第百十四話 学生達の戦い
会場に、決勝戦は選手の体調を考えて明日行われることが伝えられ、
代わりに魔法学園の生徒による、試合が伝えられた。
最初に、ザン国とオリ国、次は、ファン国とイナ国が組まれました。
次にその勝者同士、その後ヤパ国がその勝者と戦う事になりました。
「まなちゃん、どうしましょう」
先生が心配そうな顔でわたしに近づいてきました。
「はー、なにがー」
「実は、魔法の実力はイナ国が最低なのです」
「えっ、世界最高の学園と聞いていましたが」
「はい、それはアド様が建てた建物のことで、魔法の実力は最低です」
「なんとか手助けをお願いしたいのですが」
「うーーん、何とかしてあげたいとは思いますが」
「それをしていいものかどうか」
ファン国の方を見ると生徒達が、ニヤニヤして見下した感じがすごく不快です。
わたしは、イナ国の魔法学園の生徒です。
生徒が試合に勝つように力を貸すのは、ルールの内ですよね。
わたしは、服の中から出しているかのように、杖を出しました。
「先生これを皆に配ってください」
「貸し出しするだけですから、ちゃんと試合終了後返してもらいます」
「いいですね」
「はい、分かりました」
「で、使い方は?」
「使い方は、杖を手に持って、声を出してください」
「風よ出ろーとか、エイッとかでも構いません」
「それで、出した魔法に二倍の効果が出るようにしてあります」
「す、すごいです」
「その代わり、態度の悪いファン国の生徒をギャフンと言わせてください」
「わかりました」
先生が笑顔になりました。
「では、わたしは晩ご飯の準備に行ってきます」
「では、皆さんこの杖を一人、一個ずつ持って下さい」
「はい、サエちゃんも」
わたしの手に細い三十センチくらいの白い木の棒が渡されました。
「使い方は簡単です、魔法を使うときこの杖を構えて」
「出したい魔法とか、エイッとか、かけ声を掛けて下さい」
「それだけです」
「それだけで魔法が強くなります」
「あのー、先生これはまなちゃんの作った杖ですか」
私が小声で言うと、先生も小声で。
「はい、正解です」
「じゃあ、私がいなくても勝てますね」
「なーー、サエちゃん味見に行くつもりですかーー」
「そんなのずるいです」
「試合が終るまで行く事は許可しませんよ」
先生が大声になりました。
「うーー、分かりましたー」
こうなったら、さっさと負けて、お城の調理室に行きましょう。
両側を壁に囲まれた長方形の空間で、オリ国とザン国の生徒が、木の玉に向かって、色々な魔法を使っています。
一番使われているのは、風魔法でほとんどの生徒が使える魔法です。
玉を静止させる魔法や、衝撃を与えて打ち出すような魔法も使っています。
最初は、ほとんど玉が動きませんでしたが、だんだんオリ国の生徒の顔色が悪くなってきました。
魔力切れですね。
結局ザン国の勝利で終りました。
次は、イナ国の番です。
相手は、ファン国です。
服装も髪型も乱れまくって、少し恐い雰囲気があります。
顔は、ニヤニヤしてわたし達をばかにしている事がよく分かります。
私は早く終らせて、まなちゃんの所へ駆けつけたいのですが、この不愉快極まりない方達にまなちゃんの力を、見せつけてやりたいという気持ちに成りました。
審判はパイさんが担当して下さいました。
「しっかり整列して下さい」
玉を挟んでファン国の生徒とイナ国の生徒が整列しました。
「お嬢様とお坊ちゃんには、負ける気がしねえぜ」
ファン国の生徒の一人が言うと回りの生徒がゲラゲラ笑います。
アーー、感じ悪―い。
「では、はじめ!」
私達をばかにしているファン国の生徒は、何もしようとはしません。
私が一番手で魔法を出すことにします。
まなちゃんの作った杖を構えます。
「風よ吹けーー」
びょおおおーー
「うわあー」
風を吹かせた私自身が驚きました。
いつもの五倍は風がでていました。
木の玉は、ファン国側に大きく入り込みました。
「おい、やばいぞ直ぐに立て直せーー」
ファンの生徒が急いで玉の後ろに走り込みます。
「皆行くよ」
私は同級生に呼びかけます。
私一人でこの威力です。
