第百八話 青龍団
本日は、キキちゃんの試合が予定されています。
当然、ハイさんも、コウさんも、ギホウイさんも予定されています。
この四人の試合は、すべて一番北の試合場で予定されています。
峠の茶屋の一番近くで執り行われます。
でもわたしはキキちゃんの付き添いで、さらに試合場の近くで観戦できます。
相撲で言えば砂かぶり席です。
喜んだのも束の間、この人達の強さは、異常で全ての試合が瞬殺です。
一番盛り上がったのが、キキちゃんの七回目の試合でした。
相手は青龍団の副団長で主に盛り上がったのはロボダーさんでした。
副団長さんはステージの上からロボダーさんに「おまえ、こんなのに負けたのか」と吐き捨てるように言いました。
「ああ、負けた、その責任をとって青龍団は退団するさ」
「この後、正式に挨拶に行くつもりだ」
ロボダーさんはすっきりした顔で副団長に答えていました。
副団長はキキちゃんにワンパンで負けてしまいました。
ロボダーさんは涙を流しながら転げ回って笑っています。
この人のこういう所ですよね。
最低過ぎで掛ける言葉がありません。
顔が良いだけにほんと、引いてしまいます。
この試合は十勝している相手には、十勝の相手と、同じ勝数の相手と対戦が組まれているので、普通は相手も十分強いはずですが、この四人は異常に強く相手の攻撃を体に受ける事すらありませんでした。
四人はそろって十三回までたたかいました。
それでも二時間はかからず、そろって本戦出場を決めました。
峠の茶屋に帰ると、伍イ団の男性陣がいました。
オリ国の魔法学園の学生の護衛を務めていましたが無事終了したとのことでアドバーガーをパクパクしていました。
武術大会には、ガイさん、ロイさん、サイさんの三人が出場するということです。
そして、イナ国の魔法学園も到着です。
「これで、先生とサエちゃんとはお別れですね」
「はー、なんでですかー!」
「先生はともかくとして、私はまなちゃんの親友ですよ」
サエちゃんが親友を盾にいすわる気満々です。
あれ、いつから親友になったっけ。
「サエさん酷いです。ここは、先生の味方をしてほしいです!」
一度は戻った方が良いと思いますが、本人の希望なのでそのままにしておきましょう。
「まな様、俺は一度青龍団の団長にあって話がしたい」
「時間が欲しいのですが」
副団長がキキちゃんに負けたタイミングで話し会いに行こうとは、相変わらずロボダーさんらしいです。
「じゃあ、今からで大丈夫です」
「わたしはちょっと早いですが夕食の準備に入ります」
「色々準備が必要なのでこれから厨房にこもりますので」
「ちなみに、今日の献立は、なんですか」
「今日のメニューは、すき焼きと、ラムネズンです」
「お肉は松阪牛の霜降りです」
「うん、聞いても何か全く予想できませんが、夕飯までには帰って来ます」
俺は、まな様に時間をもらって、ヤパ国の青龍団の支部に向かった。
俺たちはこの大会で青龍団の一位と二位と三位の独占を考えていた。
その矢先に俺が一回戦で負けてしまった。
しかも相手がキキさんだ、子供相手に負けてしまった様に見える。
見ている人間には俺が弱く見えるのだろうと思った。
このまま、青龍団に帰って報告すれば、俺の油断で負けたと団長に怒られて終る。
だが、違う。
確かに油断はしていたが、全く動きが見えなかった。
首の骨が折れる感覚も、肋骨の折れる感覚もあった。
意識が戻った時には無傷だった。
あり得ない、こんなことがあってたまるか。
気が付けば対戦相手の子供の後を付けていた。
無意識についていったのだが、あれのおかげで今がある。
運がよかった。
今までの俺は、青龍団が最高だと思っていた。
そこに、貧民のあい率いる伍イ団が台頭してきて、まあ噂には尾ひれが付くからあまりすごいとは思っていなかった。
