第百二十一話 那古屋たこ焼き
ササさんは盤上に六つの駒を置きました。
平原に四つ横並びに凸の駒を置き、少し後ろに一つ、さらに森の中に一つ置きます。
その後、その六つの駒の反対に駒を置き始めました。
四つを横並びに、その後ろに一つ、そして最前列に馬の駒を置きました。
「あのー、兵力はどの位ですか」
「ふむ、イナ国が十万、南トラン国が十五万と予想されている」
「五万も違うのにこの布陣ですか」
わたしは将棋も知っているし、ゲームも好き。
わたしが見た、この駒の位置は、互角の兵力でどちらが勝つか分らないそんな布陣に見えます。
諸葛孔明、竹中半兵衛を知っているわたしは、こんな時に狡い方法を考えて勝たなければいけません。
まず、将棋のように左右対称の位置に王将、いいえ本陣を置くなんて考ええられません。
少し大きい駒を戦場図の左上に置きます。
「まなさん、それがイナ国の本陣ですか」
「戦いとは正々堂々行う物ですぞ」
「ならば、兵力も同じにするべきです」
「兵力が少ない方は少ないまま勝つ方法を考えなくてはなりません」
「ちがいますか」
しまったー。北の魔女モードになってしまった。
ササさんの顔が少し怒っています。
しゃーないですね、こんな小娘にあんな言われ方したら、不機嫌になるものです。
「お父様これを見て下さい!!」
サエちゃんがわたしの作った杖をササさんの前に出します。
「この杖は美しくて、それでいてわたしの魔法の威力を、百倍近くにまで引き上げてくれます」
「持ってみて下さい」
「うむ、美しい」
サエちゃんが手を離すと、黒い鉄の棒に変わります。
「な、なんだこれは」
「わたし専用で、他の人が持つとそうなります」
再びサエちゃんが手に取ると、もとの美しい杖に戻ります。
「この見た目、どこかで見たことありませんか?」
「そういえば……」
「おおそうだ、アド正だ!」
「くす」
「そうですよ」
「まさか……」
「まなさんが、アド正を作ったのか」
ササさんの顔が驚きであごが外れそうになっています。
「いくらお父様でも、まなちゃんに失礼があれば、私が許しません」
なんの事かと思っていたら、サエちゃん怒っていたんだ。
私なんかの為に。
「まなちゃん、わたし達ではまなちゃんの考えが分りません」
「説明しながら駒を置いて貰えないでしょうか」
「は、はい」
「敵騎馬隊の狙いは真っ直ぐイナ国本陣です」
私は本陣の位置を元に戻し、南トランの騎馬の駒をイナ国の本陣にぶつけます。
「本陣は敵から隠します」
「敵騎馬隊は、アド正部隊に待ち伏せで殲滅して貰います」
「これがアド正部隊です」
私は赤い丸い駒を森の中央に置きます。
その後ろに歩兵の駒を展開させます。
「この戦いは、全軍このように森の中に展開して」
「南トランと戦います」
「中央の激戦地にアド正隊を置き、南トランを跳ね返しながら」
「怯んだところへ歩兵隊が突入」
「こんな繰り返しでしょうか」
「わたしは、このように草原で戦わず森で戦う方が、有利に戦えると思います」
「うむ」
「サエ、お前の友達はすごいのう」
「私は草原で戦うことしか考えていなかった」
「あ、あのー」
「これは一つの考え方で、他にもよく考えてほしいのですが」
急に弱気になったわたしは逃げ腰になってしまいました。
「まな様、この図と駒をもらってよろしいですか」
「はい」
「紙で作った軽い物を用意します」
「持って行って下さい」
あー、ササさん、様っていってるしー、まあいいか。
「これで現場は分ったし、晩ご飯を食べに行きましょうか」
「クーちゃん全員を、ヤパの峠の茶屋へ運んで下さい」
わざわざ、ヤパの峠の茶屋に来たのにはわけがあります。
まだここに、伍イ団のメイさんとギホウイさんがいるからです。
「まなちゃん、今日はまたおいしい物を食べられると聞いて楽しみにしていたよ」
「あの、ギホウイさんは?」
「ああ、もうじき帰ってくると思うよ」
「ガイさんと魔王の森の木を伐採している」
「では、戻ってくるまで少し教えて下さい」
わたしは、戦場の図と駒を出して、メイさんに今回の作戦を説明しました。
「うん、面白いね」
「これなら勝てると思うよ」
「ほ、本当ですか」
