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SEASONS-3

 ようやくひろ子の手を振りほどいて、千春は逃げ出した。ひろ子は、やっとあったまった、と言いながらコートを脱いだ。千春も帽子を取って手で髪を梳かして整えていると、愛子があきれたように、ブラシを貸してくれた。

「あ、ありがとう」

「そのくらい、持ってないの?」

「だって、校則でだめだって」

「いいのよ、これくらいなら、先生も文句言わないわよ。だいたい、女の子がそんな髪でどうするのよ。寝ぐせみたいよ」

「ん、とれてない?」

「え?」

「寝ぐせがひどかったから、毛糸の帽子でぐぅぃって押さえてきたんだけど、だめかな?」

「あきれた子ねぇ。寝ぐせ取るために帽子かぶってきたの?」

「だめ?」

「だめ、どころか、寝ぐせに静電気で、大爆発じゃない」

「ラブちゃん。この子に何言ったってムダよ。ガキなんだから」

愛子は恵美と顔を見合わせながら頷いて納得した。千春は一向にお構いなしに、ブラシで押さえつけ、手に唾をつけながら髪を撫でつけた。愛子と智子はあきれた顔で何も言えずに千春を見ていた。


 本鈴が鳴って、教室は慌ただしくなった。千春がブラシを愛子に返した時、つい、隣の席の深沢智美の筆入れを落とした。

「あ、ごめんなさい」

慌てて取ろうとした千春と深沢の手が一緒に筆入れに伸びて触れた。驚いたように深沢の手が引っ込んで、千春が筆入れを拾った。

「ごめんね、深沢さん」

「い、いえ。ありがとう、広瀬さん」

小さな声だったが礼を言われたことに、少し違和感を感じたものの、先生が入ってきたので慌てて前を向いて座った。

 1時間目が嫌いな理科だったせいかもしれない。暖房がきいてきたせいかもしれない。千春はいつの間にかうとうととしていた。静かな揺れが、一層眠りを誘ってきた。遠くで誰かが話している声が、安心感を与えてくれ、そしていまが授業中だという緊張感が意識のどこかに残っている感覚が、眠りをまどろみの状態に留め、陶酔の世界に漂わせてくれていた。

 と、かすかに名前を呼ぶ声がして、意識がうつつに戻ってきた瞬間、千春の見たものは、間違いなく授業中の光景だった。

「広瀬さん、起きなさい」

はっと思わず立ち上がり、手の甲で目をこする千春に、険しかった山近先生の顔に笑いが浮かび、千春は笑いの渦に包まれていた。照れ笑いをしながら、頭を掻く千春に、山近先生も怒る気を失い、「ちゃんと、起きてなきゃかんよ」と言い、千春を座らせた。千春は、すっと座り、少し間をおいてから、あたりを見回した。まだ千春を見てくすくす笑っている子と目が合って一層恥ずかしくなった。斜め前に座っている愛子の背中もまだ揺れている。ふと、隣の深沢を見ると、やっぱり笑っていた。眼鏡の奥の瞳が、糸のように細くなっているのに気づいて、千春はただただ身を縮めるだけだった。


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