SEASONS-13
母親が様子を見にきたときには、いつもの朝のように目覚めることができた。心配そうな母親の顔を見ると、自分だけが落ち込んでもいられないと思いながら、にかっと笑ってみせた。それを見て安心した母親の顔は、自分にも安心感を生み出してくれた。
「先生が来てるわよ」
「えっ?いま何時?」
「もう5時半よ」
朝かと思っていた千春は拍子抜けした気分で起き上がった。脱ぎ散らかしっぱなしの服から適当に見繕ってもそもそと着込み、部屋を出ようとしてあわてて鏡を覗き込んで髪を整えた。
とんとんと階段を降りてリビングに入ると、溝口先生ともう一人、知らない女性がソファに座っていた。慌てて姿勢を正し、挨拶をすると、溝口先生が、
「体調はどう?」と訊いてきた。ずる休みなのにと思い、恥じ入りながら、
「もう、大丈夫です」と答えた。
そう、と言うと、先生は一呼吸入れた後、同伴の女性を紹介した。
「こちらは、深沢さんのお母さんよ」
千春は恐縮したままソファに座った。先生に改めて紹介されると、静かに深沢の母は口を開いた。
「昨日は寒いなか、皆さまに来ていただいて本当に感謝しております」
昨日会ったはずだったが、全く記憶になかった。恥ずかしいような気持ちのまま、深沢の母の方を見ていた。
「実は、智美の日記の中に、広瀬さんのことが書いてあったので、一度お会いしたいと思って、先生にお願いして連れてきていただきました」
そう言いながらハンドバッグから丁寧にノートを差し出した。ピンクのカバーの小さな日記帳だった。目で確認を取り、ゆっくりと手を伸ばした。そっと手に載せてみると、羅紗地の生地が手に馴染む。貴重品を扱うようにゆっくりとページを繰ると、深沢の性格を表すかのように端正な文字が整然と綴られていた。神聖な経文を目にしたようで、千春はその場で読むことができなかった。顔を上げると、暖かな目で見つめられていることに気づいた。
「智美は…」深沢の母親は、身を崩すこともなく淡々と話し出した。




