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北の魔女  作者: 覧都
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第百十二話 武術大会本戦

結局わたしは晩ご飯の準備の為、この後直ぐに厨房に戻りました。

ロボダーさんとオデさんには会場に残ってもらいました。

ザン国の生徒と、ファン国の生徒が借りてきた猫のように大人しくなっていますからね。

あの二人ってそんなに恐ろしいのかな。


本日のメニューはウナギにします。

ウナギは当然思い入れのある食べ物です。

母は、嫌っていたので好き嫌いのある食べ物だと思いますが、昨日皆にわたしの食べたい物を、自由に作って構いませんと言われましたのでこれにします。

本当は中華料理を考えていましたが、今日はこれで行きます。


わたしの思い入れのあるウナギは近所のスーパー、と言っても個人経営のお店で、小さなお店のお魚コーナーのウナギです。

この店の鮮魚コーナーは旦那さんが面倒を見ていて、仕入れから調理まで全部やっていました。

ここのウナギは夏場の土曜日だけやっていて、養殖の丸々太った黒いウナギでした。

蒸さずに焼くだけのウナギの蒲焼きです。


肉厚で脂がしっかりのっている蒲焼きで、口に入れると分厚い身が柔らかく噛みしめると、ジュワッと油が口一杯に広がります。

身のタンパク質と油のうま味が口一杯に広がり、とてもおいしかった。

でもこのお店は、潰れてしまって今はない。


この味が忘れられず色々ウナギを食べましたが、同じ味に行き着いたことはありません。

でも、今のわたしは魔法で再現できます。

思い入れが強く、見た目、食べたときの具体的な歯ごたえ、臭みの全く無いあのおいしい身の味、おいしい油の味、ここまで憶えていればあとは魔力がちゃんと再現してくれます。


目を閉じ四角い重箱に炊きたてのご飯をつめ、その上に思い出の蒲焼きを乗っけたものを、想像して目の前にそれが現れる様にイメージします。

ついでに、紙の袋に入った割り箸もイメージします。

目を開くと机の上に一つの重箱と割り箸があります。

蓋を開けると、あの蒲焼きが乗っています。


さて、味見です。

箸で蒲焼きを持ち上げると、こんがり焼けた身が油でテカテカしています。

しかも分厚い、厚いところは一センチ以上あります。


「これこれ」


嬉しすぎて思わず声が出てしまいました。

思い出の蒲焼きです、わたしの思い出のまま。

ヒョイと一切れ全部口の中に入れます。

ジュワッと油が広がり、柔らかいウナギの白身から濃厚なうま味が口一杯に広がります。

わたしの唇がおいしいウナギの脂でテカテカになっているのを感じます。


目を閉じると、父の笑顔が思い浮かびます。


「うまいなー、お父さんはこのウナギが世界一だと思う」

「ここのウナギ以外は、こんなに油がのっていないんだ、身も薄い」

「一杯買ってあるから、遠慮せず沢山食べて良いからな」


流石に今日は泣きませんが、こころに思い出が鮮明に思い浮かび、心がもやもやします。


思い出の味に浸っていると、パイさんと、先生、サエちゃんが、三角巾をしたメイド服で重箱をのぞき込んで来ました。


「顔が近いです」


「す、すみません」


「もうこちらに来たのですか」

「もっとゆっくりしてきて良かったのですが」


「お腹が空いちゃって-」


三人がお腹を押さえた。


「えーー、今昼食会だったじゃ無いですか」


「食べていませんよ、味見をしないといけませんから」


パイさんが言うと、先生がうなずいています。


「私は、カルビのを一つ食べました」


うん知っているよ、サエちゃん、わたしが上げたのですから。

わたしはうな重を三つ机の上に用意した。


「では、味見をお願いします」


「……」


わたしはちゃんと理解しています。

直ぐにおいしーは帰って来ません。


「ふーー」


えっ、ふーーって何?

