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SEASONS-9

 翌日、千春は、学校に着くと相変わらずみんなに揉みくちゃにされながら挨拶を受け、ようやく自分の席に辿り着いた。深沢はもうちゃんと席について、ひとり静かに本を読んでいた。

「おはよ」

千春の声に気づいて深沢は顔を上げた。

「おはよう」

小さく応えてくれた。昨日溝口先生に頼まれたこともあったので、何か話し掛けようかとも思ったが、それも不自然なように思えたので、にかっと笑って席に着いた。

 一時間目の社会科から昨日のテストが返却された。青くなる者、にんまりと笑みを浮かべる者、様々な思いが錯綜する中、千春も答案用紙を手渡された。いつもよりいい点の答案用紙は、このテストが易しい問題だということがわかっていても嬉しかった。ニコニコしながら席に戻ると、深沢も戻ってきた。

「どうだった?」と訊くと、深沢は答案用紙を胸に抱くようにして隠した。悪いこと訊いたかなと思い、

「あたし、こんなの」と答案用紙を見せた。深沢はそれを見るともなく、そっと答案用紙を差し出した。興味に駆られて覗き込んだ千春は、驚くとともに自分の点が恥ずかしくなった。

「すっごぉい。いいなぁ」

「…そんな」

「なんか…嬉しくなくなっちゃったぁ」

ぼそっと言うと深沢が慌てて、

「そんな、こんなの別にいいこともないのよ」

「…だって、あたし、社会が一番得意なのに…」

「…でも」

「いいな…」

慌てて取り繕おうとする深沢を気にするでもなく、ひろ子が千春の答案用紙を覗き込んだ。

「なによ、チャウ、あたしよりいい点じゃない!」

「ホント?」

ひろ子の声に促されるように恵美が覗き込んだ。

「やるわね、生意気よ、あんた」

「ひろこひろこ、ちょっとヤンキー入ってる」

 わめきたてるひろ子たちを鎮めるために、池田先生が怒鳴った。一瞬で、ひろ子はおとなしく席に着き、千春も座った。静まった頃合いを見定めると、先生は順番に解説を始めた。

「いいか、ここは、毎年どこかの高校で出題されている問題で……」

自分の解答を見ながら、千春は考えていた。

 そうなんだ。あたしよりいい点取ってる人なんてたくさんいるんだ。そんなの、当たり前のことなのに、深沢さんに悪いことした、かな。

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