第百七話 晩ご飯
「あっ、お姉様、もうお着きですか」
「サエさんこそ学園の方と御一緒では?」
わたしが考え始める前に、サエちゃんが青いドレスの美女に話しかけてしまいました。
おかげで答えが分かってしまいました。
「サエちゃんのお姉さんだから」
「ササ領主の次期当主さまですね」
わたしが自慢そうにドヤ顔で答えると、ノルちゃんが悲しそうな顔をしています。
わたしが当てたのがそんなに不服なのかなー。
「まなちゃんは本当にすごい人なのですけど、所々ポンコツなのですよねー」
「とくに人のこと! 関心が全くないのか名前とか身分とか憶えていませんよねー」
「えーーっ」
「わたしは、すごくねーし、ポンコツでもねー」
すこし拗ねた顔をしてみた。
すると、ノルちゃんが天使の笑顔になりました。
「この方は、サエちゃんの従姉妹のサキ様ですよ」
「……」
「まだ分かってもらえないのですね」
「イナ国の国王、サキ女王陛下ですよ」
「えーーっ」
わたしはただの庶民の高校生、王様が急に目の前に現れたら、どうなると思いますか?
めちゃめちゃ素速い動きで平伏しますとも。
いつもの緩慢な動きは何処へやら。
わたしは普段からアドちゃんやクーちゃんに、威厳、威厳と口うるさく言われていることを平伏しながら思い出しました。
横目でノルちゃんを見たらすごい形相です。
さっきの天使の顔は何処へやら、鬼も真っ青な怒りの表情です。
わたしは怒られることを覚悟しました。
ノルちゃんは、わたしの後ろに回り、脇の下に手を入れ、すごい力で体を引き起こします。
引き起こされて何事かと思っていると、ノルちゃんはわたしの素早さを越える素早さで、わたしの前に回り込み頭を床に擦りつけます。
その横で、サキ様まで平伏しています。
「申し訳ありません、まな様、私がつまらない悪戯心を出したために、お膝を汚してしまいました」
ノルちゃんはわたしに怒っているのでは無く、自分の愚かさに怒っているようでした。
「ノルちゃん、まな様はやめて!!」
「そして、直ぐに立って下さい」
「サキ様もお立ち下さい」
だって、わたしが二人の王様をひざまずかせているみたいじゃないですか。
ここには貴族のお嬢様も、メイドで忍び込んでいるのだから、変な噂が広まってしまいます。
「あのーまな様、私に様は不要です」
「どうか、サキと呼び捨てでお願いします」
だーーっ、サキ様はわたしのことを、何て聞いてきているのーー。
ここはいつものあれだ、でも流石に王様にわたしから言うのは憚られます。
いつものようにノルちゃんに助け船を求めようとチラ見したら、大泣きしています。
わたしをひざまずかせたのがそんな泣くほどのことかーー。
困っていると、サエちゃんが来てくれました。
「まな様は私とお友達になって頂きました」
「いまは、ちゃん付けで呼び合っています」
さすが、委員長、ナイスフォロー。
「……」
さあもう一言頑張れー。
「……」
あーだめだ、ここまで言っておきながらここで、おそれおおくなってしまったー。
「サキ様も、私同様、まなちゃんとお友達になられてはいかがですか」
涙をドレスで拭きながら、ノルちゃんが助けてくれました。
「そっ、そうしましょう、サキちゃん」
「まっ、まなさま、あっ、いいえ、まなちゃま」
だーーっ、従姉妹そろって噛みおったーー。
「ところでまなちゃん、これが今日の料理ですか」
「味見をしても……」
「ノルちゃん駄目です」
「もう少しですから我慢して下さい」
「えーーっ」
ノルちゃんが、すごく食べたそうですが、ここで食べないほうが絶対良いはずです。
「お姉様、この料理は、すべてまな様、じゃなくてまなちゃまが作ったのですよ」
「見た目はもちろん、味はとてもこの世の物とは思えないほどのおいしさでした」
「これが、噂に聞いていたヤパの特別料理なのですね」
「とても楽しみにしていました」
「外の、ヤパドームもまなちゃんが一晩で作ったのですよ」
「まあ、一晩で!」
「あのー、ご歓談の所申し訳ありませんが、準備の邪魔です」
「とっとと、出て行って下さい」
