出立準備の買い物
「あの、ご主人様。お風呂上がりました」
「ああ、ってまた髪濡れっぱなしだし」
「すみません」
と言ったメディは体に巻いていたタオルをタクトに渡す。
「ちょ、何やってるんだ!?」
「今日は拭いてくれないんですか?」
「いや、そうじゃなくて……もういいや、拭くぞ」
「はい」
メディはタオルを持ってタクトの前に背を向けてちょこんと座る。まだまだ彼女はガリガリで骨が肌の上から露骨に見えるが出会った頃よりは少し肉付きは良くなったか?彼女のステータスを見てみる。
Lv 3
名前 メディ
年齢 13歳
性別 女
種族 人
職業 奴隷
ランク G
スキル
魔法速習(固有)【 L v 1 】
特徴
虚弱体質
状態
衰弱(小)
衰弱(大)だった頃に比べれば大分自由に動けるようになったみたいだけど体力的にまだ旅に出るのは早いかな。
彼女の髪の毛をゆっくり丁寧に解かしていく。世話の焼ける娘ができたような気分だったが不思議と悪い気はしない。最初の頃はボサボサだったが、ちゃんと手入れをすれば良い髪だな。
「今日はちゃんとリンスつけたな」
「はい」
「ツヤツヤで良い髪質だ」
「いえ、そんなことは……」
「ハハハ、そういうのはありがとうでいいんだよ」
「ありがとうございます」
「うん、ちゃんと食べれば絶対可愛くなるな」
「……」
沈黙が流れたが彼女は嬉しそうな顔をしていた。数日はにこりともしなかったのでこっちも少し嬉しくなる。
「これで良し、さて、今日も留守番してるか?」
「今日は一緒に行きます」
「体調はどうだ?」
「1週間程休ませていただいて大分良くなりました」
「じゃあ一緒に買い物に行こうか」
「はい」
「今日はメディの装備を買いに行こうと思う」
「私はこの服でも十分ですよ」
「服は服でも戦闘服を買いに行こうと思う。旅に出るなら戦闘になることもあるだろうし」
「私も戦うんですか?」
「そうだな。自分の身くらいは守ってもらわないと」
「……」
「そんな心配そうな顔するな。死ぬことはないようにきちんと守ってやるよ」
そう言って頭を撫でると少し安心した表情になった。
*ーーーー*
ーーカランカラン
「へい!いらっしゃい!」
初めてくる防具屋だがオーダーメイドで防具を作ってくれるという。タクトも防具はFランクの時のままだし、武器は持たずに素手で戦ってきたのでそろそろ新しい装備が欲しかった。
「2人にぴったりの装備を見繕ってくれないか?」
「へい、かしこまり!じゃあちょっとお2人とも採寸させてもらいますぜ」
アウトローくさい格好をした室内なのにサングラスをかけたおっちゃんはタクトとメディの体周りを測っていく。
「名前はなんていうんだ?」
「メディです……」
さっとタクトの後ろに隠れてしまう。
「ハハハ、嫌われてしまったか。しかしこの子の胴回りは小さいな〜。お兄ちゃんはちゃんと食べさせてるか?まあ俺が口出しすることじゃねえんだけどよ」
「この前まで奴隷売り場にいたときは今より衰弱してたよ。これでも少しはマシになった方だ」
「なるほど、訳ありかい。しっかり食べさせて元気にしてやれよ。それはともかくどんな感じの装備がいいんだ?」
「外見はなんでもいい。強度がある奴なら」
「予算は?」
「2人合わせて100万だ」
「結構いい金額だな。それならまあまあいい装備を揃えられそうだ。Fランクの装備してるのに」
「これでもSランクなんでね」
「Sランク!?そんな装備で良くやるな〜。俺も冒険者やってた頃あったけど軽装じゃ怖くてクエストにはいけんかったぞ。しかしSランクとは、人は見かけによらないものだな〜」
おっちゃんも絶対冒険者でクエストこなすよりカツアゲしてるほうが似合ってると思うぞ。人は見かけによらないもんだな〜。
おっちゃんは鎧を指差しながら聞く。
「重い、例えばこんな帝国の重戦士が着るようなやつがいいか、軽い、例えばこんな冒険者が好むような毛皮みたいなやつとか。100万もあるなら魔法装にすることもできるぞ。魔力の力で各耐性や攻撃のダメージをカットできる」
「魔法装って軽いのか?」
「ああ、それは物によるな。魔法装は材質より衣服に込められた魔力で防御するから効果が良い割には軽いぞ」
