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北の魔女  作者: 覧都
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第百三十四話 あいと子供達

やっと、落ち着く先を見つけた、あいとセイの一日はゆっくり流れた。

頭を半分失ったあいは、多くの時間をぼーっと座っていた。

時々数時間ほどパタリと倒れ横になった。


セイはあいが倒れたタイミングで、森の中で廃屋を見失わない範囲の散策をしている。

近くにも廃屋がいくつか有り、ここに元は集落があったことがわかった。


最初にあい達を見つけたのは少し南の集落に住む子供達だった。

子供達は森に木の実など食べられる物を探しに来ていた。

そして少し物音のする廃屋に興味本位で近づいた。


「おい、お化けがいるんじゃねえのか」


「幽霊だったりして」


「お兄ちゃん恐いよー、帰ろうよー」


ドスン

あいがいつものように倒れ込んだ。

痛めた頭が床に当たり血がにじんでいた。


子供達がのぞき込んだ先に、頭の潰れた血だらけの顔が飛び込んできた。


「ぎゃーーーおばけーー」

「たたた、助けてー」

「うわーーーっ」


子供達が大声で逃げ出した。

逃げ出しては見たが、その後が静かすぎた。


「ねー、今の人間じゃ無いのかな」


「だったら大変だよ」


「大けがだよ」


「もう一回行こうか」


三人の子供達が手をつなぎ廃屋を覗くと、そこに同じ物があった。


「うわっ」


一瞬驚いたが、落ち着いて良く見ると人だった。


「やっぱり大けがをした人だよ」

「助けなきゃ」


「ライジョフブ」


「うわーーーっ」


三人の後ろにセイが立っていた。


「うわーー綺麗なおねーさんだ」


「アリガトウ」


セイがにっこりと笑うと子供達は安心した。


「ねー入ってもいい」


女の子がセイを見上げて聞いて来た。

ボロボロの服を着て、汚れた顔をしているが可愛い女の子だった。


セイはこくりとうなずいた。


三人は、おそるおそる、中に足を踏み入れた。


「きったねーー」


男の子が言うと、女の子が肘で突っついた。


中には顔を血だらけにしたあいの姿があった。


「大変死んでしまうわ!!」


女の子があせって大声を出した。


「ライジョウブデス」

「シニマセン」


「でも大けがだよ」


「ハイ、ラカラヤスマセテモラッテマス」


「だれか助けを呼んできましょうか」


「イイエ、ナイショニシテクダサイ」


「うん」

「ないしょ」


この日から、三人の子供達が遊びに来るようになった。






魔王の森、人間の町、いちのみや。


あい追放組は困っていた。


倉庫を開放した為、その後の食料供給が出来なくなっていた。

それに加え魔獣が壁の回りに沢山住み着いてしまった。

魔獣の好物が人間なのだ。

森の魔人ミドムラサキの魔力で追っ払っていたのだが、そのミドムラサキもいない。


「何故こうなった」

「有り余る食料で贅沢な暮らしが出来るはずでは無かったのか」


「われわれは、大きな間違いをしていたようです」

「あい様は決して贅沢などしておられませんでした」

「むしろ我々より質素な暮らしをしておられたと聞きます」


「そうだ、あいを探してもう一度この町を守ってもらおう」


「……」


魔王の言った通り、この町から誰もいなくなった。




ファンの廃屋には、子供が押しかけていた。


セイは、魔法をクロとミドムラサキから教わり、森の魔法と、治癒と回復、消去を憶えていた。

物資を大量に消去していて、訪れる子供達に、消去した中からサイダーを飲ませてあげていたのだ。


子供達はお返しに、草むしりや掃除を一生懸命してくれる様になった。

セイは、子供達と交流するうちに言葉を覚えることが出来てありがたかった。


「セイのお姉ちゃん、おかあ様、今日調子いいみたい」

「わたし達とお散歩していいかな」


セイがあいのことをおかあ様と呼ぶことから、子供達もおかあ様と呼ぶようになった。


あいは子供達に引っ張られるように外に連れ出された。

頭が半分無くなり、いつも血が垂れているあいを、村の子供達は偏見をもたず、優しく接してくれた。


あいもセイも大きく心に傷を負っていたが、この交流で随分癒やされているようだった。




ある日から急に、訪れる子供達の数が少なくなった。


「みんな、今日はいつもより人数が少ないようですけど」

「何かあったのですか」


「セイのおねーちゃん、みんな病気になったんだ」


