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固有スキル『倍増』の勘違い

「タクトさん、22歳ね。ご職業は?」

「無職です」

「前回の職業は?」

「魔術師として荷運びをしていました」

「荷運びね。今回はどんなご用件で?」

「Fランクで受けられる仕事を探しに来ました」

「Fランクですね、少々お待ちください」


タクトは隣街のギルドで仕事を探していた。Fランクで受けられる仕事が少ないのは知っていたがもう他に出来ることもなく、一縷の望みをかけて相談した。


少しすると受付の人が戻ってきた。


「申し訳ありませんが今はFランクで受けられる仕事はありません。パーティをあと3人集めればEランクのクエストを受けることもできますが…」


終わった。もうまともに稼ぐ道もない。今の人間不信になっている状態のままパーティを組むなんて無理だ。


「大丈夫です。ありがとうございました」


そう言って店を出た。トボトボと街中を歩いているといつも気にしていなかった光景がたくさん目に入る。


「ちゃんと働けや、オラッ!」

「きゃあ!」


倉庫の前で少女が蹴られていた。が、今は自分のことで精一杯だ。自分はFランクだし細マッチョを止められる自信もなかった。


かたや反対側を見ると煌びやかな服装を見に纏った少女が親に服をせびっていた。


「ねえねえ、これ買ってよ〜。この服もう飽きた〜」

「しょうがないわね〜」

「やった!ありがと〜、ママ大好き!」

「調子の良いこと」


タクトは思った。この子たちの差はどこでついたのだろうか。生まれだけで決まっているんだろうか。くそ、俺も生まれつきこんなスキルがなければ経験値を奪われることなく、今頃高ランクの場所でレベル上げにいそしんでるだろうに。何がSSSランクだ。使えないスキルのくせに。倍増はパラメータを2倍にすることしかできないくせに。変身はゴブリンにしか変身できないくせに。タクトは自分のステータスを改めて見た。


 Lv 6

 名前 レヴィン・タクト

 年齢 22歳

 性別 男

 種族 人

 職業 魔術師

 ランク F


 スキル 

 倍増(固有) 【Lv1】

 変身(固有)【Lv1】


以上だ。弱すぎてそもそも戦闘で得られる経験値が少ない上に固有スキルに経験値を吸収される。固有スキルは持っているだけでも十分珍しいがそれを2つ持っている上、さらにSSSランクともなると吸収率が高くなり、2つ合わせると合計98%になる。さらにSSSランクなだけあって経験値を注ぎ込んでもちっともレベルが上がらないから未だにレベルは1だ。いつまでレベル1なんだよ、ほとんど経験値を吸収しているくせに。悔しい。生まれつき面倒なものを持っているだけでこんなに救いようがなくなるなんて。


タクトは自分自身に怒りを覚え、憂さ晴らしをしようとフィールドに出た。スライムやらバルーンやらが出てくる。殴れば一撃で倒れるような相手を殴り続けた。


「うおおおおぉぉぉ!!クソォッ!クソォッ!なぜ俺だけレベルが上がらないんだ!こんな使えねぇSSSランクスキルなんかいらねぇんだよこの野郎!」


ーーベチャ!パチン!


しばらく殴り続けた。一撃で弾け飛ぶのを見るのは爽快だ。しかし現実は変わらない。その2つの間を行き来して暴れて落ち着いて暴れて落ち着いて…を繰り返していた。



*ーーーー*



どれくらい経っただろうか。繰り返し暴れていたら少しは冷静になったようだ。それに見たことが無いくらい森の奥まで来ている。と、そこで不穏な音に気付いた。後ろを振り向くとラージホーンがいた。どうやらFランクの集まる安全地帯とは別のところへいつの間にか来てしまったようだ。レベル6だとどう足掻いても勝てない相手だ。目が合った瞬間、背筋が凍りついた。ラージホーンの魔物ランクはAランク。レベル70くらいでちょうど互角に戦えるくらいの強さだ。


