表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北の魔女  作者: 覧都
115/180

第百十五話 決勝戦

「まなちゃーん」

「ごめんなさーい」


私が今日の晩ご飯の準備をしていると、サエちゃんが少し悲しそうな顔をして近づいてきます。


「はー、なにがー」


そんなときの返事はこれですよね。


「うふふ、まなちゃんが相変わらずなので」

「少し心が軽くなります」


「今日は、ゆっくりでしたね」

「パイさんと先生はほらもう食べる準備が終っていますよ」


「はい、私はまなちゃんに」

「報告を済ましてからで無いとそちらへはいけません」

「聞いていただけますか」


サエちゃんがあまりにも真面目なので、ここは私もちゃんとしなければいけませんね。


「聞きます、話して下さい」


「はい、まずは、試合を負けてしまいました」


「えーー、ファン国に負けてしまったのですか」


「いいえ、ファン国には勝ちましたが、ヤパ国に負けました」


「えー、よく分からなくなりました」


「は、はい?」


サエちゃんがキョトンとしています。


「えーと、最初から、説明しますね」

「あの杖にはファン国に、勝てるだけの力しか付与していません」

「ヤパ国の人は、北の魔女の加護があるのですから」

「ヤパ国に勝つ為には、五倍ぐらいの付与が必要です」

「あの杖は二倍の付与だからまるで勝てないはずですよ」


「……」


サエちゃんが黙ってしまいました。

あの杖でヤパに勝つなんて事を考えていたのですね。


「大体、ヤパの国でヤパ国の生徒に勝ってはいけませんよ」


「えーーっ」


サエちゃんが驚いていますが、パイさんと、先生まで驚いています。


「あと一つの報告とは何ですか?」


「はい、杖を返したいのですが」

「この一本しか返せません」


「後の杖は、捨ててしまったのですか」


「はーー、いいえ、いいえ」

「残りは返却したくないと皆が強く拒んだものですから」

「もって来ることが出来ませんでした」


「えーー、あんな出来損ない、かっこ悪いから返して欲しかったのですが」


「えーー、じゃあ返却しなくても良いのですか」


「駄目ですよ、あんな、出来損ない返却してほしいに決まっています」


「あ、あのーどこら辺が、出来損ないなのですか」


「だってー、壊れるし、ちゃんと飾りも入ってないしー」


わたしがごにょごにょ言っていると、サエちゃんの表情が明るくなりました。


「じゃあ私も、もらって良いのですか」


「……」

「サエちゃんは駄目です」


途端にサエちゃんが悲しそうな顔になりました。

でもわたしはあの川の神様、そう金の斧の神様のように、正直で真面目な良い人には、こんな木の杖をあげるようではいけませんね、ちゃんと良い杖を用意してあげないと。


「サエちゃんにはこれを差し上げます」


わたしの手には全体が青く、得意な飾り装飾の入った美しい杖が握られています。


「この杖は、オデさんの武器のようにサエちゃん専用の杖です、付与も同じだけ付けています」

「その上魔法の付与は三十二倍です、声の大きさで自由に強さを変えることが出来ます」

「練習して慣れてください」

「そしてこれが身に付ける為の革のベルトです」

「いつも身につけておいてくださいね」

「もらって下さいますか」


「はい!!」

「あり……が……」


サエちゃんの目から大粒の涙がポトリ、ポトリと落ちました。


とてもサエちゃんが愛おしくなりました。

抱きしめたいくらいです。


「まなちゃーん、私にも下さい」


「私にもーー」


うわーーあ、良い雰囲気を大人二人がぶち壊しました。


「はい、先生どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


先生が大人のくせに涙ぐんでいます。


「パイさんには、今は無理です」


「えーーっ、何故ですか」


「ここで渡したら、北の魔女の加護と相乗効果でどうなるか分かりません」

「イナ国に付いたらお渡しします」


「えーー、まな様、私はずっとまな様とご一緒出来るのですか」


「そ、そうか、パイさんとは、ヤパ国から出るときお別れでしたね」

「忘れていました」


「まな様は意地悪です」


