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北の魔女  作者: 覧都
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第百四話 青き斧

南の魔王の森、略して魔王の森。

当然、南にあります、ヤパの城、ヤパドームを背にして、わたしは森を見ています。

同行しているのは、キキちゃんと先生、委員長、ロボダーさん、パイさん、オデさんの六人です。


広大な森は、生えている木々を太く丈夫に育てるようで、一本、一本が巨大で太く、それを切り倒す為大勢の人が、ひっきりなしに斧を振っています。

体の大きい筋肉質の、男の人が必死に斧を振っていますが一向に、刃が進んで行きません。

とても木が堅いのか、斧が切れないのか、それともその両方か。

苦労をしています。


切り倒された木を、魔法使いが魔法をかけながら運んで行きます。

重さを軽減する魔法を使っているのでしょうか。

その後、加工をしていますが、ここでも作業に苦労をしているみたいです。

堅い木と皆必死で格闘していますが、作業は進みません。


ぼーっと作業風景を見ていると、だんだん雑念がわいてきます。

そういえば、お手洗いの汚水処理は、スライムがやるものよねー。


「クーちゃん、この世界にはスライムっていう生物はいませんか?」


「聞いたことがありません、どのような物ですか」


「透明でぶにょぶにょした物の中に、細胞の核がある感じの物です」


「細胞の核?」


「そうですね、黒っぽい丸い物です」


「透明のぶにょぶにょした物の中に黒い丸い物が入っている……」

「あーあれのことですか」


「えっ、いるのですか」


「はい、採ってきます」


クーちゃんはそう言うとパッと消えて、すぐに戻って来た。


「まな様、手を出して下さい」


言われるまま、わたしは両手を前に出した。

クーちゃんはわたしの手にドロッとした物を、自分の手からわたしの手に流し込んできた。


「ぎゃーーっ、気持ちわるいー」

「ななな、な、何ですかこれは?」


「はい、すらいむです」


「……」

「いつもは何て呼んでいるのかな?」


「はい、私は蛙の卵と呼んでいます」


「うん、これは蛙の卵だよ」

「あやうく、気持ち悪くて捨ててしまうところだったわ」

「大事な命だから、元に戻してきて」


「わかりました」


わたしがクーちゃんの手に卵を移すと、クーちゃんは平気な顔をして嬉しそうに受け取ると元に戻しに行った。


「戻してきましたー!!」


「速いですね」

「クーちゃん、あれは蛙の卵でしたが、あんな感じの生物で、もっと大きくて、ぷよぷよ動き回るのですけど、いないのでしょうか」


「それでしたら、私は見たことありません」


「でしょうね」

「わたしもうすうす、そう思っていました」


この世界には、スライムはいない。


「ねー、クーちゃん魔王は、いるのですか」


「会った事がないので分かりません」


ひょっとすると魔王もいないのじゃ無いか。

そんな、気がしてきました。


わたしがクーちゃんとこそこそ話をしていると、森の方から作業をしていた、男の人達が数人歩いてきました。

皆、上半身が裸で、筋肉ムキムキで恐い顔をしています。




「なーあんたら、そんなところで見ているだけなら、少しぐれー手伝ったらどうなんだ」


少し怒った様子で話しかけてきます。


「申し訳ありません、わたしは皆さんの作業がどうすればやり易くなるか見学していました」

「気分を害されたようでしたら、直ぐに場所を移動します」


必死で作業をしている後ろで、手伝いもしないで見ているだけでは気分が悪くなるもの。

わたしが逆の立場なら同じ気持ちになる。

謝って直ぐに場所を移動しようとした。


「まな様、謝る必要はありません」


「文句があるなら、おでが相手になる」

「まな様が、移動するひずようはねえ」


ぎゃーー、パイさんとオデさんがケンカ腰になっています。

先生と委員長は、オロオロしていますが、後の四人は、やる気満々です。


「悪いのはこちらです、場所を移動しますよ」


「いや、こいつらには分からせる必要がある」


ロボダーさんの言葉に、パイさんもオデさんもうなずいています。

ここはひとつ、いつもアドちゃんに言われている威厳を示しますか。


「わたしの言うことが聞けないのなら、誰の言葉にあなた達は耳を貸すのですか」


