箱から出てきた女の子
「やれやれ、やってくれましたね」
「カミラ将軍!」
宝箱から出てきた少女は叫んでカミラ将軍と呼ばれたボスモンスターの元に駆け寄る。
「人間、これはどういうつもりだ。まさか情報が回って殺してこいとの命令か?」
カミラ将軍は警戒した様子で少女を庇うように後ろへやる。
情報?殺す?裏事情が読めないな。
タクトもカミラ将軍の言葉に応える。
「情報と言われてもわからん。殺すとあなたは言ったが女の子を殺すつもりはない。だがあなたを殺すのはモンスターだから当然だろう。やらなきゃやられる世界だ」
「ふん。では貴様は何も知らないと?」
「ああ、そうだな。何が何だかさっぱりだ。宝箱の中に少女が入ってるなんて、俺の方が何が起こったのか聞きたいよ」
「そうか。なら良い。ルーシー様、行きましょう」
カミラ将軍はそのまま立ち去ろうとする。
「ちょっと待て。あなたを逃すわけにはいかない。クエストでこのダンジョンのモンスターを一掃しろって出てるんでな」
「その中に私も入っていると?」
「当然だ。人間のような見た目だがその巨大な身体とその周りから出てる黒いオーラ。どうみても人間じゃない」
カミラ将軍は黒い分厚く重そうな鎧を全身に身に纏い、顔には黒い鉄仮面を被っていた。それに加えて体が大きい。2.5メートルくらいあるんじゃないだろうか。
「ま、それもそうだな。だが私は正確にはモンスターではない。だから対象外だな」
「ではあなたは何者なんだ」
「私は魔族だ」
「それならモンスターと同じようなものだ。どちらにせよ生かしておけばまたここはモンスターの生息地になるだるう」
「ほう、なら挑んでみるか?魔王軍四天王の一角であるこの私に」
その時アイリが突然なにか思い出したように声を上げる。
「そういえばカミラって聞いたことがあります!確かその時代最強にして伝説の勇者ロオトが挑んで敗れ去った相手もその名前だったはず!黒く厚い鎧……間違いないわ」
「その通りだ。確かあれは300年前の話だったな。今はさらにレベルアップしているぞ」
そういうことか。だがそれならなぜ挑んで来ず余計な牽制を入れるんだ?
魔族にとって人間は害悪でしかないはず。
加えて人類に勝てる自信を以前身につけているのなら今すぐ切りかかってもおかしくなかった。
「ではなぜ今すぐ斬って来ないんだ?」
「お望みなら今すぐ斬ってやろう」
カミラ将軍は毅然として薙刀を構えたままだ。
タクトたちも構える。
タクトはこれから戦闘が始まると心したその時、少女がタクトたちとカミラ将軍の間に入って止めた。
「やめて!カミラ将軍を殺さないで!」
「ルーシー様、ご心配には及びません。人間如きに負けるほど私も落ちぶれてはいません」
「そ、そんなのわからないわ!今の時代人間がどのくらいのレベルなのか全くわからないじゃない!」
「人間如き、どれほど力をつけたところで決して私に対抗できる強さにはなり得ません。……お下がりください、ルーシー様」
そういうとカミラ将軍は薙刀を振りかぶり襲いかかってきた。
「2人とも下がれ!」
タクトも2人を下がらせる。
カミラ将軍から振り下ろされた薙刀をタクトは正面から受け止める。
ーーガキィィン!
