第百十九話 ほっこり休日
シバ家のシンさんの案内で馬車まで戻ると、すごい光景でした。
山賊が、七十人ほど倒れ、完全武装の人も十名ほど倒れていました。
「クーちゃん、治癒を」
「うおおおおーー」
まわりから歓声が上がります。
倒れていた人が一人残らず生還しました。
「ああ、あんた、死者を生き返らせることができるのか?」
シバ家の商隊の隊長らしい人が近づいてきました。
「いつも誤解されますが、死者の復活は無理です」
「心肺停止の状態だから助けられるのです」
「なんだか分らねえが助かった感謝する」
「感謝する必要はねえ、こいつら仲間を五人殺した」
シンさんが怒りを露わにします。
亡くなった五人は、火魔法で灰になっていました。
そのため、クーちゃんの治癒魔法でも治す事ができませんでした。
新しい杖を手にした魔法使いと魔女にやられたものと思います。
つまりまな商会の手によるものでしょう。
「それについては謝罪い……」
「謝罪しちゃーいけねーぜ、まな様!!」
わたしが謝罪しようとしたらロボダーさんがそれをさえぎりました。
「俺たち家臣は、主人に何かあれば、危害を加えたものを問答無用で命を捨てて打ち倒すもの」
「これは、この世界で最も重要な守るべき秩序だ」
「俺たちは主人であるまな様の胸を剣で刺されたんだぜ」
「だれがやった」
冷ややかにシバ家の隊長が隊員の方を見た。
「俺がやりました」
少し自慢そうにシバ家の隊員シンさんが前にでました。
「利き手を前に出せ」
シンさんが手を出すと、
シュン
隊長が剣でシンさんの出した右手を切り飛ばしました。
「がーー」
シンさんが切られた傷口を押さえてうずくまります。
隊長さんは落ちている腕を掴むと。
「これで許して貰えないだろうか」
腕を差し出してきます。
きもちわりーてーのー。
「折角さっき、ひっつけたのにー」
「いらないわよ、そんなの」
「クーちゃん、くっつけて上げて」
「くそー、おやじー、山賊だぞこいつら」
腕が治り元気になるとシンさんが隊長に怒鳴ります。
「たわけー、山賊が、あのような武器を持っていると思うか」
隊長さんがロボダーさんとオデさんの武器を見つめます。
そして、シンさんに視線をやると、話を続けました。
「相手を良く見て対処しろといつも言っているだろう」
なんだか隊長さんは話が分る人の様です。
「山賊を一人も傷つけず、シバ家の方を五人も死なせてしまいました」
「これでは、山賊の仲間と言われてもしょうがありません」
「わたしは、どうすれば良いのでしょうか」
「それは先程、家臣の方が言っておられた通り正当防衛だ」
「罪には問われないでしょう」
「えっ、そうなんですか」
「よかった」
わたしはほっとしました。
「よかったじゃねー」
「あんたがあほみてーに、前に出るもんだからこうなったんだ」
「よえーんだから、ひっこんでいろ!」
ロボダーさんがわたしに唾を飛ばしながら大声で詰め寄ります。
ガチャリ
ロボダーさんの前に巨大な武器が差し込まれます。
「これ以上まな様に無礼をはだらぐならゆるざねー」
少し恐い顔をしてオデさんが割って入ってくれました。
「わるい、まな様許して欲しい、こんなことがなければ失わなくていい命が五つあったからな」
「オデさん、ありがとうございます」
「そしてロボダーさん」
わたしは、半分本気、半分演技でロボダーさんに抱きつきました。
「お手数おかけしました」
「ポンコツのわたしを許して下さいね」
少し上目遣いで見つめます。
どうだー、いちころの奴だぞう。
「やばいなー、ブスじゃ無ければ惚れちまうぜ」
ここここここここ、このやろー。
ドスッ
わたし以外の女性陣がわたしの代わりに、怒りの鉄拳を喰らわしてくれました。
全員が落ち着いたところで、山賊の首領五人とシバ家の代表と、まな商会からレイさんパイさんオデさんで、話し合いが行われています。
山賊は二十人ほどの集団の連合で首領が五人いるということです。