「お、おい、お前、ここは見逃してくれ、頼むよ」


タクトは必死にモンスターに懇願した。しかしゆっくりとモンスターは近づいてくる。絶対やられると思ったタクトは逃げ出した。


ラージホーンがすかさず追いかけてくる。Aランクなだけあってグングン迫ってくる。


「やめてくれよ、まだ死にたくないんだよぉ〜」


一人で泣き言を言いながら逃げていると後ろから凄い音がした。


ーードンッ!!メキメキメキ、ドサッ


どうやらラージホーンが森の木にぶつかったようだ。


「やったか!?」


タクトは足を止め、後ろの様子を見に行くとラージホーンが起き上がるのが見えた。


「オオオォォォーーーン!!」


ラージホーンは雄叫びを上げ、再び突進してくる。


「うわあああぁぁぁ!!はあっはあっ」


タクトは必死に逃げる。


ーードォン!メキメキ、ドサッ、ドォン!メキメキ、ドサッ


ラージホーンは木の根っこに頭をぶつけながらも猛突進してくる。


数分が何時間にも感じられた。しばらく走ると森を抜け、街の前に出た。


「しまった、木がない!追いつかれる!」


そう思った矢先、少し先に大きな井戸があることに気づいた。


「くそ、一か八か…」


タクトは井戸のそばに駆け寄り、目の前に立ちはだかった。


ーードドッドドッドドッ


規則正しい音。猛然とこっちへ向かってきている。


「確実に一発で落とさないといけない。あの速さなら井戸との距離はこれくらいだろうか」


手前で踏みとどまられてもいけないし飛び越えられてもいけない。


「オオオォォォーン!!」

「今だ!」


手前で躱す。


ーーズザザザザー


ラージホーンは頭から井戸の中に突っ込んだ。しかし体が大きすぎたせいか後ろ足が一本突っかかっている。このままじゃ出てくるんじゃないかと思い、タクトは恐怖した。


「死ねッ死ねーッ!!最初からAランクのヤツに万年Fランクの気持ちは所詮分からねーんだよ!!」


タクトはラージホーンの片足を上に持ち上げながら中に押し込んだ。


ーーヒューン、ジャボーン、ブクブクブク


「はあっはあっはあっ」


何とか中に押し込んだ。FランクがAランクを見事に倒したのだ。しかし達成感など皆無。今日もレベルは上がらない。あるのは世の中に対する怒りと以前のパーティ仲間、幼馴染への恨み、憎しみとどうしようもない疲労だった。怒りは湧いてくるのに気力がない。何がどうなっても所詮はFランクなのだ。


「ザイツだったらこんなやつ一撃で斬り伏せるんだろうな」


悔しかった。比べてもしょうがないほど遠く及ばない相手だということが今頃になってひしひしと感じる。

完全に負け犬だと思った。悔しいけどやり返せない。勝てない。勝てる気がしない。今は世の中のどんな奴よりも弱い自信があった。


「クソォ…...俺もザイツみたいに強かったら…」


いろいろ考えているうちに寝てしまった。



*ーーーー*



次の日、起きてみると異変に気付いた。

報告が10件もきている。


《報告:固有スキル『変身』がL v 2 になりました》


《報告:固有スキル『倍増』がL v 2 になりました》


《報告:固有スキル『倍増』の効果でタクトはL v 1 2 になりました》


《報告:固有スキル『倍増』の効果で経験値が2倍になりました》


《報告:タクトはL v 2 0 になりました》


《報告:固有スキル『倍増』の効果で全てのパラメータが2倍になりました》


《報告:固有スキル『倍増』が『4倍増』になりました》


《報告:固有スキル『倍増』の効果で固有スキル『変身』がL v 4 になりました》


《報告:固有スキル『倍増』が L v 2 になった効果により、以降獲得する経験値に固有スキル『4倍増』が適用されるようになりました》


《報告:固有スキル『変身』のレベルアップにより、『植物クラス』、『小動物クラス』、『ドラゴンクラス』に変身可能になりました》


「ファッ!?」

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