パイさんが体をゆさゆさしたら、でっかいあれも、ゆっさっ、ゆっさっ、してしまいました。


「ずっと警護をお願いします」


「はい、誠心誠意お仕えいたします」


パイさんまで涙目になりました。

うちの大人達は涙もろいです。


先生とサエちゃんが、杖を胸に抱きしめうっとりしています。

パイさんは私を見つめてうっとりしています。

ですが、あなた達の仕事はうっとりすることではありませんよ。


三人の味見人がそろったところで料理の試食タイムです。


「今日の料理は中華です」

「まずは、エビチリからです」

「料理は何種類も出しますので沢山食べ過ぎないでくださいね」


「おいしいです」


「だからー食べ過ぎないでくださいっていっているのにー」


三人は出す料理を全部食べてしまいます。

まるで人の話を聞きていません。

最早、味見の域は通り越しています。


「つぎは、青椒肉絲です」


「おいしーー」


うふふ、どこまで食べ続けられるでしょうか


「次は回鍋肉」


「おいしーーー」


「ニラ玉―」


「おいしいーー」


「唐揚げー」


「おいじー」


「餃子―」


「ふーふー」


「チャーハン」


「もう食べられませーーん」


じゃあこれで行きましょう。






わたしはメイドさん達の晩ご飯を済ませて、護衛の五人がぐっすり眠ったのを確認してキキちゃんと二人水入らずで、友愛神社に来ています。


「キキちゃん、今日は頑張ってね」

「これ人肉パン、一杯食べてね」


「ガウッ」


最近のキキちゃんは、はいがガウ、いいえがアウの二言しかしゃべらなくなりました。

アドちゃんに聞いたら、鬼は丈夫だから大丈夫って言っていたけど、少し心配です。


「ここの神社に神様はいないと思いますが手を合わせましょうね」

「キキちゃんが食事をしている間くらいお掃除もしますね」


「こっちに来たときは、ずっとキキちゃんと二人きりだったよね」

「キキちゃん、いつも、ありがとうね」


「あらら、今は私もずっと一緒なのですけど」


姿を消していたクーちゃんが姿を現わしました。


「そうね、クーちゃんもありがとう」


「さて、そろそろ決勝に行きましょうか」


少し日が出て辺りが明るくなり始めました。

この世界の人は朝が早い、その代わり夜も日が暮れると直ぐに一日が終りますけどね。

太陽が姿を出し切れば、一日が始まります。

あと三〇分で決勝も始まるでしょう。


「ぐええーー」


「よし、ゲップも出たし」

「クーちゃん、私とキキちゃんをヤパドームへお願い!」


「はい分かりました」




ヤパドームに着くと観客席はもう人が一杯です。


「まな様、この服素敵です」


ハイさんが昨日渡した新品の服を喜んでくれています。

ハイさんの美しさが引き立つように、露出は控えめです。


キキちゃんはいつもの白い服装です。


ヤパドームに太陽の光が入り、十分明るくなると、審判が壇上に登ります。

今回も、パイさんが審判の様です。


「では、二人とも舞台の上に上がって下さい」


「準備はよろしいですか」


二人が小さくうなずきました。


「はじめー」


二人はしばらく動きませんでした。


最初に動いたのはハイさんでした。

その素早い攻撃を、キキちゃんは攻撃を考えない避けで対応しました。

どうやらキキちゃんはハイさんの攻撃を見切れる様です。

もうこの段階でキキちゃんの方がハイさんより強いのが確定的でしょうか。

ただ、ハイさんがまだ実力を出していないことも考えられます。


やはりハイさんは最初手を抜いていました。

徐々に攻撃速度が上がります。

ゆるい表情から徐々に真剣な表情になります。


真剣な表情のハイさんの顔はまあ、うっとりするほど美しいです。

観客席が静まりかえっています。


とうとうハイさんの攻撃が昨日の、ギホウイさんの棍の先のような速度になりました。

キキちゃんの視線が時々こちらに向きます。


「まな様、キキさんが全力のご指示を待っています!」


クーちゃんがキキちゃんを心配してくれています。


「そうですね」

「ハイさんはギホウイさんと違って丈夫だから大丈夫でしょう」


すーーーーっ

私は全力で息を吸います。


「キキちゃーーーん」

「いっけーーーーー!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