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北の魔女  作者: 覧都
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第百二話 町の名前はいちのみや

わたしはドキドキしながら、魔王の森の奥地であいちゃんを待っています。


ここは前に一度お食事会をした場所ですが、あの時とはもう景色がまるで違っています。

見渡す限り草地になっていて、ここが少し前まで森だったとは、信じられません。


高い壁に囲まれた草地は、まだほんの少し建物があるだけで、人口が少ないことがよく分かります。

四方を壁に囲まれて、壁の南側には川が流れています。

その川から水が引かれていて、壁の回りは堀になっています。


わたしは川沿いの壁の内側で、草の上に座り一人で考え事をしています。

いざ、あいちゃんに会うと思うと、少し不安になっています。


少し前、ルシャちゃんに言われたことが心に引っかかっているのです。


「まな様は、変です」

「ミミ様とはじめて会ったとき、その時点で可愛いと言っていました」

「あの時点でのミミ様は、ガリガリに痩せて」

「目のまわりのクマが酷く、目が奥に落ち込んでいて」

「とても可愛いと呼べないと思っていました」

「でも、魔女の契約を交わしたあとのミミ様は、めちゃめちゃ美しかったです」

「思わず飼い主をミミ様に決めてしまいました」


ここから、わたしは一つの仮説を立てました。

それは魔女の契約がただ契約して、魔力を与え拘束するだけではなく、自分の理想を押しつけているのではないかということを。


わたしは、この世界のあいという人にあって、すぐに親友のアイちゃんを思い浮かべました。

その時のあいちゃんもガリガリに痩せていたはず、日本のあいちゃんに、はたして似ていたのだろうか。

別世界に転移して、いきなり親友に会えることなんてあるのだろうか。


この状態での魔女の契約が、この世界のあいちゃんを、日本の親友アイちゃんにしてしまったのではないのだろうか。

わたしはとんでも無いことをしてしまったのではないか。

そんなことを考え出しました。


「まなちゃーーん!」


あいちゃんが、少し離れた所から声を掛けてくれました。

着ている服がセーラー服です。

ここでは、貧民がいないのだから貧民服でいる必要が無いのでしょう。

それともわたしを喜ばせる為でしょうか。


セーラー服姿のあいちゃんは、日本の親友アイちゃんそのものでした。

わたしの考え事は吹き飛びました。

そんなことはどうでも良くなりました。

目の前にいるあいちゃんは、懐かしい日本のあいちゃんそのものでホームシックのわたしの目は、あいちゃんだけを見ています。


わたしは試合の時のキキちゃんの様に弾丸のようにあいちゃんに向かって駆け出しました。


ポスン


わたしの走りは弾丸には程遠く飛びついたわたしの体は、ズドンと飛びつく予定でしたがポスンでした。

それでもあいちゃんはわたしのからだに、衝撃が残らないように柔らかく受け止め後ろに倒れてくれました。


「あいちゃーーん!!」

「あいちゃーーん!!」


あいちゃんに抱きついたわたしは、つぎつぎあふれ出すあいちゃんとの思い出に押しつぶされそうになっています。


この世界に来て、思い出は心の奥深くの片隅に布団圧縮袋の様に、ぎゅうぎゅう圧縮して押し込めていました。

思い出してもしょうが無いことだから。


でも、その圧縮袋に亀裂が入りどんどん広がって、今のわたしの、心の中は思い出に占領されようとしています。

わたしの思い出は、いつもあいちゃんと一緒です。

保育園の入園の時の写真も、小学校の入学の時の写真も一緒に写っています。

中学の入学の時も、高校の入学も、交通事故で死にそうになったときも、いつも一緒でした。


「あいちゃーん」


やばい、うっすら目に涙が溜まってきました。

ホームシックって大変な病だね。

帰れないと思えば思うほど進行していく。


あいちゃんはわたしの頭をそっと撫でてくれています。

それが、余計に涙を誘います。

