会長コウさんと幹部の方、伍イ団と後イ団の方、偉い人とそのお付きの方が勢揃いです。
「そして、今日皆さんに集まってもらったのは、新しい料理とろとろオムライスを食べるためですが、ついでに知っておいて欲しい事があります」
「ザン国が滅亡し、新しくゴルド国が誕生しました」
「えええっ」
オムライスよりこっちの方が大事ですよね。
「ザンの王族はことごとく粛正され、貴族が亡命しています」
「あっ、まなちゃん私にうな重を下さい」
ノルちゃん、こ、ここで言わなくても。
「まさか、ゴルドが、ここまでやるとは思えませんでしたが」
「もぐもぐ」
「何か強い力を感じます」
「もぐもぐ」
ノルちゃんがうな重を食べながら話しています。
「ゴルドはザンだけで満足しないでしょうね」
「まなちゃん私もうな重」
まりあちゃんまで……。
「今はまだ国内の平定に時間がかかるでしょうが」
「もぐもぐ」
「つぎの目標は、ファンか、私の国オリでしょうか」
「もぐもぐ」
「俺たちミッド商会もゴルドの標的にされる」
「まなさん、俺にもうな重」
「ここは、ザンの残党を吸収してゴルドに備えないと」
「もぐもぐ」
コ、コウさんまで。
「いま、ゴルドが、奴隷や、人買いから人を買い集めています」
「まな様、俺にもうな重」
「ゴルドに買われた人はゴミの様に扱われ」
「もぐもぐ」
「大勢死ぬだろう、なんとか邪魔をしたい」
「もぐもぐ」
チュ、チュウさんまで、
「ならば、お金と軍事力を増やさないといけない」
「あーまなちゃん、わたしはうな重ご飯なしで」
「ゴルドが何を手に入れたか調査をする必要もある」
「もぐもぐ」
メイさんまで。
「だいたい、なんでみんなそんなに余裕なんですかーー」
「えっ」
全員が驚いています。
「しかも、食べながらしゃべるもんだから、ぜんぜん頭にはいらなかったーーー」
「えーーーっ」
また、全員驚いています。
結局全員にうな重としじみ汁を出して会議は終了しました。
「あのーまな様」
「はい何ですか、パイさん」
「今日の会議ですが皆さん、まな様に聞かせる為に、来ていたのですよ」
「もちろん分っておられますよね」
「えーーーっ」
「皆さんが余裕だったのは、まなさんがいるからですからね」
「もちろん分っておられますよね」
「えーーーーっ」
「も、もちろん分っておられません」
最悪だー。
なんでここの人達は私に過大な期待をするんだーーー。
大体国家間のことなんか分るわけが無い。
「なーー滅茶苦茶可愛いねーちゃん」
「おれはそろそろ帰ってもいいのか」
あーー、青龍団の団長が帰るに帰れなくてまだいたんだ。
なんだか可愛いって言われなれて、いないせいもあるけど、言われるととってもうれしいー。
「はい大丈夫です」
「あのよう、金さえもらえば青龍団も働いてやるぜ」
「じゃあな可愛いねえちゃん」
皆が帰るとここは静かになってさみしくなります。
また大勢の不幸な人が現れるのかと思うと心が重くなります。
森の中の廃墟に住むあいとセイに気が付いたのは、少し離れた集落に住む男達だった。
家に帰れば良き父で有り、良き夫である男達五人だった。
男達は、頭の潰れた女ならだれにもバレずに自由に出来ると考えた。
セイはいつも決まった時間に、森に散策に出掛ける。
セイとあいの行動パターンを読み、今日行動を起こした。
セイが森に出掛けると、男達五人は廃墟に忍び込んだ。
廃墟の中にはボーッと空を見つめるあいの姿があった。
四人があいの手足を押さえ、一人の男が卑猥な笑いを浮かべた。
「でもようやっぱり気持ちわりーぞ」
「この頭じゃよー」
「馬鹿だなー、この布をこうやってかけて見ろ」
男があいの頭の潰れた部分に布をかけた。
「なー、何だこいつ」
「めちゃめちゃ美人じゃねーか」
男達が、好き勝手なことを言って、何をしてもあいは表情一つ変えなかった。
「可哀想なもんだな、これだけ美人なのに」
「だから、おれたちがかわいがってやるんだろ」
「げへへ、ちげーねーー」
男達が、あいの胸に触れた瞬間、悲劇はおこった。
あいは、心に決めた人か、まな以外触れる事を許していなかったのだ。
「ただいまー、おかあ様」
「……」
セイが家の扉を開けたら凄まじい光景が飛び込んできた。
そこには血の海が有り、血の海に仰向けにあいが浮かんでいるようにみえた。
いったい何人いたのだろうか。
それすらも分らないほどバラバラの肉の塊があった。
セイはペタンとその場に座り込んだ。
セイの頭では、もうどうして良いのかも、なにがあったのかも分らなかった。