「じゃあ2人とも魔法装で。俺も一応魔術師だし2人とも軽い格好で」
「へい、じゃあちょっくら物を取ってくるからお待ち」
おっちゃんは奥の方へ行って何やらゴソゴソしている。メディは……というと装備品を手に取って眺めていた。
「かわいいとんがり帽子だな」
「はい。街中でも魔法使いのお姉さんがこんな帽子を被ってるのを見かけますよね」
「そうだな。メディは魔法使おうと思わないのか?せっかく固有スキル『魔法速習』があるんだし。確かAランクスキルだったよな」
「私は奴隷で給仕ばかりやっていて学ぶ暇はありませんでしたし、あっても魔導書を買うお金がないので」
「そうか。じゃあこれから魔法を学んでみないか?」
「はい。私は虚弱体質ですが魔法なら少しは活躍できると思います」
「ちょっとその帽子被ってみてよ」
メディは帽子を被る。少し大きすぎたようでメディの鼻まですっぽり入ってしまう。メディは抜け出せなくてあたふたしている。
「はい」
「ぷはっ、死ぬかと思いました」
「大袈裟な。でもサイズが合えばきっと似合うと思うぞ」
「サンプル品を取ってきましたぜ」
おっちゃんは衣装を持ってきた。黒ベースのシックなコートといかにも魔法使いの着そうな服だ。
「2つ持って来やしたが魔法装用の素材は使ってないんであしからず。試着して気にいるようなら素材変えて作りますぜ。お嬢ちゃん、その帽子が気に入ってるんならそっちにするか?」
「はい……」
そう言ってまたタクトの後ろに隠れる。
「ハハハ、そんなに俺って怖いかね〜」
「外見がね。子供さらっちゃうような悪い格好してるから」
「し、失礼な!これはちょいワルおじさんって言って最近流行のファッションなんだぞ!」
「そうかい、でも知らない人には極悪おじさんに見える」
「そ、そうか〜?そ、そんなことはないはずだが…」
「ぷっ」
そんなやりとりを見てメディが軽く吹き出して微笑む。
「変なおじさん」
「な、お嬢ちゃんまで!世の中には言って良いことと悪いことがあって、悪いことばっか言ってるとおじさんみたいな人にさらわれるかもしれないんだぞ!ったく、というか今日は2人の装備品を見にきたんだから」
「ああ、そうだったな。じゃあ試着してみようか。メディも」
「はい!」
タクトたちは着替えた。
俺が先に着替え終わり、先に出てメディを待ちつつ鏡で自分の姿を確認する。
「似合ってますぜ。細くてすらりとしてるからお兄さんはこういうのが合う。旅先できっとモテモテですぜ」
「だといいんだがな」
「おう、Sランクならあとは堂々としてりゃ強いし高収入だしモテモテよ!」
「ハハハ、サンキュ」
メディも出てくる。
「お、お待たせしました、ご主人様」
メディもいい感じの服装だがちょっとダボダボかな。でもサイズ合わせれば似合うと思った。簡素な服ばっか見ていたからこういう服を着てる姿を見ると改めて女の子だったんだな〜って思う。
「お嬢ちゃんも似合うねえ」
「ありがとうございます」
「ほら、ご主人様もかわいいお嬢ちゃんに何か一言言ったらどうだ?」
「まあ、似合ってるんじゃないか?」
「まあって……似合ってるんなら似合ってるとはっきり言ったらどうだ?なあ、お嬢ちゃん」
「ご主人様にそう言っていただけるならなんでもいいです」
「で、そのご主人様は言い直さなくていいのか」
「そうだな。メディ、かわいいよ。すごく似合ってると思う」
メディは髪で目が隠れる程度に俯いて少し赤面している。
「やれやれ、若いっていいねえ!じゃあこの2着のセットを……そうだな、一週間後くらいには完成すると思うからそん時に取りにきて欲しい。だから……来週の12日かな」
「ああ、じゃあその時に取りにいくよ。料金は今支払えばいいか?」
「いや、商品受け取る時でいいよ。いくらになるかわからんしな。あ、なんか証明できるもの、兄ちゃんなら冒険者カードを見せてもらえないか?情報を書き写させてほしい」
「ああ、じゃあこれを」
「本当にSランクなんだな〜。見かけによらなくてびっくり」
何度も言わなくていいよ。
「じゃあここにサインを」
タクトはサインを書く。
「はい、じゃあ毎度あり!では来週お待ちしております」
タクトたちは店を出る。後ろを振り返ると、最後はおっちゃんも礼儀正しくお辞儀をしていた。