風魔法が使える同級生全員の威力はどうなるのでしょうか。
「いっけーーー」
びょおおおおおおーーーー
玉の後ろにファンの生徒が回り込む前に、玉が凄い勢いで壁に衝突しました。
「おおーーお」
ヤパドームに残っていた観客からどよめきが起こりました。
「はい、イナ国の勝ちです」
パイさんが勝ちを宣言しましたが、なんだか冷ややかです。
「モモちゃん、サエちゃんちょっといいですかー」
パイさんが私と先生を手招きで呼びます。
「何をしてもらったのですか」
パイさんにはバレますよね。
「まなさんはイナ国の生徒です、不正はありませんよ」
先生がパイさんに言い訳をします。
「そんなことじゃないの、何をしてもらったのかが知りたいの」
すごい小声で聞いてきます。
「魔法が強くなる杖をお借りしました」
私も小声で返します。
「そうですか、わかりました」
「そんなことまで出来るのですね」
「すごいですね」
またまた小声です。
私と先生は、コクコクうなずきます。
負けたファンの生徒は、目が点になっています。
何が起きたか理解できていないようです。
それとも、あれだけ酷い態度だったので少しは反省したのでしょうか。
「ファンの生徒は壁の外へ出て下さい」
「ザン国の生徒は入って整列して下さい」
「その前に皆さんに回復魔法をかけて、消耗した魔力を回復します」
「クロさんお願いします」
その言葉の後、全員の魔力と疲れが回復しました。
「これで、お互い全快のはずです」
「全力で戦って下さいね」
昼食会では態度の悪かったザン国の生徒が真剣な表情になっています。
「では、はじめー」
もはや、ザン国も敵ではありませんでした。
「いっけーーー!!」
びょおおおおーーーー
ガーーーン
凄い勢いで玉が壁にぶつかりました。
凄い勢いでぶつかったはずなのに、壁も玉も傷一つありませんでした。
「勝者、イナ国!!」
「次はいよいよヤパ国ですね」
パイさんが嬉しそうです。
壁の中に入って来る生徒に
「半分の力で戦うように言っていましたが、全力で戦って下さい」
「良い勝負が出来ると思います」
パイさんはヤパ国の生徒に手加減を指示していたみたいです。
「では、整列して下さい」
玉を挟んで整列すると会場から声援が上がりました。
意外なことにイナ国に声援が上がっています。
「頑張れー、イナ国―」
たぶんヤパ国が余裕で勝つと思っているのでしょうね。
それはそれで不愉快ですね。
「みんなー、頑張って勝ちに行きましょー」
私が声を上げると、イナ国の生徒は目を輝かせて声を上げました。
「おーー」
「ではまずは回復です、クロさんお願いします」
「準備はよろしいですか」
ヤパ国の生徒も、イナ国の生徒も小さくうなずきました。
「では、はじめ」
「いっけーーー」
イナ国の生徒が全力で風を送ります。
でも、木の玉はびくとも動きません。
「恨まないで下さいね」
「これがヤパの実力です」
ヤパ国の委員長でしょうか、手を挙げました。
じわじわ木の玉が、イナ国の方へ押し込まれます。
イナ国の生徒が一人また一人と膝をついて魔力切れを起こしています。
結局そのまま押し込まれて、イナ国は負けてしまいました。
「俺、結構本気を出したぜ」
「ああ、俺も」
「私も」
「すげーなー、イナ国」
ヤパ国の生徒達から拍手が起こりました。
観客からも拍手です。
観客の多くもヤパの人なので自国の生徒が勝って余裕なのでしょう。
とてもいい場面ですが、負けた私は、とても悔しいです。
「玉を壊せば勝ちなんだろー」
「俺たちは玉をこわーす!」
ザン国の生徒とファン国の生徒が玉を壊そうと駆け寄ります。
私は、まなさんの作った玉が壊せるわけが無い事を知っています。
時間と魔力の無駄使いですね。
さっさと味見に向かいます。
「あら、クロさん、パイさんと先生は?」
「はい、もうお風呂に行かれましたよ」
「なーー、はやいなー、とても大人の行動とは思えません」
私は他の生徒の杖を回収してから行こうと思い、他の生徒に声を掛けました。
でも、全員返したくないと、全力で訴えてきます。
中には泣いてしまう人まで現れました。
私には、これ以上無理です。
私自身返したくないのですから。