第百二十八話 シロの危機
シロの城内では、全身黒い装束を纏い、目のまわりに酷いくまのあるシロと、そして、全身真っ白で妖精の様な少女クロが机を囲んでいる。
「シロ様、本当にまな様とあい様に助力を求めなくて良いのですか」
「サビンだったか、その程度の小物にあのお二方の手をわずらわす訳にはいかない」
「だが、ハイちゃんは呼んでおいてください」
「サビンを倒し、第五席はハイちゃんになってもらいます」
「分りました、シロ様」
「で、サビンの到着予定は」
「はい、エッチラ、ホッチラ、歩いてきますので」
「一週間はかかるとおもいます」
「何か妨害工作でもなさいますか」
「必要ありません」
「ここに到着し、総攻撃を仕掛けたときが最期です」
「シロの恐ろしさをその身で味わってもらいます」
シロの迫力に、クロは恐怖した。
シロの城から南に数百キロ、誰も統治する者のいない空白地に、あいは町を作っていた。
町の名前は、いちのみや。
魔王の森には人間が住んでいないと思っていたのだが、実は大勢住んでいた。
小さな集落を作りバラバラになって住んでいたのだ。
あいが町を作り始め、住みやすいと分ると、次々人が集まってきた。
今では、町の人口も六千人を超えていた。
あいは、ここに家を作り家族も呼んだ。
母親と、弟、妹だ。
あいは、幸せの絶頂にいた。
毎日が楽しくてしょうが無かった。
だが、人間が大勢集まると、あいをこころよく思わない者が出てくる。
彼らは、あいが富を独り占めしていると噂を流し、あいの追放を考えていた。
時々忠告をする者も現れたが、人の良いあいは聞き流していた。
「おい、あいが又でかい家に引っ越したってよ」
「おおよ、隣に大きな倉を建て、食料が大量に蓄えてあるらしい」
「俺たちは、こんなに苦労をしているのに、自分たちだけ富の独り占めだ」
「だが、あのミドムラサキとセイというのが異常に強いらしい」
「何とかしなければな」
彼らの目標はあいを追放し、あいの元にある大量の物資を、自分の物にすることだった。
魔王配下の魔人とも通じ、あいの追放で一致団結していた。
その数は、数十人であった。
シロが魔王軍に攻められようとしていたときはまだ、あいは幸せの中にいた。
「シロ様、完全に包囲されました」
クロの報告を聞いてもシロは余裕の表情だった。
窓から外を見ると、城全体を、蟻の這い出る隙間も無いほどきっちりと包囲していた。
「流石に魔王軍最高幹部第五席だけのことはあるわね」
「でも、ちゃんとしていればいるほど、私の魔法は効いちゃうのよね」
シロの魔法はこの世界では、全ての魔法が使えると言われている北の魔女をのぞけば、シロにしか使えないオリジナルの魔法である。
クロはシロの双子の魔人なのでシロの魔法は効かない。
シロの魔法は、北の魔女とクロをのぞくと後は、シロの使った魔力より圧倒的に魔力が多い者以外防ぐことが出来ない魔法なのである。
かけられたシロの死の魔法、その魔力より少ない魔力の者は肉体的な損傷を受けず、まるで死に神に魂を抜かれた様に命を失う。
全く治癒を受け付けない魔法である。
かけられた死の魔法より魔力が多い者でも、魔力が大きく上回っていなければ大ダメージを受けるのである。
シロはこの魔法だけしか使えないがそれだけに強力な魔法である。
「はーー、困ったわねー」
「どの位の魔力で魔法を出そうかしら」
「強すぎると全滅しちゃうからね」
「せっかくハイちゃんに、来てもらった意味が無くなっちゃう」
シロとクロは城の塔の上に移動した。
石作りの城壁の回りに、魔人と魔獣が総攻撃の合図を、身じろぎ一つせず待っていた。
「かかれーーー!!」
総攻撃の合図がかかった。
サビン軍が一斉に襲いかかってきた。
「クロ、あいつがサビンだ、私の魔法の後、ハイちゃんをあそこに移動させてね」
「はい、分りました」
「では、魔法をかけます」
「……」
シロが黙って目を閉じると、サビン軍はパタパタと城に近い者から倒れていった。
まるでドミノのように。
