最近、友達が手相占いをしてくる……
のほほんと読んでってくださいな。
***晴山湊***
「晴山君、手出して」
「え、また?」
「いいからいいから」
同じクラスの友達である雪嶋栞が透き通るような綺麗な声で、楽しそうな笑みを浮かべながら言ってくる。
ここ2週間ほど雪嶋にこのようなことを言われることが多い。手を出してとか手を見せてとか言われるのも今週……今日が木曜日だからこの4日間で3回目。手を出すと手を触って手相を見たり、手を合わせて「わー、やっぱり手大きいー」と言ってきたりと、やられて困ることばかりしてくる。そのほかにもやたらと距離が近くて、嫌ではないのだがドキドキしてしまう。
「今日も手相?」
「うん!今日はこれ!結婚線!」
「ええ……」
よりにもよって結婚線……。というかこういうのって一回でまとめて見ない?前回は金星帯?だっけ、前々回は運命線、そしてその前は生命線ともう4回も手相見られてるんだけど……。
「えーっと……これは……条件のいい人が現れる相だね!」
「へえ……」
俺の手を触りながら小指側にあるしわを爪の先で撫でてくる。いや、ほんと恥ずかしい。今は2限と3限の間の休み時間なので周りには当然クラスメイトがたくさんいるのだ。
「見て見て、私も一緒」
「そうなん?……ほんとだ。まっすぐ一本」
「ねー」
なんだ「ねー」って。かわいいな。
「よっす、何してるの?」
「また手相?」
「あー、うん。結婚線見てくれた」
「ユキ……それはまた大胆というか飛躍しているというか……」
やってきたのは友達の雨宮斗真と南雲奈緒。斗真とは小学5年生の時から仲が良くもう6年以上の付き合いだ。あと、雪嶋は中学からの知り合いではあったのだが仲良くなったのは高校生から。同じ中学だということで話すようになった感じ。南雲は同じ中学ではないけれど、まあ雪嶋と一緒に仲良くなった感じで、4人でよく一緒にいるメンバーだ。
「ナナも見てみようよ」
「えー、手相あんまり好きじゃないんだって……。生命線短いから」
「結婚線はいいかもしれないじゃん」
なんか突然イチャイチャし始めたな……。女子二人でなんか手相の見る見ないでわちゃわちゃしてる。
「いやあ、なんかほっこりするよね。湊」
「そうだなあ」
湊というのは俺の名前。晴山湊。あと、雪嶋と南雲はお互いにユキ、ナナと呼び合っている。ユキはまあわかるのだが、ナナというのは苗字と名前の一番最初からとっているらしい。「なな」という名前の人もいるから紛らわしいと思うのだけど……。
「斗真は見てもらわないのか?」
「僕はいいんだよ」
「は?」
僕はいい?どういうこと?というか雪嶋が手相見てるとき、いつも少ししてからやってくるけどなにやってんだろ。……どっかで見てるとかじゃないだろうな。
それよりも気にするべきは雪嶋の方か。男子を勘違いさせる系の女子みたいなスキンシップをするようになったのは大体2週間前から。うーん……。何かあったかと思い返してみても特に思い浮かばない。うーん……そういえばその頃やけに元気がなかったような気はするけど……――
***南雲奈緒***
いやあ、結婚線とはまた重いというか思い切ったというか。まあ、私は手相信じてないけど。信じたら早く死んじゃうし。
そんなことを思いながら湊君に聞こえないようにユキに聞いてみる。
「結婚線を見てるのは、結婚したいくらい好きですっていう意思表示?」
「えっ、いや、別にそういうわけじゃなくて……手相のレパートリーが少なくなってきただけで……」
「それなくても、そろそろ手相限界でしょ。湊君にも『また?』って言われてたじゃん」
「そうだけど……」
どうしよう、どうしようと言っているユキを見ていると恋する乙女なんだけど、こんなにも悩んでいる理由の大半が自分の欲からきているものだと思うと少し笑えてくる。いやまあ、2週間くらい前に後押し?したのは私なんだけど。
~~~
「最近どうしたの?なんかずっと元気ないけど」
私とユキは学校の最寄り駅近くのファミレスに来ていた。
「え、いや、そんなことないよ⁈」
「ほんとにない人はそんな反応しない」
「うぅ~」
うぅ~、って……相変わらず反応がかわいい。今の湊君が見てたらイチコロでしょ。
「かわいい」
「へ?」
これもかわいい。……じゃなかった。
「で、何かあったの?」
「いやー、そのぉー……」
