第百十話 豪傑の専用武器
「クロさんそういう分けだからお願いします」
「はーー、何のことか分かりません」
「全員の専用武器を作って貰えるようにまな様に頼んで貰いたいんだ」
後ろでガイさんとロイさんとギホウイさんがめちゃめちゃうなずいているのを気配で感じる。
「もーー、しょうが無いなー」
「でも、分かっていると思いますがまな様は今、夕食の準備で忙しいので、頼むだけですよー」
「……」
数分の時間が過ぎた。
早く返事が欲しいときには、時間が立つのが異常に遅く感じる。
「はーー、皆さん残念なお知らせです」
「えっ」
俺達は、クロさんの残念そうな表情にやっぱり、まな様は忙しいのだと諦めた。
「なんだか、それなら直ぐ出来るとのことでもう作って頂きました」
「今から出しますね」
ガシャ、ガチャ、ガチャン、ガッチャーーン
クロさんが高い位置から武器を放り出した。
「うわあああーー」
「なななっ、なんてことをーー」
大の男達がオタオタして武器に駆け寄った。
「クッ、クロさん、なななっ、何てことを」
「はー、なにがー」
「なにがーじゃないですよー」
「新品の武器に傷が付くじゃ無いですかー」
「そんなもんつくかー」
「まな様の作った武器だぞー」
クロさんの逆ギレです。
「そういえば、まな様が名前も付けて下さいました」
うわー嫌な予感しかしねー。
長刀を手にしてうっとりしているガイさんにむかって
「まずは、ガイさんの武器ですが、専用武器なのでガイ正」
次に槍を手にしてうっとりしているロイさんに
「ロイさんの武器は、ロイ正です」
そして、斬伐刀をなでているおれに
「ロボダーさんのはロボ正です」
ギホウイさんは、先端がほぼ平らだが少しだけ錐に成っている棍。
全体の模様はいつも通りだが、若草の模様が緑色になっている。
ギホウイ専用の棍、それを手にしてニヤニヤが止まらないギホウイさんに
「イホウギさんの棍は、ギホ正です」
だーーっ、相変わらずなんて名前をつけるんだ!
ありがたさが半減だー。
「あっ、あのークロさん名前は斬伐刀のままでいいです」
「ああ、おれも物干し竿でいい」
「おれも青龍刀のままで」
「わしのは錐棍でいい」
「えーー、それは自分たちで言ってください」
「まな様が折角つけて下さったのですから」
「あと、サイさんの分を私が頼んで作って貰いました」
「雌雄一対の剣と言います」
「この剣は二本で一つの剣です」
急なことで、サイさんは驚きと、うれしさで涙ぐんでいた。
「サイ正じゃないのかよう」
俺の口から思わず出てしまった。
「ちがいますね、まな様は雌雄剣といっておられました」
「きっと何本も出したので、考えるのを忘れてしまったのだと思います」
うん、付き合いは短いがまな様はそういうポンコツな所のある方だ。
「おーーい、もう終ったかー」
俺たちが自分の専用武器にうっとりしていると、食事を我慢しているメイさんが少しご立腹だ。
「では僭越ながらまな様に変わりまして私が料理の説明を致します」
パイさんが来てくれて説明をしてくれている。
「この青い石は、コンロと言います」
「コンロの中には二時間だけ熱を出す石が入っています」
「この上にこの平たい鉄製の鍋を置いて」
「熱くなったら、この白い牛脂をお鍋の底に塗り塗りします」
「そしてこのピンクのお肉、霜降りっていうお肉を少し焼きます」
「焼いたらこの入れ物、徳利と言います。お手元に2本ありますがここにすき焼きのタレが入っているので一本だけ入れてください」
「タレと絡めたら、この小皿の黄色い液体につけて食べてください」
俺たちは、どろりとした黄色い液につけた肉を口に運んだ。
「まなちゃん働き詰めですけど大丈夫ですか」
私をサエちゃんが気遣ってくれています。
そんなに疲れているように見えるのかな。
体は何故か疲れ知らずだけど、精神が休みをほしがっているのかな。
「大丈夫です、もうひと頑張りですから」
今日の来客は昨日と同じ位の人数でしたが、働くメイドさんの数が千五百人に増えていました。
