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北の魔女  作者: 覧都
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第百二十二話 決戦前夜

翌日からまな隊は、メイさんに言われた柵の強化をしています。

材料はヤパ国の魔王の森から伐採された、異常に太くて堅い木。

どうせ邪魔になっている木なので、安く買いたたき入手しました。

その魔王の森の木を何本も積み重ねます。

最初は丸太のまま重ねていましたが、収まりが悪いので、ロボダーさんとオデさんに切りそろえてもらって、どんどん積み重ねます。


「まな様、どんだけ切ったら終るんだこの作業」

「まあ、斬伐刀の扱いになれることが出来るからいいけどな」


「じゃあ、文句を言わずにやって下さい」

「後がつかえていますよ」


パイさんとロボダーさんが必死で作業をしてくれています。

わたしは、どんどん出来ていく柵、最早、壁を見て少し楽しくなっています。


ここにはまだ兵士は来ていません。

兵士が揃うのは戦闘開始の前日でしょう。

何日も前に来れば、食料などの物資が大量に必要となりますからね。


「じゃあ、まな隊の皆さん、工兵部隊の皆さん頑張って下さい」

「差し入れのハンバーガーを置いておきまーす」


「おい、おい、まな様、俺たちを置いて、どっか行っちまったぜ」

「護衛をなんだと思っているんだ」




わたしは、作業が順調に進んでいるのを確認して、キキちゃんと二人でパレイ商会のレイさんのもとへ向かいました。


「レイさん、遅くなりましたー」


「あー、まなちゃん」

「商品の補充お願い」


「もう無くなったんですか」


「大口のお客さんが多いですからね」


パレイ魔女商会の、魔力の杖はイナ国とヤパ国に売れたとか。

治癒や回復は大きな魔力が要るということなので、既に大量消費されているということです。

一般に出回るのは当分先ですね。


「じゃあ、レイさんまた戦場にむかいます」


「はい、気を付けてねー」


わたしは、正方形の作戦室に移動しました。

パイさんが少し使った、パレイ商会の商品の魔力杖を、懐から出します。

白く光る新品の杖をクーちゃんに消去してもらうと、部屋の中は赤い光に包まれます。

なんだかこの状態がわたしは集中出来るみたいです。

戦場図を見て、見落としがないか、思案します。


この世界の人は、変なところで律儀です。

なのでこの戦いも、奇策はないと思いますが「負ければイナ国が滅ぶ」なんて、国王様から聞けば細心の注意を、払いたいと思います。


わたしはゲームの世界では、かっこいいから真田幸村のいる、真田家をいつも選びます。

弱小国の真田家は何をやっても滅亡です。

そこで新武将まなの登場です。

武力100、統率100、政治100、知謀100です。

こんなチート武将がいても、必死で考えないと滅亡します。

コンピューターは必ず隙をついて攻撃してきます。

油断も隙もありません。


この図と駒の配置から、わたしがやられたら困ることを必死で探します。

わたしがやられたら困ること。


「……」


見つけてしまいました。

イナ国の森は海岸までくっついていません。

イナの森の南端には少し平原の隙間があります。

開戦と同時に一部隊騎馬隊を走らせれば、中央の激戦に集中しているイナ国軍の背後から総大将を討ち取れるのでは無いでしょうか。


王将を取られたら勝負が決まると言うのもよく分りませんが、でもそういう事になります。


気が付いたら、必ずここから騎馬隊が攻めて来るとしか思えなくなりました。

ササさんが危ない。


ここから私は大工事に取りかかります。

南からの騎馬隊を防ぐ、壁を作ります。

この壁は、人目につかず作業出来るので、私が魔法で作るとしましょう。

決戦の日までは透明にしないといけませんね。

ここに壁があるとわかれば、頭のいい人なら別の策を考えるはずです。

出来れば味方にもバレない方が良いですね。







日々決戦に向けて準備をしているとあっという間に決戦が近づいてきます。