随分と言い淀んでいるのを見ると心配になってくる。
「え、そんなに言いにくいことがあったの?大丈夫?」
「あ、いや、そうじゃなくて……。言えないようなことではあるけど、そんなに深刻じゃなくて……」
「ほんとに?」
「うん。だからそんなに心配しないで」
「でも、明らかに元気ないし心配もするよ。湊君も斗真君も心配してると思うよ?」
「うぅ……」
「絶対言えないなら仕方ないけど、出来れば頼ってほしいな。友達なんだし」
「……」
今まで1年くらい仲良くしてきて、いろんなことを相談しあってきたと思う。(言われる前からバレバレだったけど)湊君のことが好きだという相談もされたくらいなのに、ここまで言い淀むことっていったい何だろう。まあ私も彼氏とか居たことないし、その時は全然いいアドバイスはできなかったけど。それに何か案を出しても恥ずかしがって全然実行に移さないし。
「あの……その……」
少しの沈黙の後ユキが口を開く。
「ナナ……、笑わないでね?」
「うん」
「その……、よっ」
「よ?」
「欲求不満……みたいな……」
「はぇ?」
予想外過ぎて変な声出た。よ、欲求不満?欲求不満かぁ……。え?欲求不満?
「えっと……。どういうこと?」
「そのぉ……み、晴山君に……」
「うん」
「触りたいなぁ……なんて……」
「……」
やばい……なんかユキが変態みたいなこと言ってる。え、私こんな時なんて言えばいいのかわからない。「触ればいいと思うよ」とか?いや、それは絶対違う。変態行為の後押しをしちゃだめだ。ていうか触りたいって何?撫でまわしたいとかそういうこと?いつからユキはそんな変態に……
「そ、そんな変態を見るような目で見ないでよぉ!」
「いや、ユキ……急に触りたいなんて言われたらこんな反応にもなるよ……。何?触りたいって。湊君のこと撫でまわしたりとかしたいの?」
「違うよ!そんなの完全にやばい人じゃん!」
「じゃあ、どういうこと?」
「その、手とか触りたいなぁ……なーんて……」
う、うーん……。いや、好きな人に触れたいと思うのは自然なことなのかもしれないけども……。
「……それであんなに元気なかったの?」
「はい……」
ここ数日上の空でどうしたのかと思っていたら、そんなことを考えていたなんて……。
「結構心配してたのに……」
「えっと……ごめんなさい?」
「いや、聞いたのは私だからいいんだけど、ちょっとびっくりした……。……で、何で急にそんなことに?」
今まで1年くらい仲良くしてきたわけだけど、知り合った時からユキは湊君のことが好きなようだった。中学が一緒だったと言ってたから、中学の時から好きだったんだと思う。それなのになんで急に欲求不満になんて……。ここ数日の記憶を掘り返しても特に心当たりがないんだけど……。
「マッチ棒で……」
「マッチ棒?」
「あ、ナナは割り箸って呼んでたっけ」
「あー、あの指遊びね。この前斗真君が『湊はマッチ棒めっちゃ強かったよな』とかいって湊君と斗真君でやって見せてくれたやつ。」
「そうそう、結局雨宮君がびっくりするくらい弱かったやつ」
「ふふっ、なんでそこでそんなことするんだーってなったよね。変な手が多すぎて。あれがどうかしたの?」
「その、最後に私と、晴山君で勝負したんだけど」
「ああ、やってたね。負けてたっけ?それが?」
「あの遊びって……指で相手の手をチョンってするでしょ?……それで、こう、チョンっとするとわかるんだけど晴山君の手って結構がっしりしてるっていうか、指とかも私より太くて重量感があるっていうか……。それなのにすべすべしててなんか、ずっと触っていたい感触で……ああいうのが頼りがいのある手っていうのかな?逆に湊君が私にチョンってやるときは凄く優しくてなでるみたいに触ってきて……その、指だけじゃなくて、こう、手のひらでも撫でてほしいなぁなんて思っ――」
「ストップ!ストップ、ユキ!落ち着いて!」
怖い怖い怖い怖い。その時のことを思い出していたようで、遠い目をしながらまくしたてるように話すユキは滅茶苦茶怖かった。あの時、斗真君ほどじゃないけどユキも割り箸弱いなと思ったのだけど、指触って動揺してたのか……。あとこの子絶対心の中で晴山君じゃなくて湊君って呼んでる。友達なんだし普通に呼べばいいのに。
「あ……」
「お願いだからちょっと落ち着いて」