昨日いたメイドさんに加え五百人増加しています。
本当は、五百人入れ替えに成るはずだったのに、全員働きたいと言って引かなかったと聞きました。
そして、今日参加したメイドさんは昨日のメニューも食べたいとおねだりしてきましたので、お寿司と茶碗蒸しとハンバーガーを五百人分用意しました。
五百人のメイドさんの前にはすき焼き、寿司桶が二つに茶碗蒸し、ハンバーガーが用意されています。
フードファイター位の量の食事です。
結局お客様より、メイドさんの賄いの方が用意をするのに手間がかかりました。
わたしもメイドさんにまじってすき焼きを食べ始めました。
パイさんは、ヤパドームの王様専用特別室と、峠の茶屋の二階で食べ方の説明をする時にいっぱい食べてお腹が一杯だから横でデザートを食べています。
サエちゃんと、先生はおいしく食べてくれています。
キキちゃんはいつものように見学です。
わたしは、今日の具材の角麩を見て、今日すき焼きにしたのはこれが食べたかったのかーと、気が付きました。
わたしは、食事に思い出が一杯ある。
離ればなれの父親との思い出。
防家ではすき焼きに、焼き豆腐の代わりに角麩を入れる。
「すき焼きの中でこれが一番うまいんだー」
「すき焼きのうまさを全部吸い込んでめちゃめちゃうまくなる」
「まなも一杯食え」
わたしの父の口癖でした。
「すき焼きの締めはな、焼きそばを入れるんだ、これが味を一番すって、一番うまいんだ」
「ほら、まなも食え」
うちではすき焼きの締めは黄色い焼きそばの麺を入れます。
だから今日のすき焼きの締めも焼きそばにしました。
お肉は、一度だけ食べた松阪牛の霜降りを再現しました。
とてもおいしかったけど、わたしには角麩の方が、思い入れが深くとてもおいしく感じられました。
ミミちゃんは、玉子サンドを食べると泣いてしまいますが、わたしは角麩をたべながら涙を一粒流してしまいました。
デザートも思い出のデザートです。
ラムネズンです。
わたしの父は全くお酒を飲めなくて、
「アルコールの味が嫌いなんだ」
何てことを言っていました。
少しでもアルコールを感じると嫌な顔をしていました。
でも、ラムレーズンだけはお酒の風味があるのに大好きでした。
父はこのラムレーズンを、ラムネズンといって、アイスやチョコレートで好んで食べていました。
今日のデザートは、このラムネズンの入った一口サイズのバニラアイスと、ホワイトチョコレートです。
ラムネズンが嫌いな人もいるでしょうから、入ってないものも用意しました。
チューチューと、プリン、シュークリームなどは標準で用意しています。
結局わたしは、おいしいものを食べてもらおうと出しているつもりが、自分が食べたい物をだしているだけでした。
料理人失格ですね。
「ま、まな様とてもおいしいです」
近くにいるメイドさん達が目に涙を浮かべて感謝をしてくれています。
「ご、ごめんなさい、わたしは駄目な人間です」
「感謝される資格はありません」
わたしは、我が儘なメニューを出したことが恥ずかしくなり、褒められると逆に暗い気持ちになりました。
「まなちゃん、どうしたのですか」
また心配してサエちゃんがわたしに声を掛けてくれます。
「あのね、さえちゃん、わたしは皆さんにおいしい物を食べてもらおうと思って料理を出したつもりでした」
「でもね、本当は自分の食べたい物を出していたことに気が付いたのです」
「はずかしいです」
「はーーーっ」
この会話を聞いていたメイドさん達から、驚きの声があがりました。
「まな様、何を言っているのですか」
「まな様の食べたい物を出してもらえば良いのです」
「みんなそれが食べたいのですよ」
「パイさんは優しいですね、こんな駄目なわたしを慰めてくださるなんて」
「でも、わたしは料理人失格です」
「明日からは他の人に変わってもらいます」
この後、わたしは大勢の人から優しい言葉を掛けられて、料理を引き続き作る事を許してもらいました。