「まな様、壁は完成したぜ」

「見てくれ」


ロボダーさんが自慢そうに、綺麗な汗をかきながら笑顔です。

この人は外見だけはいいので、キラキラ光る汗が宝石のようです。


出来た壁は南トラン軍の側が垂直で、反対側が斜めに切ってあります。


「のぼった敵兵が易々、入ってこられますね」

「内側に、ガラスくずを貼り付けましょうか」


わたしは、一升瓶の空き瓶を割って割れたガラスを、貼り付けるようにお願いしました。


「それが、終ればわたし達の仕事は、終わりです」

「頑張ってください」

「イナ国の勝利はこの作業にかかっていますから」


せっかく終ったと思った所でもう一仕事は、きついものです。

ですが、皆、笑いながら取りかかってくれました。

いい人達ばかりです。


「さすがまな様だ、妥協がねえ」

「うむ流石だー」

「まな様がいなければこんな短期間でこれだけのものは作れなかった」


なんだか工兵隊の皆さんがわたしのことを褒めているように思えます。


「違いますよ、わたしはほとんど参加していませんから」

「皆さんの力です」


「おおーー、でたーー」

「まな様の謙遜だーー」


だめです、何を言っても無駄そうです。


柵、あらため巨大な壁はイナ軍を包むように完成しました。

すでに南トラン軍からはイナ軍の陣がすっかり見えなくなっています。

正面の二十メートル程の口が、決戦の日には南トラン軍を飲み込むでしょう。

ただし、今はその口も静かに柵で閉じられています。


いよいよ明後日には決戦を迎えることとなり、ぞくぞく兵士が入って来ます。






各部隊の隊長が呼ばれ、わたしの作った作戦室に集まります。

ついでにわたしまで呼ばれて部屋の片隅にちょこんと立っています。

四方を壁に包まれた部屋に、十人ほどの将が机を囲んでいます。

ササさんが戦場図を開くと、一同に驚きの声があがり。


その声が収まったところでササさんが状況の説明、作戦を次々指示していきます。


わたしはこんな時どうしても他ごとを考えてしまいます。

あーあの黒い、もじゃもじゃの髭の人が、黒髭さんだな。

なんか、場違いなほど若く見える人、あれが新人さんか。

逆に場違いなほど、よぼよぼに見える人が老人さんだね。

などと、考えています。

一通り話し合いが終った所でわたしはササさんに声をかけました。


「この作戦室は自由にお使い下さい」

「わたしはもう一つ砦を作りましたので、今からそちらに移りますので」

「もし御用がありましたらクロちゃんに伝えて下さい」

「ちなみにわたしの居場所はここです」


わたしは、戦場図の下の方を指さした。

森が途切れている、少し左上を指さした。


「まな様、ここに何が」


ササさんがわたしを、様呼びなんかするから全員からざわめきが起こりました。

こんな小娘が一番偉い人から様呼びされたら驚いちゃうでしょ。

だからやめてって言ったのに。


「おお、あなたがまな様でしたか」

「私は、あい様から命を救われたことがありましてな」

「私もあい様に命を助けられました」


うん、あいちゃんすごい人気だね。


「そんなことより、ここに何が」


ササさんが皆を押さえて質問を続けます。


「何事も無ければ良いのですが嫌な予感がします」


わたしは、森の端を指でなぞり


「騎馬隊がこうきたら嫌ですよね」

「それに備えます」


「七人でですか」


「うちの七人は全員、千人力ですから」


「うおーー」

「ぐすん、ぐすん」


はーーっ、わたしの言葉に、オデさんとロボダーさんが雄叫びを上げ、キキちゃん以外の女性陣が鼻を鳴らしています。


「がうーー」


キキちゃんだけ回りをキョロキョロ見渡して今頃、声を上げました。


まったく、そんなに感動するところかー。

呆れてしまいます。

呆れてしまいますが、嬉しくもあります。


まな隊はみんないい人の集まりです。




翌日も朝から兵士が次々集まります。

午前中には、全軍揃い、いよいよ明日決戦です。

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