その瞬間、タクトは後ろに吹き飛ばされた。
「うわっ!?」
すかさず追撃が来る。
「くらえ!」
カミラ将軍は薙刀を大振りして決めに来るがなんとか空中で受け身をとって避ける。
そのまま俺は地面に着地して剣を構え直す。
「なんだったんだ?今の一撃は。しっかり受けたつもりだったのに弾き飛ばされた……?」
パラメータで負けるってことはないはずだ。なのになぜ……。
タクトはそう思いながら次の攻撃に備えていたが少女の叫び声によって戦闘は中止になってしまう。
「やめてー!」
「ル、ルーシー様……!」
どうやら少女の名前はルーシーというようだ。
「人間の方々もやめてください!ボクたちは人間たちと争うつもりはないんです!」
ルーシーはそう言って再びタクトとカミラ将軍の間に立ち塞がる。
よく状況は飲み込めないがどうやら彼女は私たちに訴えたいことがあるそうだ。
「名前はルーシーちゃんでいいのか?」
「はい。私たちは争うつもりは全くないんです。ですから一旦武器を置いて話を聞いていただけませんか?」
少女がそういうとカミラ将軍も大人しく後ろで待機している。
このまま戦えば正直どっちが勝つかわからないし一度話を聞くだけ聞いてみればいいかもしれない。
「わかった、話は聞くだけ聞いてみよう」
それを聞いた途端、ルーシーのそれまで泣き顔で訴えかけていた顔がぱあっと明るい笑顔に変わる。
「ありがとうございます!」
「ただし話を聞く上で約束してほしいことがある」
「なんですか?」
「二度とこのダンジョンに戻らないでほしい。俺たちも一応依頼を受注した身なのでクエスト完了したはずなのにダンジョンにモンスターがいると困るんですよ」
「わかりました。それならOKです!」
ルーシーは快諾する。
しかしカミラ将軍は反対のようだ。
「ルーシー様!ここのダンジョンに住めないとなると私たちはいったいどこに住めばよろしいのですか!?」
「そ、それは……地上のどこかに。きっとどっかに住める場所はあると思うから、一緒に探そう?」
「もしなかったら!?私たちは魔族なのですよ!きっとそれを知っただけで人間は私たちを追い出そうとするはずです」
「もしなければ森の中で野宿でもしましょう」
「そ、そんな……」
なんだろう。魔族には魔族の裏事情があるんだろうか?
「って言ってるけど2人はどう思います?」
「話だけはとりあえず聞いてみましょうよ」
「そうですね。いろいろ彼女らにも事情があるんでしょうし」
「ありがとうございます!」
「じゃあとりあえずこのダンジョンは出ようか」
メディとアイリも納得してくれたのでタクトたちとルーシーたちはダンジョンを出ることにした。
*ーーーー*
俺たちは村に入った。
村の人々はカミラをみて怖がっている。
「な、何あの巨体?」
「なんか黒いオーラ出てるんだけど」
「まさかモンスターじゃないよね?」
それを聞いたカミラは疑い始めた。
「まさか人間の街におびき寄せて集団で殺しにかかるつもりか!?」
「ボクはそれはないと思う。だってカミラ将軍を見る人たちの目、予想外のものを見てる目だもん。きっとここに来ることも知らなかったんだよ」
「そうですか……。なら良いのですが……」
そんなやりとりを横目に宿屋の看板のついた建物に入ろうとするとカミラが不満を言い始める。
「この建物に入るのか?少々私には小さすぎるのだが」
「すまないな。人間が泊まることしか想定してないだろうから。頭をぶつけないように気をつけて入ってくれ」
カミラはドアの上枠をかいくぐって中に入る。
「いらっしゃい……ませ」
やはりあまり歓迎されてないようだった。
カミラのただならぬ気配を察知したのか店番している女性は申し訳なさそうに頭を下げる。
「できるだけ大きい部屋に案内してくれ」
「申し訳ありません、モンスターを宿泊させることはできません」
「そこをなんとか頼めませんか?少しくらいならお金も余分に払いますし、危害を加えるようなことはないと約束します。だよな、カミラ将軍」
「ああ。人間と争うつもりはないから安心してくれ」
「そう言われましても……」
鉄仮面が彼女の顔を覗き込む。
「わ、わかりました。ではお部屋をご用意しますので少々お待ちください」
渋々店番の女性は部屋を確認して案内する。
「こちらになります」
「ああ、ありがとう」
タクトたちは部屋に入った。
「ふ〜、なんとか泊めてもらえたな」
「ああ。なんとかなったな」
タクトとカミラはひとまず安心する。
「で、早速本題なんだが」
タクトは話を切り出す。
「魔族が人間と争うつもりはないとはどういうことだ?」
ルーシーが答える。
「待ってください、ボクたちが争うつもりはありませんが魔王は今世界を支配しようと力を蓄えています」