少し真剣な顔で声のトーンを落として言い放ちます。

ザッ

全員がひざまずきました。


「も、申し訳ありません、まな様」


ぎゃーーっ、いやいや、そんな、そこまでのつもりで言っていませんよー。

あらまー先生も委員長もひざまずいています。

横に気配を感じて見てみると、クーちゃんが、姿を消すのを忘れて、わたしにみとれています。

口からよだれを垂らし恍惚の表情です。

クーちゃんはわたしの威厳が好物のようです。


「すげーー、さすがまな様だ」

「圧がすげー」


ロボダーさんがつぶやくと、皆がうなずいています。

嘘でしょー、あなた達の受け取り方でしょー。

わたしは、全然圧なんかありませんよ。


「おーーい!!」

「お前達何をしているんだー」


森の方から、赤い鎧の男が近づいてきました。

この部隊の隊長さんでしょうか。


「うわ!!」

「ままま、まな様!!」


はーー、なんかすごい驚きようです。


「あのー、わたしを知っているのですか」


「この国の兵士で、貧民のあい様とまな様を知らない者はいません」


「ちなみにどうやって見分けるのですか」


「服装です、あいさまは貧民服、まな様は変な服を着ていると絵で周知徹底されています」


「へ、変な服ではありません、セーラー服です」

「そうか、この世界では珍しい服なんだよねーこれ」


変な服がつぼに入ったのか、ロボダーさんが押し殺しているつもりでしょうが、笑っているのが聞こえてきます。


「お前達、いったい何があったんだ」


隊長がムキムキの男達の方をにらみ付けます。


「こ、こいつらが目障りで……」


ムキムキ男達は、隊長が恐いらしく、シュンとしています。


ムキムキ男達を見ている隊長の顔は厳格で恐ろしく、一角の人物ということがわかります。

一生懸命仕事をしていたであろう、ムキムキ男達が気の毒に感じて、助け船を出して上げることにした。


「違うんですよ、ちょっとこの斧を試して欲しくて、わたしがお呼び出ししました」


わたしは、練習の成果をだすべく杖と斧を出した。

でも、位置を間違えて、手に斧を持ち、それを振り、斧の指した先に可愛いピンクの杖が出た。

まるで杖が出したかった様な感じになった。

横でクーちゃんが腹を抱えて笑っている。


「し、しまった、逆だーー、かけ声を掛けるのも忘れたーー!!」


何事かと、思っていたロボダーさん達まで笑い出した。


斧は全体をイナの国色の青でデザインして、全体に若草の模様を白く入れ、所々にヤパの国色の赤い実をちりばめる装飾を施した。

当然、重量はわたしが片手で振れる程軽く、絶対強度と人を殺傷出来ない魔法をかけた。

切れ味は一振り三センチ程度に留めた。


「オデさんこの斧でわたしを力一杯切りつけて下さい」


わたしはオデさんに斧を差し出した。

でも、オデさんは数歩後ずさりして、首を振った。


「な、なんだっでー」

「おでにはそんなごどでぎねー」

「まな様にそんなごどでぎねー」


「じゃあ、ロボダーさんでお願いします」


わたしが言い終わると、オデさんは斧をさっと手に取り、ロボダーさんに向かい斧を振りかぶった。


「ロボダー、悪ぐ思うなー、まな様の命令だーー」


「ぎゃーーーーー!!」


悲鳴を上げたのはオデだった。

力一杯振り下ろした斧はロボダーの寸前で強い魔法の力でピタリと止まっていた。

そのため、勢いのついたオデの両手の親指の骨が折れてしまったのだ。

ロボダーはあまりの恐怖に青い顔をし、硬直して止まっていた。


「ご、ごめんなさい、クーちゃんオデさんを直ぐに治して上げて下さい」


「いやです!!」


「くーちゃん、すぐに治しなさい!」


「はい!!」


クーちゃんが嬉しそうに治癒します。

困ったものです、クーちゃんは命令されるのが嬉しいみたいです。

治癒が終わるとうっとりしています。


「済みませんお待たせしました、森の木をこの斧で切って見て下さい」

「この斧は、見ての通り、人を決して傷つけませんが木は良く切れるはずです」


わたしは隊長さんに斧を手渡した。


隊長と今回の武術大会で、新しく兵士になったであろうムキムキ男達は、斧を持って木の所へ戻って行った。


「うおおおーーー」


しばらくすると森から歓声があがった。


「すげーー切れ味だーー!!」


体格のいい人達の声は、少し離れているわたし達の所でも良く聞こえた。

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