「あぅ……」
我に返ったようで、急に顔を赤くして縮こまっていく。これだけ見れば凄いかわいいんだけど……。さっきのを思い出すとなあ……。
「その……どうすればいいと思いますか……?」
引き続き恥ずかしそうにしながら聞いてくる。……。
「……触れば……いいと思うよ」
「触っていいのかな⁈」
「え」
「どうしたらいいかな?どうしたらこう、自然に触れるかな?できれば触れるだけじゃなくて、撫でてみたりしたいんだけど……」
え、ほんとにやるつもりなの?……ああ、これもう止まらなくなってるやつだ。なんか下手に触ればいいとか言っちゃったせいで、もう話がどうやって触るかにシフトしつつあるし。というかやっぱり撫でたりしたいんだ……。いつもは恥ずかしがって何もできないのに。
……いや、もう触りに行けばいいか。湊君もユキに触られて嫌ってことはないだろうし。
「うーん、そうだなあ……。手の大きさ比べしてみるとか?」
「……不自然じゃない?」
「やっぱり?うーん……」
「うーん……」
「あ、じゃあ、手相見てあげるとかなら自然なんじゃない?私は手相信じてないけど」
「それだ!」
~~~
そんな感じで今に至る。因みにユキが手相を見ている時、私は少し離れたところで見守っている。一回だけ、手相を調べるのを忘れたのか調べたのが頭から飛んでしまったのかわからないけど、ほんとに手の大きさ比べをしてたときは笑っちゃったなあ……。あと、斗真君も何かを察したようでユキが湊君に絡んでいる時は私と一緒に隣でニヤニヤしている。
「まあ、そろそろ違うことしなよ。定期的に手相見てくる人不信すぎるから」
「ど、どうしよう……」
欲求不満と言ってたのに欲を満たしたらまたそれが原因で欲が生まれるという無限ループにハマるユキを見てると、もうこれいくところまでいかないと止まらないんじゃないかと思う。
「告白したら?」
「うぅ……」
もう付き合ってイチャイチャすればいいと思う。湊君を見てると普通に脈ありなんじゃないかと思うし。最近は特に意識していると思う。まあ、どうするかはユキが決めることか……。
***晴山湊***
4人で少し話をした後、チャイムが鳴ってみんな自分の席に戻っていった。
3限の教科書やノートを出して左斜め前の教卓の方向を見る。目に入るのは俺と教卓の直線状にいる雪嶋の姿。そしてその雪嶋の手に触られていた手に意識を集中させる。いや、させようとしたわけではないのだが集中してしまう。柔らかくて、くすぐったいような心地良いような感触がまだ手に残っているような気がする。
中学の時の雪嶋は静かなおとなしい子という印象の子だった。高校生になり仲良くなって、思っていたよりも活発で、優しくて、ふとした時の反応がとてもかわいい子だということを知った。そんな印象が固まってもうすぐ1年経つだろうかというところでの雪嶋の変化。何を思ってのスキンシップなのだろう。もしかしたら俺のことが好きなのだろうか……なんて思ったりもしたのだが、そうでなかった時を考えると、なんていうか……悲しい?というか、何だろう。……ううーん。
結局思考はそこから進むことはなく、先生が教室に来て授業が始まった。授業の最初の方は意識が雪嶋に引っ張られて全然集中できなかった。
~~~
「ちょっと相談なんだけどさ」
「うん?珍しいね。なんかあったの?」
「あったのかって、予想つくだろ?」
昼休みになって俺と斗真は学食に来ている。俺は基本弁当なのだが、斗真は週2くらいで学食なのでその時は一緒に学食で食べている。
「何のこと?」
「……雪嶋のことだよ」
「ほー」
「いや、ほーじゃなくって」
「いやいや、僕には特にいつもと変わらないからね」
「てことは俺には変なの気づいてるじゃんか」
「いやまあ、変っちゃ変だけど僕から見ればあんまり変わってない気もするよ?」
「はあ?」
あんまり変わってない?……絶対そんなことないだろ。
「それで、相談って?」
「いや、どうすればいいのかなって」
「?……どうすれば?」
「そう」
「嫌なの?」
「いやっ、嫌ってわけじゃ……」
嫌なのかと聞かれたことで、手の感触と雪嶋の楽しそうな笑顔が頭の中によみがえってくる。突然顔が熱くなるのを感じる。
少し固まった後、はっとして顔を上げると斗真のにやけ顔が目に入った。
「……」
「……」
「……なんだよ」
