魔法の秘密
イネス郊外の林
「治癒」
あいの前にはロイが、一刀両断した魔獣の体があった。魔力はレイが魔封石に吸収したので、普通は放置か埋めるか、藪の中に捨ててしまうのだが、あいは治癒をかけた。
「すごい」
四人が感心している。体が腰のあたりで二つに切れていた魔獣が、普通のうさぎになって起き上がったからだ。
あいの治癒は心肺停止していてもどこかの細胞が一個でも生きていれば復活できるようだ。
パシ
すごい勢いであいがうさぎの耳をつかむ。
「この子どうしましょうか」
「痛そうだし逃がしてあげましょう」
耳をつかまれ、痛そうにもがいているうさぎを見てレイがいう。
「食べないのですか」
「はーあ」
団員四人が驚き声をだす。
「私たちは野生の動物はあまり、食べないわ」
「お肉が堅いし、変な臭いもあるから」
「それに、さばき方もよく分からないし」
レイがいうと、ガイが続く。
「血抜きをしないといけないし、内蔵の処理は見たことがあるが、気持ち悪すぎて俺にはできん」
「そうなんですか」
「よかったね、うさちゃん」
あいは、うれしそうにうさぎの耳から手を離した。
「あのうさぎ、もう魔獣にならないのかな」
「他のうさぎより、なりやすいわ」
メイが説明する。
「魔力に好かれているって言えばいいのか、適性があるって言えばいいのか」
「他のうさぎより魔獣になりやすいことはたしかよ」
「でも、いいじゃないかしら」
「魔獣になってくれた方が、又狩ればお金になるのだし」
「そう言う考え方もあるのか」
ロイが言う。メイが笑ってロイに話す。
「でも、今は漂っている魔力が薄くなっているから魔獣も減ってくると思うわ」
「北の魔女の復活か」
「そうね、巨大火柱以来どんどん、漂う魔力が減っているから」
「さあ狩りを再開しましょう」
伍イ団の狩りの作戦は、ガイ、ロイ、メイ、
が魔獣をあいの前におびき寄せ、あいが岩で仕留める作戦だ。
おびき寄せ係は順番に荷物番と入れ替わり、小さな魔獣はその場で仕留める。
今日はまだ、あいの手をわずらわせるような大物とは出会っていない。
「あいちゃん」
声の後に鹿の角の生えた、中型トラック程の大きさのかえるが現れた。
「飛べ」
岩がかえるに当たり、頭を吹き飛ばした。
「やったね」
嬉しそうにレイが駆け寄り、魔封石をかざす。
少し赤く輝いていた金貨五枚分の魔封石が白く輝きだした。
念のため、個人用の魔封石をあいとレイがかざした。少し赤く輝きだした。それ以上輝きに変化がないのを確認すると、
「治癒」
あいがかえるに治癒を掛けると、少し太めの鹿が現れた。
「なにこの魔獣、かえるじゃなくて鹿だったの」
あいとレイが笑い出す。
「あいちゃん、こっちに来てくれ」
あいとレイが声のする方に駆け出した。
そこには腹を半分程えぐられた、メイの姿があった。
メイの腹からは大量の血が出ており、所々赤い塊が出ていた。
メイは魔獣をかえると思い込み、跳ねて来ると身構えたところへ、突進され、角に引っかけられたのだ。
「うっ」
痛そうに苦しむメイにあいが治癒と回復の魔法を掛ける。
「治癒、回復」
メイの体はみるみる治っていった。
メイは復活すると、ガイとロイに近づきぽんぽんと蹴り出した。
「あなた達、なんでだまっていたの」
かなりご立腹である。
余りにも蹴り続けるので、両脇からあいとレイがヒョイと持ち上げ引き離す。
それでも怒りが収まらないのか、足をバタバタし宙を蹴っている。頬をぷくーと膨らまし、赤い顔をして足をパタパタしている美少女メイ。
かわいい。ガイがうっとりその姿をみている。
「メッ、メイさんなにがあったんですか」
レイがたまりかねて聞く。
「こ、こいつら」
メイがガイとロイを震えながら指さす。
「レイちゃんあのね」
「…それより体験したほうがいいわね」
「あいちゃん、レイちゃんに治癒と回復を掛けてあげて」
「はい、治癒、回復」
「なーー」
今度はレイがガイとロイの尻を本気で蹴った。
「いったい、何があったんですか」
今度はあいがレイとメイに質問する。
メイが答えた。
「あいちゃんの魔法、ただの治癒と、回復の魔法じゃないのよ」
「見て」
ゴオオ
大きな火柱が上がる、小さな家なら一瞬で燃やし尽くす程の火柱だ。
「私の病気が治っちゃったの」
「それにロイ君、今までに魔獣を一刀両断なんて、したことある?」
「そういえば今日は体が良く動く」
「あっ、俺も今日は魔獣を一撃でたおした」
ガイが言う。
「それは、あいちゃんの魔法のおかげよ」
「あいちゃん、回復魔法の時、どう考えて使っている」
「はい、こう」
あいは両手を広げた、その時横にいたガイの頭をポカリと叩いた。
そしてその手を内側に曲げたり上に伸ばしたりして見せた。
「元気になれ、元気になれって、思っています」
「それね、普通の人ならそれでいいけど、あいちゃんは魔法が出過ぎちゃうから、身体強化魔法になっているのよ」
「今後は普通に戻れって、思って使ってね」
「わかりました」
「ガイ君、ロイ君、本当に気が付かなかったの」
「なんか調子が良くなった位にしか」
ガイとロイが頭を掻く
「鈍いにも程があるでしょう」
レイが再び今度は軽く二人の尻を蹴る。
「そういえば、メイさん病気が治ったって、いっていましたけど」
「そうね、どう、狩りはこの辺にして、納品してベイで話さない」