魔力の調整がよほどうまく行ったのか、それともサビンとケビンの魔力が高かったのか、二人だけ生き残っていた。
生き残ったサビンとケビンの前にハイの姿があらわれた。
「悪いわね、あなた達に恨みは無いのですけど」
ハイを見上げる魔人二人は最早声を出すことも出来ず、ひゅーひゅーという音と口をパクパクする事しか出来なかった。
口の動きから、助けてくれと懇願しているようにも見えた。
だが二人はハイの手で倒された。
こうして、ハイは魔王軍最高幹部第五席を獲得した。
魔王軍では、倒した相手の役職を手にすることが出来る。
それは魔王も例外では無く、魔王になりたければ魔王を倒せば、次の瞬間から魔王である。
サビンの死はすぐさま魔王軍の三大将軍と、一席から三席までの最高幹部にもたらされた。
魔王軍にとってこの六人こそが頭一つ抜けた存在なのだ。
魔王の城の一室で六人がこそこそ密談していると、ふいにドアが開いた。
「あなた達六人がそろうなんて珍しいわね」
「だ、大魔王様!!」
「あーそのままでいいわ」
「あなた達の顔を見たかっただけですから」
「私の力が必要なら遠慮無くいつでも言ってくださいね」
「では失礼します、じゃあね」
大魔王は、直ぐに出て行った。
「大魔王様何しに来たんだ」
「それは、この戦いに参加したいんだろうさ」
「でも、大魔王様、魔法の力加減がおかしいからなー」
「うむ、出番は無しだな」
全員うなずいていた。
「しかし、このままにもして置けまい」
「じゃあ、俺たちが行くしか無いか」
魔王軍最高幹部二席と、三席の男女が席をたった。
第二席の魔人はケーシーといい若い人の良さそうな男の魔人で、第三席はキヌという美しい女の魔人だった。
二人は、移動魔法が使えるのか、立ち上がると直ぐに姿が消えた。
勝利し気が緩んでいる、シロ達の元に見慣れぬ男女の姿が現れた。
シロとハイは城の外で後始末の指揮をとっていた。
そこに見慣れぬ二人が現れたのだ。
「すげーーなーー」
「一瞬でこれだけの数をたおしたのかよー」
「恐怖しかねえなー」
「だれだ、お前達」
ハイが警戒しながら声をかけた。
「すまねーなー、あんた達には恨みは無いが」
「やり過ぎだー」
「俺達は、大魔王様の使いの者だ」
言い終わらないうちにキヌがハイに襲いかかった。
ハイが何も出来ないまま、弾き飛ばされた。
弾き飛ばされたハイは、首が折れ、体が痙攣していた。
「クローーー!!」
「こいつらはやばい」
「全員招集しろーー」
シロが叫んだ、その瞬間、ケーシーがシロに襲いかかった。
「ぐわあーーー」
叫んだのは、ケーシーの方だった。
シロが死の魔法を使ったのだ。
全身ズタズタに引き裂かれひざまずいていた。
「へえ、やるわねーー」
ケーシーの姿を見てもキヌは余裕の表情だった。
クロの移動魔法で、シロの前に、アオ、アカ、ミドムラサキが立ちシロの体をガードした。
だが、三人はハイの姿を見て、緊張が走っていた。
ハイの実力は、一対一なら遙かにハイのほうが実力上位、三対一でも勝てるかどうかという実力差だった。
「ぐあああーーー!!」
今度はキヌが叫んでいた。
キヌのからだは服が切り裂かれ、切り裂かれた服から露出する肌には、深い傷が出来ていた。
そこから大量に出血している。
シロの死の魔法だった。
この魔法で、シロは死ぬ寸前まで魔力を使い果たし倒れ込んだ。
サビン軍に使い、ケーシーに使い、今またキヌに使った。
シロの魔法は魔力を大量に使う諸刃の剣なのである。
シロは大きな過ちをおかしていた。
相手の力量を見誤ったのだ。
一人に全力で死の魔法かけていれば、一人だけは倒す事が出来ていたはずだった。
だが、ケーシーに残っていた半分の魔力で死の魔法をかけてしまい結果、二人に傷を負わせるだけになってしまったのだ。
この時クロは、必死で飛ばしていた分体を、本体に吸収し、全力を取り戻そうとしていた。
「あい様に助けを……」
シロは消えゆくような弱々しい声でクロに指示した。
この時ケーシーの傷は回復し、シロを守る、ミドムラサキ、アカ、アオに襲いかかろうとしていた。