わたしは、少し離れた所からボーと話を聞いています。
ザンの国では、山賊も他国の商隊を襲い、奪った金品から納税さえすれば合法のようです。
山賊国家と言われるわけです。
サエちゃんも先生も必死で話し合いを聞いているようですが、わたしは、もう飽きてきました。
しかたがないですね、普通のできの悪い高校生なんてこんなもんです。
そういえばシバ家の人五人が亡くなっていましたけど、犯人は誰でしょう。
ふっふっふっ、体は北の魔女、心は女子高生、名探偵まなの出番です。
火魔法が使える人は、パイさん、先生、サエちゃん、レイさんの四人です。
誰かが二人を……。
でも、先生やサエちゃんはこんな時でも人の命を奪えるとも思えません。
レイさんとパイさんが犯人でしょうか。
わたしの横で、この話し合いをつまらなさそうに聞いているロボダーさんに答えを聞いてみましょう。
「あのー、ロボダーさん」
「なんですか、まな様」
「さっき、わたしが気を失っている時のことを知りたいのですが」
「あーー、あの時ね、もう俺もオデさんも怒ってしまってね」
「あー、ロボダーさんと、オデさんの話はいいです」
「はーーー」
「火魔法を使った人が知りたいのです」
「あーー、それかー」
「パイさんですよ」
「すごい火炎を出して、五人いっぺんにやっつけましたよ」
「ありゃあ五人どころじゃねえ」
「数倍の人数を巻き込めるほどの業火だったぜ」
答えは全部パイさんですか。
ほとんど正解です。
「そこー、静かにして下さい」
「また、まなさんですか!」
ぐはっ、こんな所でまで先生に怒られてしまいました。
先生に怒られて黙っていると、一つの疑問が湧いてきました。
シバ家の積荷はいったいなんでしょう。
「あのー、シバ家の積荷って何なんでしょう」
隣のロボダーさんに聞いてみます。
「まな様いま怒られたばかりでしょうが!」
「だって気になるでしょ」
「うむ」
「ちょっと聞いて来てやるぜ」
ロボダーさんが話し合い中の隊長に、こっそり聞きに行ってくれました。
「ぎゃーははは」
んー、なんかロボダーさんがちょー受けています。
そしてめちゃめちゃ先生に怒られています。
頭を掻きながら、こちらへ歩いてきました。
「くっくっくっ」
まだ笑いが止まらないらしく笑っています。
「早く教えて下さい!!」
「本当は極秘のものらしい」
「ゴクリ」
「超貴重な品」
「ふんふん」
「これだけそろえられるのはシバ家だけらしい」
「もー、はやく教えてーよー!!」
「酒と砂糖だってさー」
「ぶーーーっ」
「なんですって」
「あれ、まな様が出したものだぜ」
「教えてやるか」
「だ、駄目です」
「まな商会は目立たないようにする」
「これは譲れません」
「まなちゃーーん」
「はい、すみません静かにします」
「違います、話が決まりましたので報告です」
「こちらに来て下さい」
レイさんが優しく呼んでくれました。
「あー、はい分りました」
「すぐ行きます」
「まず、山賊の皆さんですが」
「この後、まな商会が大きくなったとき雇い入れて」
「山賊家業は廃業してもらいます」
「えっえー」
なんだかすごいことが決まってしまいました。
大体、まな商会なんて存在していませんよ。
「そしてシバ家は、今回輸送中、山賊から襲われないよう」
「ここの山賊が手配してくれるということです」
「わたし達も町まで同行するということで落ち着きました」
「まなちゃん何かありますか」
「い、いいえ」
「では、出発しましょう」
さすがは、レイさんです。
見事にまとめてくれました。
この後、わたし達は町まで山賊に襲われることなく、無事到着しました。
町は、山の間に広がった平地にこぢんまりと広がっています。
日本の温泉街のような、いい雰囲気の町です。
「まな様、ここには温泉があるそうですよ」
「パイさんが嬉しそうです」
わたし達は、この町で休みをのんびり過ごしました。