知ってしまえば無知の恐ろしさに恐怖すら覚える。
「あっ、ロボさん」
そうだ、俺の名前はロボだ。
すっかり忘れていた。
「団長と副団長はいるかい?」
「はい、皆さん支団長室にいます」
支団長室に入ると、ヤパ国の支団長と団長、副団長がいた。
団長は青龍を名乗り、副団長はギドという。
この二人は俺より強い。
だが、キキさんと比べれば天と地ほども実力が離れている。
果たしてこの二人がそれに気が付いているのかどうか。
「ちー油断したぜ、見た目が子供であの強さはやばいぜ」
「まあ、油断しなければ勝てたがな」
ギドは、気が付いてねえー。
キキさんはまな様から試合で相手を殺さないように、手加減することを指示されている。
手加減されて瞬殺されたんだよ、あんた。
本当に無知というのはこえー。
「俺は、青龍団をやめるぜ」
「それを言いに来た」
「副団長も負けたんだ、一回戦で負けた事なら気にしなくていい」
「いや、負けたからやめるわけじゃねえ」
「じゃあなんだ」
「世界が広がったんだ」
「俺たちの知っている世界はせめー」
「ぎゃー、はっはっ」
団長も、副団長も、ヤパの支団長も腹を抱えてわらっていやあがる。
「てめー気でも狂ったか」
「もう少し頭の良い奴だと思ったがな」
「クーさんいるかい」
俺は何も無い肩の方を向いて話しかけた。
団長も副団長も支団長も、いよいよ気が狂ったのかと思っている様だ。
「私は、クロです」
「クーちゃんは、基本分体を出していません」
「へー、そーなんだ」
「なぜだい」
「あい様は強いので自分を守れますが、まな様は戦い方を知りません」
「分体を出すと出した分だけ本体が弱くなります」
「クーちゃんはまな様を守る為に分体を出さないのですよ」
「なるほど」
「で、なんのご用ですか」
「水と湯飲みとお寿司と醤油と小皿を3つずつ出して欲しいのだけど」
「えーっ、お断りしたいです」
「すごく貴重なのですよ」
「わかるけど、そこをなんとか」
クロさんが姿を消している為、独り言の様に見えるが、目の前の机に見慣れない物が四つでた。
気を利かせて、クロさんが俺の分まで出してくれたのだ。
「うお、なんかでた」
団長と支団長が驚いている。
副団長のギドは少しビックと体が動いたが、声までは出していない。
「これだよ、貧民のあいも石を出していた」
「ロボおめーもあの魔法が使えるようになったのか」
「おれは魔法を使えねーよ、まあ気にするな」
「それよりこの水を飲んでみてくれ」
クロさんの事を説明するのが面倒くさくて、俺はさっさと湯飲みに水を注いで三人に渡した。
「……」
「うめーーー!!」
「なんだこれは」
「こっちも食ってみてくれ」
「この醤油に少し付けて食べるんだ」
「な、なんだこれはーー!!」
「うますぎる!」
「なー、すげーだろ」
「こんなすげー物をこともなげに出せる方がいる」
「あの試合場も一人で出した物だ」
「嘘だろー」
「これが俺の言う世界が広がったってー意味だ」
「わかるか」
「うむ、分かる気がする」
「日々知らねーことが増える」
「こんなすげーことを、こともなげにする人だが」
「すげーポンコツで弱えーんだ」
「おれは、その方を守る仕事をする」
「だから、青龍団は退団する」
「まあ、こういうわけだ」
「おめー、それなら護衛を青龍団で受ければいいじゃねえか」
団長が提案すると、副団長も支団長もうなずいている。
「いくらで受けるつもりだい」
「そりゃあ、こんなすげー物作れるんだ、それなりにもらわねえと」
「その方は、ただでやっている」
「だから、俺もただ働きだ」
「……」
「まあそういうことだ、後のことは頼んだぜ」
「ま、まて……」
まだなにか言いたそうだが、俺はそれを聞かねえようにして、さっさと青龍団を後にした。