奴隷を買う
Lv 120
名前 レヴィン・タクト
年齢 22歳
性別 男
種族 人
職業 魔術師
ランク S
スキル
8倍増(固有) 【Lv3】
変身(固有)【Lv16】
(よし、まだ最強とは言えないが確実に最強に近づきつつある。しかし魔術師なのに魔法を覚えてないのは惜しいな。後で魔導書でも買おうかな)
あのレベルアップから1週間が経っていた。これほどに強くなるとはタクト自身以前は思ってもいなかった。今でも時々夢なんじゃないかと思うほどだ。
いじめられていた時の荒んだ心が少し癒えた気がした。
まだ今は周りのものが全て重さのない空箱のように見えているが、もしかしたらこの理由が旅をしているうちに分かるかもしれない。
少なくとも恐怖心はほとんどなくなった。
(よし、決めたぞ。俺は旅に出よう。しかし一人旅ってのもちょっと寂しいな)
そうは思ったものの、パーティを作るなら人を集めないといけない。しかし今は軽い人間不信になっている。人と関わって裏切られるのはもうたくさんだった。グラントホルダーのパーティ仲間の姿が脳裏にチラつく。
「くそ、あいつら……あんなの仲間じゃねえよ」
そうは言ったものの人の集め方など知らなかった。
そんなことを考えてると、不意に横から声がした。
「ではどんな仲間をお探しで?」
横から話しかけてきたでっぷりしたおじさんは、気づくと隣を歩いており怪しい笑みを浮かべていた。
いや、笑みだけじゃない。おじさん自体が怪しいのだ。
高そうなスーツや腕時計、クリスタルのメガネ、ちょび髭、話っぷりどこもかしこも普通とは違うオーラを発していた。
「ふふふ、何かお探しのようですねぇ。きっとお役に立てる良いお話があるのですが」
「良い話とは?」
「それは私についてこられたらお話いたします。その方が説明もしやすくなりますので」
少し迷ったが以前のように怯える必要はない。別に怪しい人間だったらその場で斬り捨てれば良い話だ。
「わかった。話は少し伺おう」
「ありがとうございます、ではこちらへ」
そう言われて細く狭い道、舗装されてない道を通って、ひとけのない場所に連れ込まれた。
「ここでございます」
汚らしい路地に店が一軒 隠れるようにあった。
「どうぞお入りください」
「ここは?」
「実はわたくし、奴隷商をやっておりましてきっとお客様のご期待に添えるんじゃないかと思ったのですよ」
そうか、そういうことだったのか。どおりで流れがスムーズだった訳だ。
「いつからつけていた?」
「なんのことです?」
「とぼけないで欲しい。俺が呟いた時にぴったり奴隷を勧めてきただろ。あれはいつからつけていた?そもそも仲間が欲しいこともいつから知っていた?俺はつまらん隠し事をされるのは嫌いだ」
タクトは強気で出る。こんなに自分は強気になれたんだって自分で感心した。実力があるのとないのでは態度も変わってくるな。人間は相変わらず怖いのだが。
「それは申し訳ございません。実はギルドの方と提携しておりまして、Sランクの方が新しく入ったり昇格されたりした時にこちらに通知が来ることになっているのですよ。タクト様もソロだと聞きましたしチャンスと思って情報を買わせていただきました」
「そうだったのか」
それにしても怖いな。奴隷商に個人情報渡すとか。
「お金、地位を手にすると人は変わりますから」
「まあそれは否定しない」
奴隷商と話をしながら奥へ進んでいく。
「どんなのを売ってるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。戦闘ですとこの巨人族が非常によろしいかと。ステータスはこちらになります」
「レベル78か。巨人族だしHPとパワーは抜群に高いな」
「通常のクエストなら難なくこなしてくれます。今後ご主人様はクエストに行く必要はなくなり、一生遊んで暮らせるでしょう」
「それは良いな。値段は?」
「1億ブロベリーです」
「買えないのわかっていってるだろ」
「ええ、もちろんSランクなりたての今では買えるとは思っていませんが、私の見込みですと貴方様は将来大成功を収められるお方。長期的関係を築いて行きたいと思っておりますゆえ紹介させていただきました。これは私のところでは最高の奴隷です。いろいろ探してもこれほど強い怪物奴隷はいないでしょう」