わたしは、嬉しくなりました。
メイさんは小さな美しい少女のような容姿ですが、色々なことを知っていて、ゲームの知謀100の、軍師のような感じがします。
そのメイさんのお墨付きをもらって嬉しくなったのです。
「少し付け足すなら」
「この柵を、時間の許す限り頑丈にして」
「中央だけ柵を開けておく」
「そうすれば、南トラン軍は中央に集中して入ってくる」
「まなちゃんの作戦は敵をいかに中央に集めるかが肝だからね」
「もう一つ、イナ国には、黒髭、隊長とあいちゃんが呼んでいた剛の者がいる」
「あと、ササ領にはまじない組、新人、老人という剛の者がいる」
「この剛の者は中央に集めた方が良いね」
「あ、あのー」
「どうしたのサエちゃん」
「父をここに呼んでも良いでしょうか」
「そうだね、いてもらう方が、話が早いね」
「ところでまなちゃんはどこまで、この戦いに介入するつもりですか」
「わたしは、できるだけ介入するつもりはありません」
「そうですか」
「イナ国の事は、イナ国でと言うわけですか」
「はい」
「ただ、イナ国が負けそうになった時、わたしは黙っていられないかもしれません」
ここで二人のおじさんが入ってきました。
ササさんとギホウイを名乗るイホウギさんです。
「あなたは……」
ササさんが驚いてギホウイさんを見つめます。
「わしはギホウイ、後イ団の団員、登録者じゃ」
「私は、ササ領主、ササです」
ササさんは、小声でサエちゃんにイホウギ大将軍だよねと、聞いています。
サエちゃんは気付かれないように、すごく小さくうなずいています。
ギホウイさんが戦場図に気づき見つめます。
「森の中を戦場にするというわけですか」
「恐らく南トラン軍は壊滅的打撃を受けますな」
「誰が、このような策を」
「まなちゃんよ」
メイさんが答えると、ギホウイさんが驚いてこちらを見ます。
「まな殿は、戦争をどこで経験されたのですかな?」
ぎゃーー、未経験とは言いにくいなー。
経験したのは、ゲームで三国志とか、信長とかですよね。
日本人なら興味ある人は皆、やっていますよね。
「経験はありません、全体を見て自由な発想で考えました」
「ふむ、恐ろしいお方ですな」
「えーー、全然恐ろしく無いですよー」
でも、ギホウイさんからのお墨付きを貰えたのなら、使える作戦ということになりますね。
隣でサエちゃんが、メイさんのアドバイスをササさんに小声で伝えています。
「まなちゃん、聞きたいことはこれで良いですか」
「はい」
「待って下さい、私からも一つ」
「なぜか、南トラン軍の猛将の事が出ていませんが」
「どうなっているのでしょうか」
ササさんがちらちら、ギホウイさんを見ながらメイさんに質問します。
「この戦いには、イホウギさんは出て来ません」
「ぷっ、南トラン軍を首になったからね」
メイさんが少し笑いながら、楽しそうに答えます。
「首ではござらん、自分でやめたのじゃ」
「そのイホウギ殿に聞きたいのだが」
「南トラン軍の兵士が大勢死ぬ事になりますが」
「それについてはどうお考えですか」
「既にその事は、国王にも伝えてある」
「わしは、どの様な結果でも静観する覚悟を決めている」
「心配ご無用じゃ」
「じゃが、伍イ団やあい殿だけではなく、まな殿も恐ろしいお方じゃったな」
「なぜ、これほど無名なのか不思議じゃ」
「えーー、わたしのどこが恐ろしいのか分りません」
「わたしは、無力の学生です」
わたしが言い終わると回りから驚きの声があがりました。
えーー、わたしって他の人からどう見えているの。
だって、ポンコツ女子高生でしょ。
この夜は、那古屋たこ焼きとお好み焼きをメインで晩ご飯にしました。
那古屋たこ焼きとは、キャベツのみじん切りがたこ焼きに入った、ちょーおいしいたこ焼きです。
しかもヘルシーです。
メイさんは、たこ焼きを当てにお酒をガブガブ飲んでいます。
たぶん見た目と年齢が違うから合法なのかもしれませんが、大丈夫なのでしょうか、心配です。
心配していたら、どこで聞きつけたか、ノルちゃんまできて、たこ焼きをおかずにしてうな重を食べています。
こうして夜も更け、南トランとの戦争に一日近づきました。