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不穏な音

「ホント、あの人は大きいわねぇ。人間なのかしら」

「中身は人の形をしたモンスターって噂もあるそうよ」

「イヤよねぇ。昔の言い伝えでもある集落が一つのモンスターによって滅ぼされたことがあるって聞くし」

「でも怖くて声かけれないわ」


カミラと一緒に夕日が照らすベンチに座りながらくつろいでいると周りからそんな声が聞こえてくる。


「あんまり歓迎されてないみたいだな」


カミラは寂しそうに呟く。


「ああ。でもちゃんとしてれば、時間はかかるかもしれないがそのうち分かってもらえるんじゃないか?」

「そのうち、か。結局魔王様には分かってもらえなかったな。戦争など悲しみしか生まないということを」


遠くを見つめながらそういう彼女の声は、巨体と鋼鉄の鎧に似合わない、小さな儚げな声だった。


「その侵攻反対するって言いだしたのはカミラなのか?それともルーシーが?」

「最初は私だ。勇者撃退の功を受けて当時魔王の信頼が高かった私は魔王が眠る直前にルーシーの子守役の命を受けた。私はルーシーの子守役をやりながら領土拡張戦争もやっていた」

「そう言えば魔王ってなんで眠ったんだ?」

「魔族の子供をたくさん産んだからだ。魔王は子供を産むと数日で眠る」

「どれくらい産むんだ?」

「大体100体くらいか」

「多スギィ!」

「だから出産間近になると魔王のお腹はパンパンに膨れ上がるぞ」


そうだったのか。

しかし産まれてきた子供たちと一緒に過ごせないのはちょっと寂しいな。


「魔王はその中でも特別だ。他の魔族とは一線を画す」

「どんな点が違うんだ?」

「まず固有スキルに魔王候補が出ていなければ魔王になることはできない。その中から現魔王が継承をすると新たな魔王が誕生する」

「予めスキルを持ってないとなれないってことか」

「そうだ。ルーシー様は魔王様の第一子で、魔王候補を持っていたし基本ステータスも高く、魔法適性もあったため後継者として非常に期待されていた」


ルーシーは魔王になることを期待されてたんだな。

しかしそれがなぜ追放されたんだ?


「そこで十年くらい立った頃だろうか。ルーシー様にも自我が芽生え始めた頃、私は彼女にものの考え方、価値観を教える立場となった」


まあそりゃ魔族にも考えはあるよな。


「彼女は優れた戦闘力、知恵を有し、誰もが次期魔王になると思っていた。魔族と人間のパワー差は歴然だ。もし彼女が魔王として全勢力を握り、領土を侵攻していけば私も国を統一できると思った。だから私は魔王代理のルーシー様の命令されるがままに人を斬って、斬って、斬りまくった。気がつくと人間を見つけたら斬るだけの単純作業になっていた。そして単純作業になったが故に斬るだけの行為に意味を感じられなくなったのだ」


「疑問に思っちゃったんだな。あまりに単純すぎて」

「ああ。そもそも侵攻すら意味があるのかと考えるようになってしまった。そこである時、ルーシー様と一緒に、占領具合をチェックをしがてらお出掛けにある一つの村に行ったことがあるんだ」

「どんな村だ?」

「素朴な村さ。私らはただ風景を眺めにきただけだったから完全にピクニック気分だった。しかし村に入ろうとした途端に、子供が出てきて石を投げられた。そしてこう言うんだ。『お父さんとお母さんを返せー!』ってね」


そりゃ親しい人を殺された人はそう言う感情を抱くだろうな。


「石なんか投げても仕方ないのに」

「でも投げずにはいられなかったんだろうな。私は知らなかった。斬れば斬られる人がいることを。そして斬られた人の周りの悲しみを。何も考えずに命令されることだけ考え、実行していた。だが自分に置き換えて考えてみれば当たり前だ。私はそんなことにすら気づけない自分が腹立たしかった」

「そこでカミラが戦争はやめようと提案したのか」

「そうだ。一緒に見ていたルーシー様もお悩みになられたが私がずっと説得した甲斐があって共感してくださったのだ。その後、ルーシー様は各占領地からの撤退をご命令なされた。だからその間、この世界は今、人間中心に回っている」

「じゃあ俺たち人間はカミラとルーシーには感謝しなくちゃな。そうじゃなければこんな自由に旅なんかできなかったと思うし」

「ああ。すごいだろ。もっと感謝していいぞ」

「そこで自慢しなければもっといい話になったのに」


俺たちは2人で笑い合う。


「で、魔王が起きたときに現状の責任を問われて、何度も説得したんだが聞いてもらえなくて、ついに追放されてしまったというわけさ」

「そうか……」


沈黙が少しの間流れる。

カミラは仮面をつけていて顔は見えなかったが悔しそうな顔をしている気がした。


「でも大丈夫だと思うぜ。その考えを持ち続けて行動してればきっと周りも分かってくれるよ」

「だといいんだがな」


俺はベンチを立ち上がる。


「さてと、日も沈んできたしそろそろ宿に戻ろうか」

「ああ」


カミラもベンチを立ち上がった時だった。


ーーゴーン、ゴーン、ゴーン……


ーーザワザワザワ……


ーーワアアアアアア!


「な、なんだ?」

「わからないが向こうのほうから音がする」


鐘のような音と歓声が聞こえた。

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