「いやいや、別に何でもないよ」
絶対そんなことないだろ。何でもないやつはそんなニヤニヤしないわ。
「まあ、どうすればいいのかは湊が決めればいいんじゃない?」
「いや、わからないから相談してんだけど」
「僕もわからないし」
「……じゃあ、なんであんなことしてくるんだと思う?」
「え、それ本気で言ってるの?」
「いや、予想はしているというか、希望的観測というか……」
「へえ、希望的観測ねえ……」
「あ、いや」
「まあ、そんなに難しく考える必要はないと思うよ、僕は」
「うーん……」
「うむうむ、悩むがよいぞ、若人よ」
「若人が若人に若人って言うな若人」
そんなこんなで昼食を食べ終わり、教室に戻った。
まあ、もう1週間後には試験があるので、これからはみんな勉強モードになっていくだろう。俺も試験に集中しないとなあ。
~~~
試験が終わり大体の教科がテスト返却を終えたころ、また雪嶋の様子がおかしくなっている。試験前に結婚線を見てくれた後、雪嶋が手相を見てくることはなくなった。それは……まあ、いいのだけど、今度はなぜかずっと上の空なのだ。……ここ最近、ずっと雪嶋のことを考えてる気がするな……
因みに4人で教えあったりしていたので、みんな試験の結果はまあまあ良かった。
***南雲奈緒***
「あの、ナナ……」
「うん?なぁに?」
湊君と斗真君が学食に行って私とユキの二人で弁当を食べようとしていると、どこか上の空だったユキが話しかけてくる。……この上の空で何か考え事をしている感じは覚えがある。だからこそあまり干渉しないでいたのだが、今回はユキの方から声をかけてきた。
「ちょっと相談があるんだけど、良いかな?」
「……いいよー」
そうしてやってきたのは物理科教室。休み時間は基本人がいなくて飲食が禁止されていない為、こういう時にちょうどいい場所だ。
「で、何かあったの?また、例の指遊びでもしたの?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
「……似たようなことなの?」
「……はい」
……まあ、最近のユキの様子からなんとなく察してはいたけど。また、湊君の手を撫でたいとか言い出すのだろうか。
「う、腕を……触りたいです」
「……」
前回よりも更に変態度合いが上がったユキにジト目を送る。
「だ、だって!」
「だって?」
はい?いきなり言い訳から入ってくるらしい。いや、腕さわりたい件についての言い訳って何?正当化できるものなの?
「凄い見せつけてくるんだもん!」
「???」
「衣替えの後から、凄い腕見せてくるんだよ……。晴山君って着やせするタイプじゃない?それが急に半袖になって凄い見えるようになったんだよ!」
「……」
ああ、もう、なんか悲しくなってきた。いつの間にユキがこんなんに……。もうこれどうするの。晴山君、責任とりなさいよ!
……なんて晴山君にとっては理不尽であろうこと考えているとユキがおずおすまと口を開いた。
「どうすればいいでしょうか……」
「いや、どうもこうもないでしょ。無理よ無理。そんな腕さわりたいとか撫でまわしたいとか頬ずりしたいとか」
「そこまで言ってない!」
「それがしたいならもう告白しなさいよ」
「いや、でも、それで断られて気まずくなるのは嫌だし……」
「うーん……断られるかなあ?」
「わかんないけど……怖いんだもん。せっかく高校入って仲良くなれたのに」
「ちなみにいつから好きなの?」
「えっと……ちゅ、中学……い、2年生からかな」
「え、いま1って言いかけたよね⁉もう4年くらい片思いしてんの⁉」
「あ、あの時はまだ好きっていうか気になってたというか……好きになったのは中2からだから!」
「十分長いわい!もう早く告白しなよ!というか多分湊君もあんたのこと好きだから!多分大丈夫だから!」
「でも」
「でもじゃないよ!このままだと誰かに湊君取られちゃうかもよ⁈」
「そ、それは……やだ……」
「じゃあ、告白する!」
「はい!」
~~~
そんな感じのお話をしたのが確か2週間くらい前。
「まだ?」
「うっ」
「もー、いい加減覚悟決めなさいよ」
こんな感じの話をするのももう3回目。時折ユキが湊君の腕を凝視してるのをみるとユキの触りたい欲も爆発しそうになってるみたいだし、そろそろ覚悟が決まるかなあ。
――ピロンッ
……うん?
