奴隷と食事
「いらっしゃいませー!」
タクトは奴隷を買った後こっちにきてからよく行くレストランに入った。
「こちらがメニューになります。失礼いたします」
なんか顔をしかめていたな。俺なんかしたっけ?
「好きなの頼んでいいぞ」
「……」
反応がない。まあ自分もいじめられてたからわかるよ。あんまり人と話したくないんだよな。
「メディはご飯食べたい?」
コクコクとメディは静かに頷く。
「じゃあ好きなの選んで食べていいぞ」
「……」
返事がない。
「えっと、何にも答えないならお子様ランチにしちゃうぞ」
メディはまたコクコクと頷く。
「じゃあ俺は……日替わりランチでいいか。すみませーん」
「少々お待ちください」
少ししてから店員がテーブルのところまでくる。
「お待たせいたしました……ご注文をお伺いいたします」
店員は顔をしかめながら聞いた。なんだろう、いつもはそんな顔しないのに。
「俺は日替わりランチで。で彼女がお子様ランチで」
「かしこまりました」
店員は行ってしまった。頭に?が浮かぶ。俺、もしかして無意識のうちに無銭飲食やらかしてブラックリストにでも載った?
2人とも話さないので沈黙が流れる。すると隣のひそひそ話がよく聞こえてきた。
「ねえ、なんかちょっと匂うことない?」
「なんか向こうらへんが匂うのよね」
こっちに視線を感じた。もう鼻が慣れていたけどそう言えば奴隷の店のメディがいた場所はちょっと異臭がしたよな。料理中に悪臭はご法度だよな。
「メディ、風呂って最近入ってるか?」
「……」
口は聞いてくれないが首をふった。
「じゃあ後で入りに行こう」
少しすると料理が運ばれてきた。
「お待たせしました〜。あれ、タクトじゃん」
誰だ?と思って振り向くと学校時代の同級生の女子だった。1人でイジイジしてた頃を知ってる奴だ。や…やりにくい……
「久しぶr」
「なんか匂うんだけど」
「ごめん、これからは気をつr」
「あれ?ってかこの子誰?彼女…ではなさそうね」
テンポが速い。コミュ障殺しの陽キャだ。
「ああ。今日奴隷として買ったんだ」
「そうだったの。でも高いでしょ」
「まあ普通はそうだけど訳ありだからな」
「ふ〜ん、それで匂うわけね。ボッチだった貴方が重度の引きこもりにでもなったのかと思ったわ」
「どういう意味だよ、それ」
「ごめんなさいね、クスクス」
あ〜そう言えば俺もあの頃はリア充爆発しろとか思ってたな。そうだった、こいつ彼氏かなんかいたんだっけ?でそいつともめにもめて……あんときはリア充ザマァって思ったわ。
「ここで働いてたんだな」
「ええ、休日しか入ってないけど」
「てか髪の毛切ったんだな。学校の頃黒髪ストレートヒロインって感じだったのに」
「ええ、でも可愛いでしょ?」
「彼氏と別れた?」
「ち、違うわよ!最近ショートヘア流行ってるの知らないの?」
「あ〜、そうだったんだ」
そんなにファッションの流行とか知らねえからな。まああれは女が勝手に盛り上がるためのものだと思ってるし。
「また彼氏と揉めに揉めて心機一転するために髪切ったのかと思ったわ」
「ちょっと、どういう意味よ!」
「すまんな。クックック」
もう虐げられるだけの頃の俺とは違う。しかしくだらんことに張り合うようになってしまったなー。以前ならこんなことは無意味だと思っていたのに。
「と、とにかくその悪臭だけはなんとかしてよね!」
「それはすまん。しっかり風呂に入ってきます」
「ふん、ではごゆっくり」
メディは俺のやり取りをじっとみていた。
「ごめん、さあ、食べよう」
タクトは食べ始める。しかし彼女は一向に手をつける気配がない。
「なんだ?食べていいぞ」
「……」
じっとしている。
「お腹空いてない?」
(ふるふる)
「じゃあ何故食べない?」
「さ…」
ーーゴホッ、ゴホッ
何かを言いかけて咳き込む。メディが初めて何かを伝えようとしてくれている。無駄じゃなかったのかなと思った。
「大丈夫か?」
「最後の晩餐?」
「は?」
予想してない言葉が出てきてびっくりした。どういうことだ?
「ご、ごめんなさい」
「いや、怒っているわけではない」
「…あまりにも食事が豪華だったから」
「なんだ、そんなことか。遠慮せず食べていいぞ」
「はい、いただきます」
そういうとメディは食べ始めた。
ーーガツガツ、もぐもぐ
なんだ、食べるじゃん。やっぱりこき使われてた場所だったり鉄格子の中じゃ安心して食べれないよな。
「ご馳走様でした」
彼女は食べ切った。しかしあまり顔色が良くないようだ。
「大丈夫か?」
「だ、大丈ーー」
ーーゔぉええええぇぇ!
「ちょっ、大丈夫!?すみませーん!」
結局メディは全部吐いてしまった。