わたしが外に向かって指を指すと、二人は名残り惜しそうに出て行きました。
この部屋には調理の設備も整っていますが、今回は使いません。
次々茶碗蒸しを机の上に用意し、お寿司の準備に入ります。
机の上に、横に五段、縦に五段奥に二十列、計五百個、机が四つあるので計二千個、メイドさんが運び出したら、お替わりの分を出しました。
どうせ、クーちゃんとクロちゃんが消去するから少し余計に出します。
お寿司は、桶で出しましたから非力な女性のメイドさんでも五段重ねで運べます。
「すごーーい、重ねて運ぶ事が出来るなんて、運び易さまで考えて料理を作るなんて!!」
「そうでしょう、これが私の親友まなちゃんです!」
入り口の横から中をのぞきながら、サキちゃんとノルちゃんが会話をしています。
あんたら、まだ、いたのかーーい。
だいたい、これはわたしが考えた物じゃ無いのですよ。
日本では古くから存在している物なのですよ。
こういうものまで、わたしの手柄にされるのは困るなー。
「ノルちゃん、サキちゃん、準備が終わってしまいます」
「お二人がいなければ、皆が晩ご飯食べられませんよ」
「さっさと会場へ行ってください」
二人が渋々会場に戻ると入れ替わりで。
「まな様お呼びですか?」
コウさんの所の小さいメイドさんが六人来てくれました。
わたしは、家族連れが多いということで、小さな子供もいると考えてお子様用のお寿司を別に作りました。
ツナマヨ、コーン、焼き肉カルビ、ハンバーグ、玉子、イカ天、稲荷、エビフライ巻きの入ったお寿司、このお寿司の味見をお願いしたのです。
「このお寿司の味見をお願いします」
「えーっ、おいしそう、これを食べても良いのですか」
「はい、お願いします」
「そして食べた感想を聞かせて下さい」
「……」
食べて直ぐには感想なんて出ません。
ゆっくり良く噛んで味わってそれからです。
わたしは、テレビの見過ぎで口に入れた瞬間においしいって言うのを期待していました。
実はこのお寿司の、ハンバーグには防家のハンバーグを使用してあります。
小さいサイズでお寿司にのる大きさにした我が家の味です。
隠しアイテムです。
出来ればこのお寿司がおいしいと言って欲しいと考えています。
「……」
返事が遅すぎます。
心配になって子供達の顔を見たら、幸せそうな顔をしています。
どうやら返事をするのを忘れているようです。
これなら、出しても良さそうですね。
こちらのお寿司は五百個用意しました。
次はデザートです。
一つは、ヤパではもう外せないチューチュー
そして、和菓子に決めました。
和の料理には和菓子が良いと考えたからです。
クリームぜんざい、な○やん、おはぎ、栗きんとんで行きましょう。
一つずつ用意したら、全員が味見まちです。
「ちゃんと感想を聞かせて下さいね」
「はーーい」
「おいしいー!!」
全員そろって良い返事です。
あーーこいつら、食べる前にいいやがったーー。
わたしは、がっくり肩をおとし全員分出しました。
わたし達がデザートを試しているときには、お食事会場では皆さんお待ちかねお食事会が始まりました。
ここでもお水が好評で、お寿司は、意外にもカルビ焼き肉が人気でした。
気に入ったネタのお寿司だけのお替わりも用意して、皆さんに満足して貰える様配慮は忘れません。
デザートの準備まで済ませるとわたしは、会場の様子を入り口の横からチラチラのぞいて見ていました。
日本に戻ったら、わたしは料理人に成りたいなどと考えていました。
料理を魔法で出すだけで、全然料理を作ってい無いことなどすっかり忘れていますけどね。
デザートタイムに入ると、大人も子供も、ノルちゃんもサキちゃんもチューチューをチューチューやっている姿を見て、えらいことをしてしまったなーと頭をかかえてしまいました。
片付けまで済ませるといよいよ、メイドさんの宴です。
皆さんからの要望でハンバーガーも食べたいということで、メイドさんの前には寿司桶が二つとハンバーガー二個、デザート、飲み物が並んでいます。
女も食べるときは驚くほど食べるのですよ。
こうして、二日目の夜が終了しました。