「口がお上手だねぇ」
「お褒めに預かりわたくし感激でございます」
奴隷商はニコニコ顔のままゆっくりと歩き出した。
「どんな奴隷をお望みで?」
「とにかく従順で裏切らなさそうなやつがいい」
「ホッホッホ、奴隷は裏切りませんゆえ心配は入りません。予算は?性別は?」
「予算は100万だ。性別はどっちでもいいな。いろいろな奴隷を見て決めたい」
「しかし100万となりますと少し奴隷の質は落ちますがよろしいですか?」
「ああ、構わない」
「そうでございますか、では一番奥へご案内します」
そう言われ、奥へ行くと、小さな檻の中に奴隷たちが入っていた。見るからに奇妙なやつから普通そうなやつまで様々だった。しかしこれまでとは空気が全然違う。沈んだ空気の中、皆がこちらをみている。
「少し臭うな」
「申し訳ありません。しかしここにいるのは欠陥が何かしらあるものたちばかり。いわゆるアウトレット商品のようなものです。気にいるものがおりましたらぜひお声掛けください」
そう言い、彼はタクトの隣で一緒に奴隷をみている。なんか呑気に寝ている少女がいるな。でもよくみるとガリガリで栄養状態も良くないように見えた。
「こいつは?」
「そいつは前の主人が飼っている頃に突然餌を食べなくなってしまったそうなのですよ。そのせいでガリガリに痩せ細ってしまいました。少し前までは容姿も悪くなかっただけに残念ですねぇ」
「前の主人ってのはどんな奴だったんだ?」
「たいそう人に厳しい富豪の奥様だったらしいですな。わたくしも対面して少しばかり恐怖を覚えました」
「あんたは恐怖なんか感じなさそうだけどな」
「よくおわかりで。そして交渉の後引き取ったのですがよほどショックが大きかったようでずっと食べないままで。失敗だったんですかねぇ」
「奴隷にはもっと厳しかったというわけか」
「それは容易に想像できそうな方でいらっしゃいましたねぇ」
そんなにショックを受けた人間の心がこんな荒んだ場所で治るわけがないと思った。自分がパーティでいじめられてた頃を思い出す。ザイツに誰も逆らえなかった。彼女もそんな思いをしたんじゃなかろうか。
「こいつにする」
「え?よろしいのですか?」
「ああ、こいつに決めた。いくらだ?」
「50万でございます」
「ずいぶん安いな」
「それはこの体と様子を見ればおわかりいただけると思います。では私は契約の道具をとってまいります」
奴隷商は隠し扉から中に入って道具を取りにいった。その間に少しだけ話しかけることにした。
「名前は?」
「…」
彼女は今にも崩れそうな正座に座り直してこちらをチラッとみたがむせてしまう。
ーーゴホッ、ゲホッ
ーー名前は!?
店全体に響き渡るくらい大きな声で奴隷商が圧力をかける。おっさん、こんな大きな声が出たのか。やっぱただもんじゃねえな。びくんと跳ねたあと、彼女は怯えながら答えた。
「メディ…」
「では奴隷契約に移行しますがよろしいですかな?」
「ああ、頼む」
奴隷契約自体は簡単なものだ。彼は筆で彼女の胸に何やら紋章を書いた。
「この紋章にご主人様の指を当てれば契約完了でございます」
奴隷商の言う通りにすると刻印が怪しく光った。
「これで契約完了でございます。彼女は貴方に従順な奴隷となりました。貴方様に歯向かおうとするならすぐにこの刻印がそれを阻むでしょう。彼女にもう何をしようとも貴方様の自由でございます。奴隷の人権は主人のものであるとこの国では定められていますからねぇ」
それを聞いて俺は満足した。これで彼女は絶対裏切らない仲間だと言うことだ。
「ん?服は頼んでいないが」
「サービスでございます。簡素ではありますが、ボロボロだと街を歩きにくいでしょうから」
「そうか、助かる」
「いえいえ、いずれは長い付き合いになるでしょうから。それはさておき、いかがですかな?初めて奴隷を持った感想は」
「いい気分だな。商品には満足している。良い買い物だったと言える時が来るといいが」
「ありがとうございます。わたくしも次に繋がる良い売買となる事を願っております。では今後ともごひいきによろしくお願いしますよ」
タクトはメディを連れて奴隷商と別れた。