その後、すごい勢いで食べはじめました。

頬が、ぷっくり膨らんでリスの様です。

あなた達、味見係失格ですよ。

などと思っていましたが、おいしそうに思い出の味を楽しんでくれている三人を見ていると、わたしの父もわたしをこんな風に見ていたのかなと、涙が目に溜まってしまいました。


「おかわりーー」

「あーわたしも」

「わたしもー」


三つうな重を、追加しました。


「食べながらで良いのですが教えてください」


「はい」


「この食べ物はうな重と言うのですが、嫌いな人もいると思いますが……」


「そんな人はいません!!」


サエちゃんが口一杯に頬張ったまま大きな声を出したので、ご飯粒が数粒飛び出しました。


「すみません」


赤くなって謝るサエちゃんは可愛いです。


「そう言ってしまうと、話が終ってしまいますが、別の料理も用意したいと思います」

「ハンバーグを考えていますがどうでしょう」


「ハンバーグなら、小さい子も喜びますから、それでよろしいのではないでしょうか」


パイさんが答えると、先生とサエちゃんもうなずいています。


「一応味見をしておきたいのですが」


「はーー、まだ食べられるのですか」


わたしはハンバーグステーキを、鉄板の上でジュージューいっている、デミグラスソースがたっぷりかかったものを用意しました。


「えー、何ですかこれは」


「えっハンバーグですよ」


「お寿司のハンバーグを想像していましたので、全然違いますね」


三人はハンバーグも完食しました。

流石にお腹が苦しいと言っていました。


晩餐会とメイドさんの打ち上げは大好評のうちに終りました。






今日はいよいよ試合の本戦が始まります。

予選を勝ち抜いた三十二人が勢揃いです。

わたしの知っている人ではギホウイさん、ハイさん、ガイさん、ロイさん、コウさん、キキちゃんが残っていました。


サイさんや他の後イ団の幹部の方、ミッド商会の幹部の方も出場していましたが予選を勝ち抜けませんでした。

強い人は、一杯いるのだなあと思いました。

きっと強いけど人前に出るのが嫌な人もいるから、まだまだ一杯いるのだろうなーと、ボーっとしていたらキキちゃんがベスト8になっていました。


日本ならここまで来ると試合を一試合ずつもったいぶって、やっていたと思うのですが、ヤパの国ではそんな考えは無いようです。

同時に十六試合が行われて、その後同時に八試合が行われました。

それでも、見に来ている人はそれぞれ楽しんでいるようで、盛り上がっています。

ロイさんには女の人から声援が上がり、ハイさんには男性の声援が上がっていました。


次の試合は準々決勝です。

ギホウイさんとガイさん、キキちゃんと青龍団の団長、コウさんとハイさん、ロイさんと赤龍団の団長の試合が組まれています。


一番北の四つの試合場に二人ずつ八人が上がりました。

この濃い試合が四試合同時に行われるとは、何処を見て良いのか悩むところです。

まあわたしは、キキちゃん一択ですけどね。


試合場に青龍団の団長がゆっくり上がってきました。

団長は、体も大きく貫禄があります。

すごく強そうです。


「俺は、ロボのようには油断をしねえ」

「女、子供でも容赦なく本気で殴れる人間だ」


うわー、偉そうに語っているけどロボダーさんと同じ最低クズ野郎だ。

ロボダーさんは大丈夫かなーと思って後ろを見たら。

うつむいて肩が震えています。

泣いているのかと思ってのぞき込んだら、めちゃめちゃ笑っています。

キキちゃんに無様に負ける姿でも想像しているのでしょうか。

相変わらず最低です。


でも団長の事をよく知るロボダーさんが笑っているなら、キキちゃんの方が強いって事なのかな。

キキちゃん、相手が本気で来るみたいですから、ケガをしないよう頑張って!


オデさんは、ハイさんの試合だけはハイさんのそばに行きたそうだったので、行ってもらっています。

あーオデさんが幸せそうな顔をしています。

よかった。


「勝者、キキ殿」


「えーーっ、オデさんの顔見ていたら終っちゃったー」


「ぎゃーはっはっはー」


ロボダーさんが大受けです、パイさんも先生もサエちゃんも少し笑っています。


「くそー、青龍団の団長めーー、強そうなくせして、てんで弱いじゃ無いかー」


「ま、まな様、青龍団の団長は決して弱くありません、むしろ強いです」


パイさんが、驚いてわたしに教えてくれました。


「でも、キキちゃんには手加減するように言ってあるので弱……」


試合場の舞台の上で倒れている青龍団の団長に、それが聞こえてしまったのか、目をまん丸にして口をパカーッと開いて驚いています。

わたしはその表情を見て、これ以上言ってはいけないと思い途中で話すのをやめました。

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