「どういうことだ?なぜ魔王の支配下の将軍が争う気がなくて魔王は争う気満々なんだ?」
「それはボクたちが魔王勢力と決別したからです」
「魔王勢力と決別?じゃあもうカミラ将軍は将軍をやめたのか?」
「ええ、カミラ将軍はもうすでに将軍をやめています」
「ああ、だからもうカミラ将軍じゃなくカミラでいいぞ」
カミラは苦笑いしながら言う。
「じゃあルーシーは何をやってたんだ?カミラに慕われているように見えたが」
「ルーシー様、これは伏せておいた方がよろしいかと」
「いいや、相手に信用してもらうには多少危険でもこちらから手の内を明かすべきだよ」
一呼吸おいて覚悟を決めたルーシーははっきりと言う。
「ボクは魔王の娘です!」
『え、えええぇぇぇ!?』
一同驚いてしまう。
タクトの頭にはたくさん疑問が浮かんで口が一つじゃ足りない。
「なんで魔王の娘がここにいるんだ?そもそもなぜ魔王と疎遠になっちゃったんだ?なんで人間と仲良くしようと思ったんだ?」
「それはですね……」
彼女の話を要約するとこうだ。
彼女は魔王の娘で魔王は彼女が次期魔王になることを期待していた。
しかし彼女自身は人間と仲良くできるんじゃないかと言う考えを持っており、布教活動をしすぎてしまい、魔王から煙たがられて魔王城から追放されてしまったようだ。
そして彼女が追放されると同時にカミラも一緒に追放されてしまったらしい。
理由はルーシーといつも一緒に布教活動をしていたからと言うことだった。
しかしカミラはそこについてはそんなに気にしていないようだった。
「まあ私も以前から魔王城の奴らは気に入らなかったから丁度良かったんだ。よく『ククク……奴は四天王の中でも最弱』って馬鹿にされてたしな。実践積んだことないくせに。おかげで最前線で将軍として昔の勇者と戦ったのは私だけだ」
何やら愚痴のようなことをブツブツ言っている。
「じゃあダンジョンにいたのは住む場所がなかったからか?」
「はい、そうです。それにダンジョンの中は強いモンスターを入れておけば容易に人間も近づくことはできませんから安全なんです」
「なるほどな」
ある程度事情は理解した。
「タクトさんたちは何されてるんですか?」
「俺たちは帝国目指しながら旅してるんだ」
「帝国目指している理由はなんですか?」
「居場所探しみたいな感じかな。高単価のSランククエストが豊富にあって儲かりやすいとか聞くし。あとは自分のこの力がどれくらい強いのか知りたくなった」
「それはいいですね!ボクたちもあのダンジョンに入れないとなると居場所がもうないんですよ」
「ああ、そうだな」
「そこでお願いがあります」
ルーシーが改めて俺と向き合い、姿勢を正したのちに頭を下げた。
「ボクたちも居場所が見つかるまで一緒に旅させてもらえませんか?」
「私の方からも頼む。もうあそこ以外に私たちには居場所がないんだ。私にできるお礼ならなんでもする」
カミラも鉄仮面をとって頭を下げる。
身体はデカいが中の顔は人間の女性だ。頭に角が生えているのを除けば。
少々野性的な風貌だが俺的には割と好みかもな。
「今なんでもするって言ったよね?」
「ああ。私にできることならな」
いろんなシミュレーションをする。
まあ一緒に行くこと自体は問題ない。
このクエストで金はしっかり入る予定だ。
馬車は少し改造して大きくする必要があるかもな。
あと気になることといえば彼女からしてもらえることとはなんだろうか。
戦闘ではあまり困ってないし調理も二人で十分だ。
あと残ることと言ったら……ヘッヘッヘ。
「ご主人様?顔がにやけていますよ」
「タクト君は何を考えたのかしらね。なんかここが盛り上がってるみたいですけど」
そう言ってアイリは俺の股間を指差す。
「あ、いや、これは......生理現象だよ。男にはよくわからないけど大きくなっちゃうことがあるんだよ」
「え〜、聞いたことないですけど」
アイリはジト目でタクトの股間を見る。
タクトは恥ずかしくなって股間を両手で押さえる。
「タクト君も男の子ってことね」
大人な感じに流されてさらに恥ずかしい。
「そういう目で見られるのは心外だ」
カミラからも批判を浴びてしまう。
「皆さん、股間のことは置いといてルーシーさんたちとしばらく旅をすることに話を戻しましょう」
メディが助け舟を出してくれる。神。
「そ、そうだな。それはともかく彼女たちを受け入れることに反対な人は?」
じっと周りを見渡してみるが誰も手をあげる人はいなかった。
「よし、じゃあしばらくの間、よろしく頼むな。2人とも」
「はい!よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
こうして2人がパーティに加わることになった。