「ユキ?」
「うん。……あっ、晴山君だ」
「お、何々?呼び出された?告白されるの?」
なーんて。
「放課後呼ばれた……」
え?ほんとに?
「な、ななな、なんだろう⁈二人で話がしたいって、はじめて言われたんだけど!どうすればいいの⁈」
「どうもこうも行くしかないでしょ。いってらっしゃい。放課後?頑張ってね」
「なんか雑じゃない⁈」
「だって、行くしかないでしょ?」
「そうだけど!……え、何だろう、なんで呼び出されるんだろう?」
「……告白じゃないの?」
「希望的観測過ぎるよ!」
「そう?」
割とあると思うけど。特に最近更に意識している感じがするし。ていうか絶対両想いだと思うし、多分。
そんな感じでユキがアワアワしていると、チャイムが鳴った。まあ、頑張れ!ユキ!
***
「ああ……送ってしまった……」
テストが終わった後、色々と考えた。雪嶋は俺にとって友達だった。友達として好きだった。いや、かわいいなと思うことはあったから、今の関係が心地よかったからそれ以上考えないようにしていたのかもしれないな……。そう思えるほどに、意識し始めてからは雪嶋に心惹かれるようになってしまった。
以前の手相占いの件もそうだし、それ以外にも記憶を掘り返すと雪嶋の行動は好意を持ってくれているんじゃないかと思うことが多い。そうでなくても、俺は雪嶋が好きで付き合いたいと思った。のだが……め、めっちゃ緊張する!やばい。覚悟を決めてメッセージを送ったのになんかもう後悔しつつある。あーあー、どうしよ。
~~~
放課後、約束の場所に俺は早めに来てバクバクする心臓を何とか鎮めようとしていた。そこに、聞きなれた透き通った声が響く。
「晴山君」
「あ、雪嶋。ごめん。急に呼び出して」
「ううん。大丈夫だよ」
「それで、話なんだけど……雪嶋」
「は、はい!」
名前を呼ぶとすごく元気な返事をもらった。それに少し驚いて、その驚きと告白することに対する緊張を和らげるために深呼吸をする。一泊置いて……
「「好きです!」」
「……え???」
「あっ」
ええ??
***雪嶋栞***
あわわわわ、やっちゃった‼ど、どど、どうしよう⁈私の返事でなんか変な空気になっちゃったと思って、つい言っちゃった!……あれ?でも今……。
「えーっと……」
「ごめん!今の無し!ほんとごめん!」
「ふふっ……うん。じゃあ、仕切り直そう。……雪嶋、好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
「うん!嬉しい!よろしくお願いします、湊君!」
付き合ってくれませんかという言葉とともに出された手を勢いよく手に取り、喜びの感情を爆発させながら言う。そうすると、湊君は嬉しそうに笑いながら、詰まっていた息を吐くようにして口を開いた。
「はあ……よかったぁ。めっちゃ緊張した……。……って、あれ、どうしたの……?」
え?……あれ?
なんのことかと思ったら、目から涙がこぼれていた。
「あ、えへへ……ごめん、嬉しくて、つい」
そうかあ……。3年半も好きだった人と恋人になれたんだあ……。ふふっ、これからが楽しみだなあ。
そのあと、私達は手を繋いで駅まで一緒に帰った。……ふへへ。
***南雲奈緒***
昨日、ユキから付き合うことになりました!という報告がきた。うん。よかったね。で、その2人はまだ登校してきてない。待ち合わせでもして一緒に登校してくるのかな?
――ガラッ
お、湊君とユキだ……ってあれっ?……ユキ、あんたなんて顔してんの……。湊君もちょっと困惑気味じゃん……。嬉しそうでもあるけど。
ユキは湊君の隣を歩いては……いるのだけど、2人の距離は最大限近づいたものだった。まあ、腕を組む形で歩いていた。ユキのその顔はまさに幸せ!って感じのとろけたもので……あれ絶対腕触って興奮してるよね……?
……まあ、めでたしめでたし、かな?