「大丈夫ですか」


「それが死にそうになってる子もいるよ」

「でも貧乏だからさ、自分で治さないと……」


さみしそうな顔になった。

セイは迷っていた、治癒魔法が使える自分になら、治せるかもしれない、でも大勢の人間と関わりたくない。

心の中で葛藤していた。


「わたしが、治癒してみましょうか」


「セイねーちゃんが治癒出来るなら」

「おかあ様を治して上げなよ」


「ふっ」

「おかあ様は誰にも治癒出来ません」

「おかあ様を治せるのはおかあ様だけなんです」


セイは少しだけ悲しそうに笑った。


「でもさー、折角セイねーちゃんの事」

「内緒にしていたのに自分でばらすのかよー」


「大体、大人はだめだよ」

「おかあ様見たらどうなるか」


「そうだ、そうだ」


子供達は、あいの事を心配していた。


「でも、死にそうなお友達を見捨てては置けません」


セイは子供達との会話で行く決心をした。

もし何かあれば、又逃げればいいだけのことで簡単な事だった。


あいと手をつなぎ、子供達の案内で森の外の、集落の門をくぐった。

症状の重い子供の家を、教えてもらい戸をたたいた。


「誰ですか?」

「うわーーっ、化け物、何しに来たんだい」

「うちには施す物はないよ、帰っとくれ」


罵声を浴びせられ追い出された。

その言葉にセイはうなだれ、子供達が心配するほどしょげていた。


「だから言ったじゃないか」

「大人なんてそんなもんさ」


一緒に回ってくれている子供の一人がいった。


「次の子の家を教えて下さい」


セイは取りあえず耐えて、次の家にむかった。


「ごめんください」


「……」

「セイねーちゃんだ」


扉を開けたのは、最初に廃屋に来た子供の、妹の方だった。


「重い病気だと聞きました」


「おにーちゃんが病気なの、入って」


中に入ると母親がいた。

母親はあいの顔を見ると、表情を曇らせた。


病気で寝ている男の子の前にあいと二人で座ると。

セイは男の子の手を取り静かに目を閉じた。

男の子の体は高熱で、息が上がっている。


セイがゆっくり手を元の位置に戻すと、男の子の熱は下がり、呼吸が穏やかになった。

母親は、ビックリした顔になったが、ゆっくり頭を下げた。

そのまま立ち去ろうとする、セイを見て


「待って下さい、他にも病気の子供がいます」

「私に案内させてください」


こう、申し出た。


「お願いします」


セイがにっこりと笑い頭を下げた。


セイ達は村の病気の子供達の治癒を済ませると、あいと二人で廃屋へ帰っていった。


翌朝、廃屋の外がザワザワしているのでセイが扉を開けると、村人が集まっていた。

口々にお礼を言っていたが、セイは大勢の人の姿がたまらなく恐かった。


その日の深夜、セイはあいの手を取りさらに森の奥へ歩いて行った。






「ゴルド様」

「ゴルド様」


「だれだ貴様!!」


ここは、ザン国のゴルドの大邸宅。

そして、その寝室である。

でっぷり太り目つきの悪い男ゴルドが焦っていた。


「だれかー、だれかー、侵入者だーーー!」


バタバタ


六名の護衛の者が駆けつけてきた。

侵入者を護衛が取り囲むと、ゴルドは余裕が出たのか、落ち着きを取り戻した。


「何者だー、貴様!!」


「私は、大魔王様からの使いの者です」

「名をケーシーと申します」

「お見知りおきを」


「だ、大魔王だとー」

「魔王が何の用だ」


「出来ればお人払いを」


「信用も出来ない男と二人になどなれるか!」


「ふ、ふ、信用も何も」

「もし殺す気なら最初にお呼びしたときに」

「殺していますよ」


「な、なにー」

「ならば、この護衛のゴールと戦って見よ」

「この男はザン国では、デラと並ぶ強さの大男だ」

「つよいぞー」


「本当によろしいのですか」

「では行きます」


次の瞬間、ゴールは吹き飛ばされ、壁に叩き付けられていた。

心臓の上が陥没し、死んでいた。


ケーシーは手応えのなさに呆れていたが、人間と戦う快感に酔いしれていた。


「な、なんだと」


「ついでに、そいつらも全部殺しましょうか」

「私は、魔人ですから」

「人間を殺すのに罪悪感はありませんよ」


「ま、まて」

「話しを聞こう」

「お前達、呼ぶまで外に出ておれ!!」


「これはゴルド様にとって」

「そう悪い話しでは無いと思いますよ」


ケーシーは薄笑いを浮かべ、ゴルドに顔を近づけた。

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