SEASONS-8
埃臭い資料室に緊張したまま入り、指示されるままにプロジェクターを片づけ、部屋を出た。溝口先生は礼を言いながら、眼鏡の奥の細い目を一層細くした。
「ごめんね。遅くなっちゃたね」
「ううん。いいんです。あたし、寝てたから」
「昨日も遅くまで起きてたの?」
「…ちょっと」
「最近頑張ってるわね。成績もどんどんよくなってきたわ」
「あたし、大丈夫ですか?」
「受験?」
「うん」
「大丈夫、って言うと油断するといけないから、言えないけど、いまの調子なら心配ないわね」
「旭学園でも?」
「このままの調子ならね」
「よかったぁ」
「あ、それとね、広瀬さん」
「はい?」
「深沢さんのことなんだけど…」
「…はい?」
「最近よく話してるのね」
「ぅん。隣の席になってから…」
「よかったわ。彼女、あんまり誰とも話さないから」
「…そうなんですか?」
「……うん。本当のことを言うとね、彼女、一年遅れてるの」
「はい?」
「小学校の時に体を悪くしてね、一年近く入院して、休学しててね、それであなたたちより、一歳上なの」
「そうなんですか…」
「それでね、何となく他の人と話さなくて、体もあんまり良くないから、休みがちだから、よけいに、独りぼっちでね、わたしも気にしてるんだけど、先生の立場って結局あなたたちのいる空間とは別なのよね。だけど…仲良くしてあげてって言うのも、彼女を特別扱いしてるみたいで、言えないし」
「…ん」
「もうすぐ、受験だしね、彼女も話し相手がいるほうが、辛さも癒えるでしょうから、ね、仲良くしてあげてね」
「はい」
「それとね、このことはみんなには内緒にしておいてね」
「…はい?」
「特別扱いは、彼女にとって、辛いものなのよ」
「ぅん…」