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SEASONS-最終話

 千春は次の言葉を探した、自分の名に続けられた言葉を。しかし、その後のどこにも千春の名前は見当たらなかった。たった、ひと言だけだった。その一文だけが、深沢の、つぶやきのように記されていた。


 意味が飲み込めないまま嗚咽が漏れてきた。どうして、どうして、どうして、あたしが。












         * * *


 震える指で新しく買ってもらったばかりのスマホの中に自宅の番号を見つけた。早くしなさいよとせかすひろ子に,ちょっと待ってと言いながら画面を押すと数回のコールで母親が出た。

「もしもし、千春です…。おかあさん?……どうだった?」

「受かったわよ」

「ほんと?」

「ちゃんと、速達で届いたわよ。おめでとう」

 千春の表情を見て取ったひろ子が、頭をくしゃくしゃに撫で回しながらおめでとうと言ってくれた。愛子も恵美も電話に遠慮しながら祝福の言葉を掛けてくれた。

「うんうん、ちゃんと、先生に言ってくるから」

 電話を切るとみんなから歓迎の嵐で揉みくちゃにされた。

「よかったね、チャウ」

「これで、また3年間一緒ね」

「ん。一緒のクラスならいいのにね」

「あぁ、あたしも私学専願にしたらよかったな。そしたら、もう勉強しなくてもいいのに」

「へへん。羨ましいでしょぉ」

「なにさ」

ぎゃんぎゃん騒ぎ立てる輪からそっと外れて、千春は、職員室に向かった。


 琥珀色の日差しの差し込む渡り廊下を歩いて行くと、さっと、一瞬、風が舞い、校庭から土ほこりがつむじを巻いて横切った。ちっちゃなちっちゃな雲母の妖精が、千春の合格を喜んでくれている。しばらく見とれてはっと我に返り、誰かがいる気配を感じ振り返ると、そこには誰もいなかった。ただ、小さなつむじが踊って、消えた。


 「おい、何やってんの」

追いついてきたひろ子に頭をつつかれて、ぼんやりとしていたことに気づいた。

「いつの間にかいなくなったと思ったら、こんなとこでぼんやりしてるんだから」

「ぁ、ん。先生のとこへ行こうと思ったんだけど…」

「さぁさぁ、もう、行こう。早く報告しなきゃ」

愛子に促され、ひろ子に引かれて、千春はそこを歩き出した。千春は、まだ、小さく舞っては、また休む琥珀色の妖精に目を取られていた。


 いつもより浮かれた愛子の声とひろ子のかん高い声が校舎に響き渡り、ようやく自分を取り戻した千春は、みんなに遅れまいと駆け足になりながら、早く、早く、報告に行こうと決心していた。



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