あいちゃんの胸に顔をうずめて、涙を見られないようにします。

いい年をして恥ずかしいですからね。


見られていないと安心するのか、涙が次々でてきます。

鼻水まででてきました。


ズーーッ

ズーーッ

ゴホッ、ゴホッ


鼻水をすすりました、そしたらむせました。


「エッ、エッ」


わたしは押し殺していた物が、咳をしたことにより外に出てしまいました。

最初は小さくやがて大きくなります。


「えーん、えーん」


「わーーーん、わーーーん」


「うわーーーん、うわーーーん」


わたしは、心にあるストレスを全部出し切るつもりで大声になりました。

もうまわりは、なにも見えていません、最後は叫んでいました。

ひとしきり叫ぶと、なんだかすっきりしてきました。

そしたら、肩が震えてきました。


わたしは、笑いをこらえています。

今泣いたカラスが、すぐに笑ったっていうあれです。

ストレスを解放してすっきりしたわたしは、なんだか可笑しくなりました。


「もう大丈夫ですか?」


あいちゃんが心配そうに聞いてきます。

わたしは、急に現実に引き戻され恥ずかしくなりました。

真っ赤な顔をして、顔を上げあいちゃんの顔を見上げました。


「はい」


わたしは照れ隠しで満面の笑顔を作りました。

でも、鼻水がデロンと、あいちゃんのセーラー服の上まで垂れ下がり、泣いたことより恥ずかしくなり、さらに顔が赤くなりました。




「あいちゃんごめんなさい、びっくりしたでしょ」


「はい、少しだけ驚きました」


「ねえあいちゃん、いま、幸せですか」


「とても幸せです」

「全部、まなちゃんのおかげ!」

「すごーく感謝しています」

「誰かに、この感謝を叫びたい位です」


うん、あいちゃんが幸せなら、魔女の契約はしてよかった事だと思うことにします。

これで解決です。


「そうだ、神社を造りましょう」


「神社?」


「そうです」

「誰に伝えて良いのか分からない感謝の気持ちを伝える場所です」


「それは、良いですね」

「この場所に造りましょう」

「それと、まなちゃんにこの町の名前を付けてもらいたいのですが」


「エーー、わたし名前を付けるの下手ですよ」


「どーしてもまなちゃんに付けてもらいたいの」

「まなちゃんに付けてもらえば、いつも一緒にいる感じがしますので」


「そんなことを言われたら、断れませんね」

「後悔しないで下さいよ」

「一番最初は、やっぱり、いちのみやでしょう」


「い、いちのみやですか」

「いいです、めちゃめちゃいい名前です」


「ついでに、神社は友愛神社という名前にしましょう」

「わたしもあいちゃんも、名前の漢字は愛、その二人が親友だから」


「いいです、素敵です」


わたしは気を利かせて二人にしてくれている、キキちゃんとクーちゃんを呼んだ。


キキちゃんも、あいちゃんに抱きつきスカートに涙と鼻水を大量に付けていました。

スカートがびしょびしょになり、お漏らしをしたみたいになっています。

二人ともとても楽しそうです。

あいちゃんがキキちゃんの相手をしてくれている間に、わたしは神社を造りましょう。


神社は、思い出の学校の隣にある神社のままに、それを得意な石造りで再現しました。

鳥居と、お社、参道と石垣を作りました。

友愛神社の完成です。

でも、こういうの勝手に造ってよかったのでしょうか。

まあ、日本じゃないし、良いでしょう。


キキちゃんと幸せそうにしているあいちゃんを見ているとさっきのことを思い出しました。

あいちゃんは幸せですかという問いに、間髪入れずに幸せと答えていました。

これはすごいことだと思います。


わたしは、幸せですかと聞かれたら、きっと考え込みます。

幸せじゃ無いことが多すぎるからです。

いつか、あいちゃんのように間髪入れず笑顔で幸せですと答えられる様になりたいと思います。


この後、ホイさんとセイさん、ミドムラサキさんも参加して神社の石垣に座り、楽しくお話をしました。

気が付いたら、まわりが明るくなっていました。

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