第百十三話 準決勝
キキちゃんの試合は一瞬にして終ったのですが、他はどうなっているのでしょう。
ギホウイこと世界一の武人イホウギさんは、ガイさんをやはり瞬殺したようです。
ハイさんとコウさんの戦いもハイさんの圧勝でした。
オデさんが嬉しそうです。
そして、ロイさんの試合ですが、この試合はまだ続いています。
お互いに剣を使い一進一退の戦いですが、赤龍団の団長の息が上がってきています。
今、決着が付きました。
ロイさんの勝利です。
観客からすごい歓声が上がります、ロイさんは女性の心を鷲摑みです。
倒れた赤龍団の団長が驚いています。
きっといままで負けたことが無いのでしょうね。
上には上がいるということを、試合で知ることが出来て、良かったのではないでしょうか。
この結果、ギホウイさんとキキちゃん。
ハイさんとロイさんの試合が準決勝と決まりました。
二十分の休憩の後に舞台の上に二人ずつ上がって、お互いに向い合いました。
はじめの合図と共に、ハイさんとロイさんの試合は終りました。
ハイさんの圧勝です。
ギホウイさんとキキちゃんの試合は、一瞬では終りませんでした。
ギホウイさんは木製の棍を素早く突き出していますが、当てきれません。
キキちゃんはギホウイさんの棍を完全に見切っているようです。
数分の時間が過ぎました。
キキちゃんは棍を避けることは出来ても攻めることが出来ません。
時々わたしの方を見るようになりました。
「あのーキキさんが時々こちらを見ていますがどうしたのでしょうか」
パイさんも気が付いたようです。
「キキちゃんはわたしに全力での戦いの許可を求めています」
「では、許可を出さないと」
「それは出来ません」
「なぜですか?」
「あれだけ速い棍を避けて、攻撃をすれば、その移動の速度分強力な攻撃になってしまいます」
「ギホウイさんといえど、死んでしまいます」
「なるほど」
わたしがどうしようか困っていると、この試合を見ている人から声が上がりました。
「大の男が、子供相手に武器を使うなー!!」
「そうだ、そうだー、卑怯者―、武器を使うなー!!」
それはやがてヤパドーム全体に広がり、素手コールに変わりました。
「すーでー!!」
「すーでー!!」
「すーでー!!」
「やれやれ人の気も知らんとよく言いおる」
必死で棍を突き出すギホウイさんが愚痴を言い出しました。
「すーーでー!!」
「すうーーでー!!」
「わかった、わかった」
ギホウイさんはトーーンと後ろに距離を取ると、棍を場外へポーーンと放り投げました。
「もはやこれで、勝ち目はなくなったわ」
ギホウイさんが構えると、キキちゃんが襲いかかりました。
それを迎え撃とうとギホウイさんが攻撃を仕掛けたが、これを易々かわすとキキちゃんの頭突きが胸に突き刺さった。
「ゴフッ」
ギホウイさんはそのまま場外へ吹き飛ばされました。
ギホウイさんは場外でしばらく倒れていましたが、ゆっくり立ち上がりました。
無事で良かったです。
審判がそれを見て。
「勝者、キキ殿!」
キキちゃんの勝利で終りました。
一時間の休憩をはさみ、決勝が行われることになりました。
決勝は、わたしのかわいいキキちゃんと、女神のように美しいハイさんです。
「いやーすげー試合だねー」
「ギホウイの棍、全く見えんかったぜ」
「それに勝っちまうとは、おそれいったぜ」
「はーなんであんたがここにいるんだ」
「おーロボ、どの人がお前のいうまな様だ?」
試合が終った青龍団の団長がやってきました。
「この方が、まな様だ」
「へー、めちゃめちゃ可愛いじゃ無いか」
思いがけない言葉にわたしは一瞬驚いたが、いつも言われ慣れない可愛いという言葉に、照れてもじもじしてしまった。
ブスとは良く言われるけど、かわいいなんていつ以来だー。
七五三の時、父に言われて以来だー。
「そっちのねーちゃんも可愛いね」
パイさんが言われて、赤くなってもじもじ、くねくねしている。
チョロい。
って、わたしも同じだったのかー。
なんだこいつー。
「すみません、まな様、青龍団の団長は、好みが偏ってまして」
「ブス専門なんです」
「なんだとー!!」
わたしとパイさんのパンチがロボダーさんの腹に炸裂した。
「まなちゃーん」
白いジャージと三角巾にゴム長をはいた人が、わたしの名前を呼びながらやってきます。
目をこらして良く見ると、ノルちゃんです。
国王とばれないようにお忍びのつもりでしょうか。
「ノルちゃんなんでそんな格好を」
「洗濯物の中で見つけて着てきました」
「とっても楽で動きやすいですね」
「そんなことより、大変なんです」
「はー、なにがー」
「決勝が終ったら、勇者との試合が最後で、予定の試合が全部終了です」
「明日まで予定しているのに今日で終ってしまいます」
「どーしましょう」
「そんなの、一度に試合をやり過ぎるからでしょ」
「一試合ずつ大事にやっていけばよかったと思いますよ」
「あーーそうか、次からはそうします」
「でも終ってしまったことはどうしようもありません」
「大会を引き延ばすなにか良い方法はありませんか」
「知恵を貸してください」
「そーですねー」
「せっかく各国の魔法学園の優秀な生徒が集まっているのですから」
「生徒同士の試合をしてみてはどうでしょうか」
「うん、うん」
「たとえば?」
「そーですねー」
まあ試合と言えば、日本なら野球かサッカーかな、この世界は魔法があるから、魔法でサッカーなんてどうかなー。
わたしは自分の身長くらいの木の玉を出した。
あんまり軽くて風魔法で、ピューで決着も面白くないし、
そもそもビニールとか、プラスチックはこの世界にはふさわしくありませんからね。
「この玉を魔法だけで動かして、相手の陣地に押し込んだ方が勝ちっていうのはどうでしょう」
「さすがは、まなちゃん」
「面白いです」
「ロボ、なんなんだこのお嬢ちゃん!」
「なんでそんな面白そうなこと直ぐに思いつくんだ」
「だから、言ってるだろー、まな様は特別なんだ」
なぜか分かりませんが、ロボダーさんが不機嫌に青龍団の団長に答えています。
「試合場は一つで良いので全部消しますね」
「クロちゃんお願いします」
その言葉の後、試合場はヤパドームの一番北側の中央をのぞいて全て消えた。
「うおおーー」
会場にいる観客からどよめきが起こった。
わたしは、ツインテの髪留めを外して仮面をはめて、ヤパドームの中央で両手を広げて立ちました。
手にはいつものピンクの杖を持ち、くるりと回転します。
ヤパドームに仕切用の壁が現れました。
「あれは、変な服のまな様じゃない?」
会場の人達から疑問の声が上がります。
な、なんでわかるんだー。
髪型も変えたし、仮面もかぶったし。
あー、そうか今わたしはセーラー服だー。
「嬢ちゃんすげーなー、あんなことまで出来るのか」
「……」
こんなこともあろうかと、杖の練習をしてきたのよ。
「これは、すべてこの魔法の杖がやってくれたこと」
「杖が無ければ、わたしは、ただのお嬢ちゃんです」
そう言いながら、わたしは杖を見つめた。
これで、杖がやったみたいに見えるでしょう。
少なくとも青龍団の団長には。
「ではノルちゃんルールの説明です、まずこの仕切の中で試合をします」
「相手の陣地の壁にぶつけたら勝ちです」
「ルールは玉を動かすのに魔法以外使わないこと、玉以外に魔法を使わないことです」
「あーあともう一つ、この玉を破壊しても勝ちです」
「すごーーい」
ノルちゃんの目がキラキラしています。
そんなに感動することかなー。
「これで今夜も、まなちゃんのおいしい晩ご飯が食べられます!!」
な、なんですとー。
「昨日のうな重は三個食べました、御陰でデザートが食べられませんでした」
にっこりしてわたしの方を見ますが、そんな告白をされてもどう返せばいいんだよーー。
気が付くと適当に置いておいたピンクの杖が見当たりません。
「あれ、杖が無い」
「ちっ、青龍団の団長だよ」
ロボダーさんが吐き捨てるように言います。
辺りを見渡すと青龍団の団長の姿がありません。
「まあ、俺が青龍団の支団長なら、そうしているから、悪くも言えないけどな!」
やっぱりロボダーさんは最低です。